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番外編1 藤堂陽介の身勝手な妄執
番外編1-1
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「おい!! どこ見て歩いてんだよ!! 謝れよ!」
大学へと向かう途中、乗り換え先の電車に乗るため、僕、藤堂陽介は足早に歩いていた。
すると誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。
誰もが我関せずとばかりに横を通り過ぎていく中、僕は興味を引かれ、さり気なく様子を伺うことにした。
「声が小さくて聞こえねぇんだよ!! ふざけてんのか!!」
怒鳴られている相手はどこかの高校の生徒らしく学生服を着ていた。
懸命に謝っているようだが、激高した相手にオドオドとした態度はより一層相手の怒りを増長させているようだった。
……対して面白い見世物でもなかったな。
ふいに興味を失い、視線を逸らすとそのまま歩きだした。
気の弱い高校生が、短気な大人を怒らせ、怒鳴られている。
ただそれだけの光景だった。
誰かが駅員を呼んだのか、仲裁に駆け寄って来る様子が見えた。
すぐに忘れてしまうようなつまらない日常の一コマ、とその時は思っていた。
しかし、後日、またもや同じような光景を目にすることとなった。
今度は駅ではなく、近くのコンビニで。
気の弱い高校生の彼だけは役が変わらず、短気な大人は不良少年に。
仲裁する駅員はコンビニ店員に代わり、それぞれの役割を演じているかのように既視感を覚える場面だった。
……ああ、傍観者の僕も、変わっていないか。
彼はトラブルを引き起こす何かを発しているのだろうか?
僕は商品を手に取って物色してるように見せかけ、彼らの様子を伺っていた。
暫くすると、トラブルは収拾に向かったようで、不良少年は捨て台詞を吐いてコンビニから出て行った。
その後、店員に何か話かけられている高校生の彼は首を振って答えていた。
どこにでもいる気の弱い少年……いや、青年か?
少年と青年の境目にいるような彼は、何故こんなにもトラブルに巻き込まれているのだろうか。
少々ではあるが、久しぶりに物事に興味を感じた僕は彼の後をつけることにした。
バレたらストーカーで訴えられそうな行為だが、もしバレたとしても彼を言い包めることは簡単そうな気がした。
彼はあまり自分のことに関して危機感が薄いらしく、友人との電話やSNS等で自ら個人情報をバラまいてくれた。
名前と自宅の住所さえわかってしまえば、あとは簡単だった。
彼の名前は天月健。
年齢は18歳で、両親との3人暮らし。
年の離れた姉がどこかで1人暮らしをしているようだ。
彼の情報を調べるため何度かストーカー行為をしていると、その間も、彼は何度かトラブルに巻き込まれていた。
トラブルに巻き込まれると言うより……彼は自らトラブルを起こしているようだった。
わざと誰かを怒らせ、そして自分が怒鳴られる。
時には殴られそうになり、またそのままどこかに連れていかれそうになったり。
彼が、何故、そのような行為を行っているのか……それはまだ分からなかった。
けれど、ある日、怒鳴られ、泣いているかのように顔を伏せている彼の口角がわずかに上がっているのが見えた。
大衆の注目は怒りを露わにしている男の方に向いており、おそらく、彼の微笑に……歪んだ口元に気づいていたのは僕しかいなかった。
だが、例えば、マゾヒストのように誰かに被虐され、それを楽しんで笑っている、そんな風には見えなかった。
――彼の笑みは、仄暗い影を宿していた。
そうか……彼は歪んでいるのだ。
それに気づいた時、僕は足元からゾクゾクとした、快感に似た何かが掛け上がってくるのを感じた。
堪えようとしても勝手に笑みに歪む口元を片手で隠し、洩れそうになる声を必死に抑えこんでいた。
ごく普通の高校生だと思っていた彼と、それとは相容れない誰も知らない彼の仄暗い歪み。
僕は衝撃を受けた。
取るに足らない、それこそ掃いて捨てるほどいる普通の人間だと思っていた彼に、そんなギャップが存在するとは思わなかった。
あぁ……僕は初めて恋をしたのかもしれない。
あぁ……もう既にそれは愛なのかもしれない。
それ程までに強い感情を彼に感じていた。
そう、生まれて初めて何かに執着するという感情を。
こんなに面白いことがあるなんて、人生捨てたものじゃないな。と思った。
何事にも強い感情を抱けない、つまらない人生を歩んでいた僕に彼はそれを気づかせてくれた。
だから、僕は彼に恋をした。
だが、彼が何故歪んでいるのか、何に歪まされてしまったのか……。
――集めた情報によりいくつかの仮定を導き出すことは出来る。
例えば、彼の姉が何年か前に当時の恋人との婚約を解消し、家から出て行った件なのか……。
例えば、彼には過去、妹が居たようだったが、既に今は……。
など、思い当たることはいくつかあった。
けれど、明確な答えはまだ持ち合わせていなかった。
勝手な推測だが、彼がトラブルを起こすのは、それらのことに起因してなんらかの罰を受けたいからだろうと思った。
何にせよ、生まれつきなのか彼の過去が関係しているのか……内容は違えど、彼は僕と同じように普通の枠組みで生きていけない人間なのだろう。
今まさにそれに苦しんでいるのかもしれない。
そして、僕はそれをとても、とても愛おしく感じたのだった。
大学へと向かう途中、乗り換え先の電車に乗るため、僕、藤堂陽介は足早に歩いていた。
すると誰かの怒鳴り声が聞こえてきた。
誰もが我関せずとばかりに横を通り過ぎていく中、僕は興味を引かれ、さり気なく様子を伺うことにした。
「声が小さくて聞こえねぇんだよ!! ふざけてんのか!!」
怒鳴られている相手はどこかの高校の生徒らしく学生服を着ていた。
懸命に謝っているようだが、激高した相手にオドオドとした態度はより一層相手の怒りを増長させているようだった。
……対して面白い見世物でもなかったな。
ふいに興味を失い、視線を逸らすとそのまま歩きだした。
気の弱い高校生が、短気な大人を怒らせ、怒鳴られている。
ただそれだけの光景だった。
誰かが駅員を呼んだのか、仲裁に駆け寄って来る様子が見えた。
すぐに忘れてしまうようなつまらない日常の一コマ、とその時は思っていた。
しかし、後日、またもや同じような光景を目にすることとなった。
今度は駅ではなく、近くのコンビニで。
気の弱い高校生の彼だけは役が変わらず、短気な大人は不良少年に。
仲裁する駅員はコンビニ店員に代わり、それぞれの役割を演じているかのように既視感を覚える場面だった。
……ああ、傍観者の僕も、変わっていないか。
彼はトラブルを引き起こす何かを発しているのだろうか?
