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22. 薬草を買ってもらえないソフィア達
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(カラシン視点)
夕食を食べに宿の食堂に行くと閑散としている。以前来た時は賑わっていたのに何かあったのだろうか。料理を運んできた顔馴染みの中年の女給に「今日はえらく人が少ないんだな。」と聞いてみると、
「あれ、お客さんたちは知らないんかね。」
と思わせぶりに言う。銀貨を1枚握らせると話を聞かせてくれた。数日前にオーガキングが魔族の長達と共に領主の城に乗り込み、魔族の国の独立宣言を行ったらしい。なんとドラゴンに乗って来たそうだ。そのため戦争になるという噂が一気に広まり、魔族の国に近いこの町に来る旅人が激減して、宿は閑古鳥が鳴いているとのこと。
そういえば、近々独立宣言があるとトクスが言っていたな。しかし、ドラゴンで城に乗り付けるとは派手にやったものだ。オーガキングから戦争を仕掛けることは無いだろうから、問題は人間の軍隊がどう動くかだよな。
「それとね、奇妙な噂があるんですよ。オーガキングにソランディーヌ様が同行されていたという噂なんですけどね。」
「ソランディーヌ様って、誰だい?」
「嫌ですよ、先の王様のお妃様じゃないですか。私は若い頃に王都で一度だけお顔を拝見したことがあるんですよ。王様との結婚式のパレードで、馬車から沿道で見ている私達に笑顔で手を振って下さってました。ちょうどそこのお嬢さんの様に金髪で青い目をされていてお綺麗な方でしたよ。」
「そうなんだ。でも先王様のお妃様がオーガキングと一緒に居るなんて、どういう訳だい?」
「そんなの分かりませんよ。噂でしかないですしね。」
「そうか、教えてくれてありがとう。」
「どういたしまして、ごゆっくり召し上がってくださいね。」
と言って女給は離れていった。オーガキングと先王の妃? 何とも奇妙というか、ありえない取り合わせだ。噂なんて当てにならないという典型だな。
翌朝、朝食を食べ終わった俺達は冒険者ギルドに向かった。まずは国の命令で行った開拓村の護衛任務の報酬を受け取るのだ。隊長がソフィアも護衛任務に就いていたとの証明書を渡してくれたから、ソフィアの分の報酬も問題なく受け取れるはずだ。もちろん、俺達が魔族の国の国民になったと知れたら報酬を受け取るどころか、冒険者としての身分をはく奪される恐れすらあるが、要はバレなければ良いのだ。国の命令で働いたのだ、たとえ他国民になったとしても報酬を受け取る権利はあると思う。加えて言えば、冒険者ギルドは多国籍組織で冒険者の国籍は問題にしない。人間の国ならばというのが条件だと主張されるかもしれないが、そんな事は冒険者の規則のどこにも書いていないと確信がある。何故なら今までは人間の国しかなかったのだから、必要ないのに書いてあるはずがない。
それと、ソフィアの冒険者カードを受け取ること。これも試験に合格したという証明書を隊長が発行してくれているから問題ないはずだ。冒険者カードは身分証替わりになるから持っておいて損はない。もうひとつ薬草を売却するという用事もあるが、買取りは別の窓口になるので後回しだ。
冒険者ギルドの建物に入ると、いつもは冒険者で溢れているホールにほとんど人影が無い。受付カウンターにも受付係がひとりいるだけだ。これは宿と同じかとピンと来た。戦争が起きる可能性があると聞いて、冒険者の多くがこの町から出て行ったのだ。この辺は一か所に定住することが少ない冒険者の利点でもある。冒険者ギルトがあるところならどこへ行っても依頼を受けることが出来るから、わざわざ命の危険を冒して戦争が始まるかもしれない場所に留まる必要が無いわけだ。
それに反して、ギルドの職員はここが職場だから、気軽に町を出ていくわけにいかない。低級冒険者から見ればあこがれの安定した職業であるが、こういう場合は可哀そうだなと思ってしまう。
いつもと違い列に並ぶことなく、受付カウンターに進む。受付の女性にケイトが、俺達の冒険者カードと隊長が書いてくれた証明書を示し、報酬の受け取りとソフィアの冒険者カードの発行を依頼する。このギルドには数年間通ったから、この受付係の女性とも顔馴染みだ。美人ではないが愛嬌のある顔をしていて笑顔が可愛い。お高く留まった奴が多い受付嬢の中で、例外的に俺達低級冒険者にも親切に接してくれた人だ。確か名前はマリアだ。
