テクノルネッサンス‐2度目の異世界で興す異端者達の技術革命戦記

碧渚志漣

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第2章 異世界幼少期編(オリヴァー)

第16話【赤き友人】

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 ザアカイは驚愕した。

 使役したレイスが祓われたこともその一因ではあるが、それよりも幼い少年の魔導が”魔法”一辺倒ではなく”魔術”も併用され、魔力の燃費が悪い魔法の特徴である”揺らぎ”が最低限に抑えられていたことがザアカイにとって衝撃的であり、少年の才覚を如実に示すものだった。
 そして、ザアカイはとある”奇跡”を持っており、その奇跡はさらなる衝撃を与えた。

 その奇跡とは『目視した対象の将来を含めた財貨の量が分かる』というモノであり、ザアカイはこの奇跡を持つことで対象の財貨の量を見抜き、決闘の示談金を巻き上げる対象を分別することで効率的に多大な利潤りじゅんを得ていた。
 薬草やハーブを売っていた少女アイラと質素な少年シグルズに示談金目当ての決闘を吹っ掛けたのもこの奇跡あっての判断であった。

 再びこの奇跡のフィルターを通してレイスを払った少年オリヴァーを見ると少年の回りに分厚い金色のオーラが蕩々とうとうと立ち上り、その財貨の量がザアカイの理解できる範疇はんちゅう埒外らちがい……、唯々ただただ膨大な財貨を有するであろうことが理解できた。


 そして、決闘を持ちかける大義名分として他人の決闘へ介入した少年の非を挙げさえすれば成立させることができた。 つまり、ザアカイにとって少年は多額の示談金をむしり取れるカモの様に見えたのだった。

「おい、少年! 人様の決闘に割り込むとは何様なにさまかね!?」

 そうザアカイが少年に問いかけると、少年は群衆より歩みを進めて決闘の場に出た。

 少年はエルフが治める法王国という慣れない異国の地で異国の言葉を口にした。 それも不正に対する義憤にられ鋭い視線を送っていた。
「いえ、私はヲじさん達ノ決闘のヲ邪魔をするつモりはゴざいません……、ただレイスが決闘を不平等なモノにしていましたノで祓ったまでです
 決闘は神聖な儀式です、何事モ公平であるコトは大事ではありませんか?」

「レイスだと? はてはて、そんなモノは見えなかったぞ?
 そのような戯言ざれごとが通じると思ったか? 赤髪の小僧に加担するとは卑怯であろう!
 (この”お”の発音……、連合王国なまりか……?)」
「見えなかったノですか? ヲかしいですね? 子供でモ分かるぐらい揺らぎのある死霊魔導……、ヲじさんは”魔法”頼りノ”魔法使い”ですか?」

「ハァ゛?!」
 遥かに年下の少年から言われた”魔法使い”認定はザアカイの逆鱗げきりんに触れた。
 バルティマイをたしなめた時と打って変わってザアカイの頭の中は激怒一色いっしょくとなり、脈打つ血流は琥珀色の顔色を赤らめ、目元の血管をヒクヒクと浮き上がらせた。
 激怒したザアカイは少年に怒気のもったドスの利いた声で静かに丁寧に声を発した。
「はて、聞き間違えかね?
 どうも異国情緒あふれる言葉は聞き取りづらくてね」

「ま・ホ・う・つ・か・い、ですか?」
 少年はなまり混じりであっても明確に幼子でも聞き取れるようにゆっくりと”魔法使い”という単語を口にした。
 ザアカイの手は腰の剣へ伸びたが、その瞬間にドサっと何か重いものが崩れたような音が鈍く響きザアカイの視線が少年から音の方へ移すとそこには意識を刈り取られ泡を吹いたバルティマイが倒れ、かたわらには額の血をぬぐいながら腕をみほぐすシグルズが立っていた。

 そして、シグルズはこらえきれずにゲラゲラと大笑いをしながら少年に近づいた。
「アハハハハハ!、ガハハハハ! はぁ~、ドワーフのオッサン……、コケにされ過ぎだぜ! 30超えの見た目で”魔法使い”って、ふくくく~!
 なぁ、あんた? 名前は? オレはシグルズだ!」
 シグルズが呼吸を整える間もなく、笑い涙を拭いながら少年に名前を尋ねると少年は少しの間ポカーンとしていたが何やら気を取り直して自身の名前を告げた。
「ヲリヴァー、ただノ ヲリヴァーです」
「へぇ~、”ただの”ね~、……まっ、良いや! で、どうするオリヴァー? オッサンおかんむりだけどさ、決闘代理人のあてはあるのかい?
 オレはアンタのことが気に入ったぜ! メシ3食2人前でどうだ? 請け負うぜ!」
 シグルズは愉快にオリヴァーの肩をポンポンと叩きながら喜んで決闘代理人を志願した。
「ちょっとシグルズもうやめてよ!」
 アイラはシグルズの志願を引き留めようと必死だった。