僕は商品を手に取って物色してるように見せかけ、彼らの様子を伺っていた。
暫くすると、トラブルは収拾に向かったようで、不良少年は捨て台詞を吐いてコンビニから出て行った。
その後、店員に何か話かけられている高校生の彼は首を振って答えていた。
どこにでもいる気の弱い少年……いや、青年か?
少年と青年の境目にいるような彼は、何故こんなにもトラブルに巻き込まれているのだろうか。
少々ではあるが、久しぶりに物事に興味を感じた僕は彼の後をつけることにした。
バレたらストーカーで訴えられそうな行為だが、もしバレたとしても彼を言い包めることは簡単そうな気がした。
彼はあまり自分のことに関して危機感が薄いらしく、友人との電話やSNS等で自ら個人情報をバラまいてくれた。
名前と自宅の住所さえわかってしまえば、あとは簡単だった。
彼の名前は天月健。
年齢は18歳で、両親との3人暮らし。
年の離れた姉がどこかで1人暮らしをしているようだ。
彼の情報を調べるため何度かストーカー行為をしていると、その間も、彼は何度かトラブルに巻き込まれていた。
トラブルに巻き込まれると言うより……彼は自らトラブルを起こしているようだった。
わざと誰かを怒らせ、そして自分が怒鳴られる。
時には殴られそうになり、またそのままどこかに連れていかれそうになったり。
彼が、何故、そのような行為を行っているのか……それはまだ分からなかった。
けれど、ある日、怒鳴られ、泣いているかのように顔を伏せている彼の口角がわずかに上がっているのが見えた。
大衆の注目は怒りを露わにしている男の方に向いており、おそらく、彼の微笑に……歪んだ口元に気づいていたのは僕しかいなかった。
だが、例えば、マゾヒストのように誰かに被虐され、それを楽しんで笑っている、そんな風には見えなかった。
――彼の笑みは、仄暗い影を宿していた。
そうか……彼は歪んでいるのだ。
それに気づいた時、僕は足元からゾクゾクとした、快感に似た何かが掛け上がってくるのを感じた。
堪えようとしても勝手に笑みに歪む口元を片手で隠し、洩れそうになる声を必死に抑えこんでいた。
ごく普通の高校生だと思っていた彼と、それとは相容れない誰も知らない彼の仄暗い歪み。
僕は衝撃を受けた。
取るに足らない、それこそ掃いて捨てるほどいる普通の人間だと思っていた彼に、そんなギャップが存在するとは思わなかった。
あぁ……僕は初めて恋をしたのかもしれない。
あぁ……もう既にそれは愛なのかもしれない。
それ程までに強い感情を彼に感じていた。
そう、生まれて初めて何かに執着するという感情を。
こんなに面白いことがあるなんて、人生捨てたものじゃないな。と思った。
何事にも強い感情を抱けない、つまらない人生を歩んでいた僕に彼はそれを気づかせてくれた。
だから、僕は彼に恋をした。
だが、彼が何故歪んでいるのか、何に歪まされてしまったのか……。
――集めた情報によりいくつかの仮定を導き出すことは出来る。
例えば、彼の姉が何年か前に当時の恋人との婚約を解消し、家から出て行った件なのか……。
例えば、彼には過去、妹が居たようだったが、既に今は……。
など、思い当たることはいくつかあった。
けれど、明確な答えはまだ持ち合わせていなかった。
勝手な推測だが、彼がトラブルを起こすのは、それらのことに起因してなんらかの罰を受けたいからだろうと思った。
何にせよ、生まれつきなのか彼の過去が関係しているのか……内容は違えど、彼は僕と同じように普通の枠組みで生きていけない人間なのだろう。
今まさにそれに苦しんでいるのかもしれない。
そして、僕はそれをとても、とても愛おしく感じたのだった。
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