マリアは「少々お待ちください」と言って、カウンターの奥に引っ込んだ。たぶん確認作業があるのだろう。少し待たされたものの、戻って来た時には村の護衛に対する報酬の金貨7枚と銀貨80枚、それにソフィアの冒険者カードを渡してくれた。それに俺の冒険者クラスがDからCに昇級したと言う。おそらくオーガを3匹倒したことになっているからだろう。ケイトとマイケルに祝いの言葉を言われたが正直嬉しくない。俺が倒したわけじゃないからな。それとひとつ気になることがある。マリアが戻って来た時に男性がひとり付いて来てマリアの背後に立っているのだ。誰だろう? それに何だかマリアの表情が硬い。不審に思ったが用件は済んだので、薬草を売却するために買取専用のカウンターの方へ移動した。
買取カウンターの方も人気がない、俺達は列に並ぶことなくカウンターの前に行き誰も来なくて暇そうにしている買取担当の職員に、薬草の買取を依頼した。薬草は6種類、村から持って来た量の5分の1くらいずつ小分けして持って来た。だが、買取担当者は俺達の持って来た薬草を一目見るなり申し訳なさそうな顔をして言った。
「申し訳ないが、加工済みの薬草は買取できないんだ。俺達は買い取った薬草を薬種ギルドに転売しているんだが、加工済みの薬草は薬種ギルドが引き取ってくれないんだよ。」
「えっ、そうなんですか? でもどうして...。」
「奴らが言うには、素人が加工した薬草なんて信用できないと言う事らしい。まあ、本当のところは分からんがな。」
「そうなのね、教えてくれてありがとう。」
とケイトが言ってギルドを出ていく。俺達は急いで後を追った。
薬草販売の計画は一歩目から挫折したわけだ。その後、念のために3日ほどかけて町中の薬師の店や薬師ギルドに行って、薬草の販売を試みたが、薬師の店ではけんもほろろに断られ、薬師ギルドに至っては門番に中にいれてもらう事さえできなかった。薬師ギルドの建物に入れるのはギルド所属の薬師か許可書を持っている人だけらしい。念のために許可書を貰うにはどこに行けば良いか門番に尋ねてみたが、無視されてしまった。
「なあ、ケイト、そう気を落とすな。金儲けは別の方法を考えれば良いさ。」
「落ち込んでなんかいないわよ。なんか変だなと思って考えていたのよ。薬草の加工は手間がかかるけど、それほど難しいものじゃないわ。そりゃソフィアは魔法で乾燥や加熱をしていたけれど、それだって天日に干したり、鉄板の上で加熱したりしても良いんでしょう? 特殊技術じゃないのに、薬師ギルドが買い取らないなんて...。」
「ええ、俺の親父も薬草の加工をしてたっス。よくは覚えてないスけど俺も子供の時は手伝っていたっス。難しいものではないと思うっスよ。」
「そうよね。だったら理由はひとつ。薬師ギルドが薬草の加工を独占して、加工済みの薬草を高値で売る為よ。だから加工法は一般には知られてないのね。」
「儲けを独り占めしているわけか。その分、俺達は高い薬を買わされているわけだ。」
「そういう事ね、でもどうすれば良いのかしら。町での薬草の販売は諦めるしかないかな...。買ってくれないんじゃどうしようも無いわね。開拓村まで客が薬草を買いに来るのを待つしかない様ね。」
「でも、客は当面来ないぞ。人間の国が魔族の国の独立を認めて平和裏に交易が開始されるまでは無理だろう。人間達は魔族の国に行ったら殺されると思っているだろうからな。それまで収入無しでは生活出来ないから、何か金を儲ける方法を考えないと。」
「ソフィアの冒険者カードも手に入ったことだし、4人で冒険者の仕事をするのはありね。幸いこの町の冒険者はほとんど居なくなってしまった様だし、仕事は選び放題よ。頻繁には村に帰れなくなるのが難点だけど...。本当は今の内に魔族の人達と仲良くなって遠くの森まで薬草を採取に行ける様にしておきたいのよね。」
とケイトが言うと、珍しくソフィアが口を開いた。
「やくそうはうらない。くすりをうる。」
「薬? そうか、ソフィアなら薬を作れる。それも飛び切り上等の奴をね。薬なら販売先は薬種ギルドや薬師じゃない、一般の人達よ。薬師ギルトも止めることは出来ないわ。」
「でも、それって薬師ギルドを敵にまわすってことっスよね。」