 オリヴァーはそんな二人を見て、
「大丈夫、私がやります」
「あらそうかい……」
「でモ、決闘ノ立会人ヲ、ゴはん3食2人分で請けヲってください」
「へへ、お安い御用だ、今度はオレが気張って見張ってやるよ!」
 そして、シグルズは咳払いをしてから言葉をつむいだ。
「コホン……、あと、俺は連合王国の言葉も喋れるぜ!」
 シグルズの口から紡がれた言葉はよどみない流暢りゅうちょうな連合王国の言語であった。

 年端としはもいかない少年達から小馬鹿にされたザアカイは怒りに震えながらも騎士として面目が潰れつつある状況に焦っていた。 この場を囲った大衆に対して取り繕うためには少年たちを懲らしめるのは当然ながら倒されてしまったバルティマイをどうすればよいか検討もついていなかった。 大衆の目にも先の決闘の勝者が誰か、敗者が誰なのかは明白であり、決闘の結果で賭博を行っていた者たちから落胆と極まる歓喜が発せられていた。

 そう、ケリがついてしまったのだ。
「おいおい、騎士様が負けちまったぞ……、今日の売上がパァじゃねぇか」、「やった!丸儲け、丸儲けだぜ! よくやったぞ赤い坊主!」、「えっ……、あの坊やの言う通りなら騎士様はイカサマして負けたのかしら……」、「おっ、今度は訛の坊主と騎士様がイカサマを巡って決闘か?」、「良しじゃあ、今度は訛の坊主に!」、「私も坊やにかしらね! なんか魔導すごかったし!」、「いやいや、流石に今度は騎士様でしょ? 色々やってくれよ!バレないようにな!」

 大衆は気まぐれで残酷だった。 バルティマイが倒れるまで騎士達に靡いていた大衆の旗色は既に変わっていた。 眼の前で立会人を務めるシグルズが大衆に手を振ると歓声と賭けで損した者の怨嗟えんさが飛び交っていた。

「小僧、覚悟しろ……、手加減はせんぞ」
「望むところです」
 そう言ってオリヴァーは防寒ローブを除けながら腰の剣を引き抜くと群衆はその剣に驚嘆した。
 「あの剣のつば、剣技試験じゅん2級の証じゃないか?」、「ああ、確かにな、騎士様の方は2級で格上だが準2級から2級への昇級資格は数年の技量維持が必要だからな」、「とすると坊主の実力が上澄うわずみなら今の技量の優劣は付けられないってことか」

 ザアカイはオリヴァーの剣を見て気を引き締め、目の前の少年はカモではなく虎の子であると認識を改め、剣を振り上げ上段に構えた。
 オリヴァーは防寒ローブを取り払い、両手で柄を握り込み、剣を正眼に構えた。

「(小僧……、短期決戦の真っ向勝負か? それに何だあの刀身は?)」
 オリヴァーの剣の刀身には刻印が施され、剣を構えてから刀身の刻印は鈍く光り始めた。
「小僧、いや、オリヴァーだったな……、それは刻印魔導……それも象形しょうけい文字か?」
「ソオです、なんト書いているかは教えられませんが」
「早熟が過ぎるわ!化け物め……!(死霊魔導に、実剣技……、それに象形文字の刻印魔導だと!赤毛のガキよりもたちが悪いではないか!)」
 ザアカイ含め大衆は徐々にオリヴァーの常人離れした異様さに気が付き、一挙手一投足に釘付けとなっていた。 そして、この化け物をカモだと思い決闘を吹っ掛けた後悔の念が絶えなかった。 刻印魔導は魔導を文章に記すことでその効能を発揮することができ、識字率の低い社会とは言え裏を返せば書かれている文章が読めればその効能が推測することができる筈だった。
 しかし、刀剣に書かれた刻印は一般的に詳しく認知されていない象形文字であり解読は困難を極めたのだ。 つまり、ザアカイは刀剣に込められた刻印魔導の効能を知る術なく挑まなくてはならず、なんの打算も立てられなかった。

「たとえ刻印魔導があろうともこの魔青銅の鎧は貫けまい……」
 ザアカイは覚悟を決め、盾を捨て、上段の構えでオリヴァーへ斬り掛かると剣と剣がかち合う瞬間に詠唱が聞こえた。

「溶解!」

 刻印は輝きを増し、刀身に触れた物へ冶金魔導を流し込むことでかち合ったザアカイの魔青銅の刀身をバターの様に溶断ようだんした。
 溶断された剣の断面は白熱しながら僅かな煙を立て、斬り飛ばされた刀身は振り抜いた勢いで明後日あさっての方へ飛び去り、ザアカイの手元に残ったのは拳大こぶしだいにも満たない刀身とつかだけとなった。 
「なんだ……と……?! (勝負にすらならんのか……!)」
 圧倒的な斬撃力にザアカイは腰を抜かして座り込んでしまうと、オリヴァーはザアカイの胸元の鎧に切っ先を当て冶金魔導やきんまどうを徐々に流し込むことで白熱させ、鎧も溶断可能であることを暗に示したのだった。
「降参してください」


 この時、ザアカイは自らの負けを認めた。


 決闘が終わり、大衆や騎士達が捌けていくとシグルズはアイラを引き連れて上機嫌にオリヴァーへ語りかけた。
「ただのオリヴァーさんよ、凄えな!騎士相手に一瞬!!
 余裕だったじゃないか!」
「いや、そうでもない……」
 オリヴァーは息を乱し、疲労困憊ひろうこんぱい気味に脂汗あぶらあせきながら、その場にへたり込んだ。
「大丈夫ですか? オリヴァーさん、すごい汗ですよ」
「おい、どうしたんだ!? もしかして奴のレイスにでもやられたのか?」
 シグルズとアイラが去りゆく騎士達の背中を睨むとオリヴァーは刀身を見せながら疑念を否定した。

「そうじゃない……、僕にはあれが限界だったんだ……、コイツは恐ろしく魔力を喰うんだ……、それに除霊術もね
 だから、最後は鎧をほんの少し溶かすだけで精一杯だったんだ、あれ以上粘られたら負けてた……」
 そう言ってオリヴァーは疲労で重くなった体を力無く無防備に寝転がせると近付く足音が聞こえた。

 足音がオリヴァーの頭の近くで止まると、
「やはり、オリヴァーなのか?」
 灰色の瞳、灰色の髪の青年がいた。

 オリヴァーは身体を起こして
「エリック兄さん、やはりいたんですね」
「周りの群衆がやれ実剣技準2級の子供だのと騒いでいれば否が応でも気がつくさ……、まったくウィンスター家の次男がこんな危ないことをして……、そんなことをしていたらアイツが……」
 そう言って兄エリックが面倒くさそうに髪を弄っていると遠くから足音と声が迫ってきていた。

「エリックぅ!! オリーちゃん!!」、「エリックよ!そこか!」

 オリヴァーが声の方へ振り向くと母コーネリアと金髪に口ひげを蓄えた男性が駆けていた。
 その様子にエリックは小声で言葉を漏らした。
「アイツとジョアシャンか……」

 エリックとオリヴァー二人のもとにいち早く駆け寄ったコーネリアはぎゅっと二人を抱きしめた。
「オリーちゃん!なんで決闘なんて危ないことするの! そんなことをして欲しくて鍛えているわけじゃないのよ!
 それにあぁ、エリック!こんな薄着で出歩いちゃだめじゃない! 風邪を引いたら大変じゃないの!」

「あ……、すみません」
 オリヴァーは抱きしめてきたコーネリアをまるで疲労困憊の身体を預ける様に抱きしめ返した。 

「は、恥ずかしい、止めてくれよ」
 一方、エリックは少し赤面しながら抱かれた腕を振りほどいた。


 こうして合流した面々はエリックの下宿先へと向かっていた。 当初エリックが広場へ向かうために利用していた馬車の車中にはオリヴァー、エリック、コーネリア、シグルズ、アイラ、そしてもう一人いた。
「はじめまして、オリヴァーくん、君の話は良く聞いているよ、
 私の名前はジョアシャン・ルクレール、この法王国で君のお兄さんエリックの指南役をしている」
 金髪に口ひげを蓄え、尖った耳を持つ男は子供であるオリヴァーに優しく告げ、右手を差し出しオリヴァーと握手した。
「はじめまして、ルクレールさん、僕はオリヴァー・ウィンスターです、将来探検家を目指しています」

「そうか、なるほど……、だから魔導のみならず剣技も鍛錬しているんだね……、いやはやその年で実剣技準2級とは恐れ入るよ」
 この時、ジョアシャンの瞳はオリヴァーの剣を見据えていた。

「いえいえ、僕はただ恵まれていただけです……、周りに沢山色々なことを指南してくれる人達がいたからです」

 オリヴァーはジョアシャンの視線に気がつくと剣を目の前に取り出してさやを少しづつ抜き、刀身の半分程度まで見せた。

「ほう……、これは刻印魔導かね? この文字は私には読めないがどんな意味があるのかな?」

「この刀身の腹には象形文字の刻印で冶金魔導を付与しています、宮廷指南役のヴィルヘルミナ様やエリザベット様から少しばかりご指南をもらえたので作ることができました 先刻の決闘で相手の剣を両断できたのもこの刻印のおかげです」