「それは出来れば避けたいな、将来は俺達の大切なお客様になるかもしれないからな。ケイトもう一度ギルドに行くぞ。ギルドで薬を買ってもらえるか確認するんだ。ギルドでも冒険者に向けて薬を売っているよな。だったら当面は冒険者向けの薬を売ればいい。」
急いでギルドに向かい、相変わらず暇そうにしている買取カウンターの職員に尋ねる。
「こんにちは、済まないがひとつ教えてくれ。先日ここでは加工済みの薬草は買取出来ないと教えてもらったんだが、薬を売ることはできるか?」
俺の質問に職員は即答した。
「ああ、出来るぞ。薬は冒険者にとっては命綱だからな、薬の効果を正確に測定できる魔道具がある。だから誰が持ち込んだかに関わらず、効果に合わせた適正な値段で購入することが可能だ。実は最近薬師ギルドが卸していく薬の品質が下がってな、これでは今までと同じ料金は払えんと文句を言っているところさ。売りに来るなら拒みはせんよ。」
それを聞いたソフィアが、薬の入った小瓶を俺に手渡してきた。ソフィアの作った回復薬だ。最後の1本のはずだ。「いいのか?」と尋ねるおれに、「またつくる」と返事が返ってくる。だがしばらく考えた後、売るのは止めにした。
ギルドを出てからソフィアに回復薬を返す。
「ソフィア、ありがとうな。でもこの薬は効果があり過ぎて、これを売ったら俺達が注目を浴びてしまう。今の俺達の立場は微妙だからな、人間の国と魔族の国がお互いを認め合って仲良くなるまで目立たない方が良いと思う。だから売るとしても、もっと一般的な薬だ。ソフィアは回復薬以外も作れるか?」
「つくれる。」
と言ってからソフィアは薬の種類を列挙しだす。
「ねつをさげるくすり、いたみをとるくすり、おなかをこわしたときのくすり、かぜのくすり、つかれをとるくすり、よくねむれるくすり、きずにぬるくすり、ねんざやうちみにぬるくすり、ちからがつよくなるくすり、すばやくうごけるようになるくすり.....」
「分かった、それだけ作れれば十分だ。」
と途中で止めた。放って置いたらいくらでも薬の種類を挙げそうだ。最後の方にはとんでもない薬も混じってきたし。
その後はソフィアの提案で、今回持って来た6種類の薬草で作れる薬を宿で作り、もう一度ギルドに売りに行くことになった。
夕食を食べに宿の食堂に行くと閑散としている。以前来た時は賑わっていたのに何かあったのだろうか。料理を運んできた顔馴染みの中年の女給に「今日はえらく人が少ないんだな。」と聞いてみると、
「あれ、お客さんたちは知らないんかね。」
と思わせぶりに言う。銀貨を1枚握らせると話を聞かせてくれた。数日前にオーガキングが魔族の長達と共に領主の城に乗り込み、魔族の国の独立宣言を行ったらしい。なんとドラゴンに乗って来たそうだ。そのため戦争になるという噂が一気に広まり、魔族の国に近いこの町に来る旅人が激減して、宿は閑古鳥が鳴いているとのこと。
そういえば、近々独立宣言があるとトクスが言っていたな。しかし、ドラゴンで城に乗り付けるとは派手にやったものだ。オーガキングから戦争を仕掛けることは無いだろうから、問題は人間の軍隊がどう動くかだよな。
「それとね、奇妙な噂があるんですよ。オーガキングにソランディーヌ様が同行されていたという噂なんですけどね。」
「ソランディーヌ様って、誰だい?」
「嫌ですよ、先の王様のお妃様じゃないですか。私は若い頃に王都で一度だけお顔を拝見したことがあるんですよ。王様との結婚式のパレードで、馬車から沿道で見ている私達に笑顔で手を振って下さってました。ちょうどそこのお嬢さんの様に金髪で青い目をされていてお綺麗な方でしたよ。」
「そうなんだ。でも先王様のお妃様がオーガキングと一緒に居るなんて、どういう訳だい?」
「そんなの分かりませんよ。噂でしかないですしね。」
「そうか、教えてくれてありがとう。」
「どういたしまして、ごゆっくり召し上がってくださいね。」
と言って女給は離れていった。オーガキングと先王の妃? 何とも奇妙というか、ありえない取り合わせだ。噂なんて当てにならないという典型だな。
翌朝、朝食を食べ終わった俺達は冒険者ギルドに向かった。まずは国の命令で行った開拓村の護衛任務の報酬を受け取るのだ。隊長がソフィアも護衛任務に就いていたとの証明書を渡してくれたから、ソフィアの分の報酬も問題なく受け取れるはずだ。もちろん、俺達が魔族の国の国民になったと知れたら報酬を受け取るどころか、冒険者としての身分をはく奪される恐れすらあるが、要はバレなければ良いのだ。国の命令で働いたのだ、たとえ他国民になったとしても報酬を受け取る権利はあると思う。加えて言えば、冒険者ギルドは多国籍組織で冒険者の国籍は問題にしない。人間の国ならばというのが条件だと主張されるかもしれないが、そんな事は冒険者の規則のどこにも書いていないと確信がある。何故なら今までは人間の国しかなかったのだから、必要ないのに書いてあるはずがない。
それと、ソフィアの冒険者カードを受け取ること。これも試験に合格したという証明書を隊長が発行してくれているから問題ないはずだ。冒険者カードは身分証替わりになるから持っておいて損はない。もうひとつ薬草を売却するという用事もあるが、買取りは別の窓口になるので後回しだ。
冒険者ギルドの建物に入ると、いつもは冒険者で溢れているホールにほとんど人影が無い。受付カウンターにも受付係がひとりいるだけだ。これは宿と同じかとピンと来た。戦争が起きる可能性があると聞いて、冒険者の多くがこの町から出て行ったのだ。この辺は一か所に定住することが少ない冒険者の利点でもある。冒険者ギルトがあるところならどこへ行っても依頼を受けることが出来るから、わざわざ命の危険を冒して戦争が始まるかもしれない場所に留まる必要が無いわけだ。
それに反して、ギルドの職員はここが職場だから、気軽に町を出ていくわけにいかない。低級冒険者から見ればあこがれの安定した職業であるが、こういう場合は可哀そうだなと思ってしまう。
いつもと違い列に並ぶことなく、受付カウンターに進む。受付の女性にケイトが、俺達の冒険者カードと隊長が書いてくれた証明書を示し、報酬の受け取りとソフィアの冒険者カードの発行を依頼する。このギルドには数年間通ったから、この受付係の女性とも顔馴染みだ。美人ではないが愛嬌のある顔をしていて笑顔が可愛い。お高く留まった奴が多い受付嬢の中で、例外的に俺達低級冒険者にも親切に接してくれた人だ。確か名前はマリアだ。
マリアは「少々お待ちください」と言って、カウンターの奥に引っ込んだ。たぶん確認作業があるのだろう。少し待たされたものの、戻って来た時には村の護衛に対する報酬の金貨7枚と銀貨80枚、それにソフィアの冒険者カードを渡してくれた。それに俺の冒険者クラスがDからCに昇級したと言う。おそらくオーガを3匹倒したことになっているからだろう。ケイトとマイケルに祝いの言葉を言われたが正直嬉しくない。俺が倒したわけじゃないからな。それとひとつ気になることがある。マリアが戻って来た時に男性がひとり付いて来てマリアの背後に立っているのだ。誰だろう? それに何だかマリアの表情が硬い。不審に思ったが用件は済んだので、薬草を売却するために買取専用のカウンターの方へ移動した。
買取カウンターの方も人気がない、俺達は列に並ぶことなくカウンターの前に行き誰も来なくて暇そうにしている買取担当の職員に、薬草の買取を依頼した。薬草は6種類、村から持って来た量の5分の1くらいずつ小分けして持って来た。だが、買取担当者は俺達の持って来た薬草を一目見るなり申し訳なさそうな顔をして言った。
「申し訳ないが、加工済みの薬草は買取できないんだ。俺達は買い取った薬草を薬種ギルドに転売しているんだが、加工済みの薬草は薬種ギルドが引き取ってくれないんだよ。」
「えっ、そうなんですか? でもどうして...。」
「奴らが言うには、素人が加工した薬草なんて信用できないと言う事らしい。まあ、本当のところは分からんがな。」
「そうなのね、教えてくれてありがとう。」
とケイトが言ってギルドを出ていく。俺達は急いで後を追った。
薬草販売の計画は一歩目から挫折したわけだ。その後、念のために3日ほどかけて町中の薬師の店や薬師ギルドに行って、薬草の販売を試みたが、薬師の店ではけんもほろろに断られ、薬師ギルドに至っては門番に中にいれてもらう事さえできなかった。薬師ギルドの建物に入れるのはギルド所属の薬師か許可書を持っている人だけらしい。念のために許可書を貰うにはどこに行けば良いか門番に尋ねてみたが、無視されてしまった。
「なあ、ケイト、そう気を落とすな。金儲けは別の方法を考えれば良いさ。」
「落ち込んでなんかいないわよ。なんか変だなと思って考えていたのよ。薬草の加工は手間がかかるけど、それほど難しいものじゃないわ。そりゃソフィアは魔法で乾燥や加熱をしていたけれど、それだって天日に干したり、鉄板の上で加熱したりしても良いんでしょう? 特殊技術じゃないのに、薬師ギルドが買い取らないなんて...。」
「ええ、俺の親父も薬草の加工をしてたっス。よくは覚えてないスけど俺も子供の時は手伝っていたっス。難しいものではないと思うっスよ。」
「そうよね。だったら理由はひとつ。薬師ギルドが薬草の加工を独占して、加工済みの薬草を高値で売る為よ。だから加工法は一般には知られてないのね。」
「儲けを独り占めしているわけか。その分、俺達は高い薬を買わされているわけだ。」
「そういう事ね、でもどうすれば良いのかしら。町での薬草の販売は諦めるしかないかな...。買ってくれないんじゃどうしようも無いわね。開拓村まで客が薬草を買いに来るのを待つしかない様ね。」
「でも、客は当面来ないぞ。人間の国が魔族の国の独立を認めて平和裏に交易が開始されるまでは無理だろう。人間達は魔族の国に行ったら殺されると思っているだろうからな。それまで収入無しでは生活出来ないから、何か金を儲ける方法を考えないと。」
「ソフィアの冒険者カードも手に入ったことだし、4人で冒険者の仕事をするのはありね。幸いこの町の冒険者はほとんど居なくなってしまった様だし、仕事は選び放題よ。頻繁には村に帰れなくなるのが難点だけど...。本当は今の内に魔族の人達と仲良くなって遠くの森まで薬草を採取に行ける様にしておきたいのよね。」
とケイトが言うと、珍しくソフィアが口を開いた。
「やくそうはうらない。くすりをうる。」
「薬? そうか、ソフィアなら薬を作れる。それも飛び切り上等の奴をね。薬なら販売先は薬種ギルドや薬師じゃない、一般の人達よ。薬師ギルトも止めることは出来ないわ。」
「でも、それって薬師ギルドを敵にまわすってことっスよね。」
「それは出来れば避けたいな、将来は俺達の大切なお客様になるかもしれないからな。ケイトもう一度ギルドに行くぞ。ギルドで薬を買ってもらえるか確認するんだ。ギルドでも冒険者に向けて薬を売っているよな。だったら当面は冒険者向けの薬を売ればいい。」
急いでギルドに向かい、相変わらず暇そうにしている買取カウンターの職員に尋ねる。
「こんにちは、済まないがひとつ教えてくれ。先日ここでは加工済みの薬草は買取出来ないと教えてもらったんだが、薬を売ることはできるか?」
俺の質問に職員は即答した。
「ああ、出来るぞ。薬は冒険者にとっては命綱だからな、薬の効果を正確に測定できる魔道具がある。だから誰が持ち込んだかに関わらず、効果に合わせた適正な値段で購入することが可能だ。実は最近薬師ギルドが卸していく薬の品質が下がってな、これでは今までと同じ料金は払えんと文句を言っているところさ。売りに来るなら拒みはせんよ。」
それを聞いたソフィアが、薬の入った小瓶を俺に手渡してきた。ソフィアの作った回復薬だ。最後の1本のはずだ。「いいのか?」と尋ねるおれに、「またつくる」と返事が返ってくる。だがしばらく考えた後、売るのは止めにした。
ギルドを出てからソフィアに回復薬を返す。
「ソフィア、ありがとうな。でもこの薬は効果があり過ぎて、これを売ったら俺達が注目を浴びてしまう。今の俺達の立場は微妙だからな、人間の国と魔族の国がお互いを認め合って仲良くなるまで目立たない方が良いと思う。だから売るとしても、もっと一般的な薬だ。ソフィアは回復薬以外も作れるか?」
「つくれる。」
と言ってからソフィアは薬の種類を列挙しだす。
「ねつをさげるくすり、いたみをとるくすり、おなかをこわしたときのくすり、かぜのくすり、つかれをとるくすり、よくねむれるくすり、きずにぬるくすり、ねんざやうちみにぬるくすり、ちからがつよくなるくすり、すばやくうごけるようになるくすり.....」
「分かった、それだけ作れれば十分だ。」
と途中で止めた。放って置いたらいくらでも薬の種類を挙げそうだ。最後の方にはとんでもない薬も混じってきたし。
その後はソフィアの提案で、今回持って来た6種類の薬草で作れる薬を宿で作り、もう一度ギルドに売りに行くことになった。
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