 そう言ってオリヴァーは剣を鞘へ完全に収めると隣にいたシグルズも剣を見ていたのか驚嘆と関心が溢れた。
「へぇ~、こいつが剣を切り裂いた秘密って訳か、こりゃあのザアカイってやつは相手が悪かったな!」

「シグルズ、貴方が戦った騎士とオリヴァー様が戦われた騎士とじゃどっちが強かったの?」
 アイラがシグルズの言葉に疑問を投げかけると迷いなくシグルズは答えた。

「間違いなくザアカイって野郎のほうが強ぇよ、何せ隙が圧倒的に少ないんだ、バルティマイってヤツじゃなくてあの野郎を相手してたら危なかったな、マジで! その上に死霊魔導だっけ? 最近じゃそんな魔導が扱えるやつが決闘を挑んできて示談金を巻き上げてくるんだからやってられねぇぜ」

「死霊魔導まで扱える騎士が大衆相手に私闘フェーデを行うなんて……」
 シグルズの発言にコーネリアは驚愕し、ジョアシャンは一考して答えた。
「うむ……、恐らく、炙れたんだろうね、シグルズ君とアイラちゃんだっけ? それは教皇が変わってからじゃないかな?」

「世間様についちゃとんとうといが祭り事みたいな行進が終わって暫くしてからだな」
「あと、行進には各国の偉い人も来てたと思います」

「多分、それは教皇就任のパレードだね……、今の教皇はアンデットを忌むべき者として扱っているのだが、同時に使役できる死霊魔導についても忌み嫌っているんだ、だから教会関係の騎士で死霊魔導が扱える者は解雇されているらしい」

 死霊魔導を心得たオリヴァーにとって関わり深い話題に居ても立ってもいられずジョアシャンについ問いかけてしまう。
「でも、死霊魔導を扱える人を解雇したら除霊術が扱えなくなってますますアンデットが蔓延はびこってしまいますよ? 逆効果ではないのでしょうか?」

 ジョアシャンは幼いオリヴァーの実直な疑問に眉間みけんに指を添えて苦笑いを浮かべながら苦々しい状況を語った。
「原理主義派が死霊魔導を禁じる理由は聖典に書かれていないからだそうだ……、今までは聖典の解釈で現実問題と折り合いをつけていたのだが今回はそうはいかないようだね……、ザアカイという騎士も災難な時代に産まれたものだ……(論理性なき素朴実証主義そぼくじっしょうしゅぎが台頭する社会の誕生とはな……)」
 
 ジョアシャンの言葉にオリヴァーが項垂うなだれているとシグルズが肩を叩く。
「ザアカイってやつにどんな背景があったとしても決闘に勝ったことは間違いじゃねぇよ!」

「それにしても貴方、本当にオリーちゃんを決闘に巻き込んだのね……」
 オリヴァーの決闘を肯定するシグルズに母コーネリアは鋭い視線を送ってしまう。
「巻き込んだ? オリヴァーが選択したことだぜ、自らの正義感でな!
 あんた、オリヴァーに対して過干渉が過ぎるぜ、このババァ!」
 
 ピシッ……

 この時、オリヴァー含めた車内の空気が凍り付いた。 この時、喋り声や人の物音が聞こえなくなったせいか馬車の車輪が立てる音だけが車内に響いたのだった。

 エリックとジョアシャンは『ババァ』という言葉が言い放たれた瞬間、シグルズに対して「何してんだコイツは?!」と言わんばかりに驚嘆し目を丸くし、同時に両者の隣に座るコーネリアから目を背けた。

 咄嗟にアイラとオリヴァーはシグルズの暴走を止めようとする。
「シグルズ止めて!流石に短気が過ぎ……」
「シ、シグルズ!? ダ……」
 二人は対面するコーネリアの殺気に遮られ、能面のうめんのように張り付いた笑顔のコーネリアの顔に掛ける言葉が見当たらなかった。

「あらあら、ちょっとおいたが過ぎるわね」
「あぁ?!、何がおいただよ! 女が男同士の決闘の間に口を挟むなよ!」

 オリヴァーとアイラは悟った、『もうダメだ』と……。

 馬車は夜闇の道を走る中、道中で止まり、コーネリアとシグルズが馬車から外へ出ていくと車内に入り込んだ冷気のせいかオリヴァーとアイラは思わずガタガタと身体を震わせていた。
 
 激しい物音とシグルズの罵声の様な叫び声がしばらく響いていると徐々に静かになっていき、コーネリアの冷静な喋り声が微かに聞こえると少しの間をおいて足音が聞こえ、馬車の扉が開いた。 この時、車内には溜息をするジョアシャン、見慣れた光景に退屈気味に笑うエリック、行きも帰りも変わらぬ無傷のコーネリア、ボコボコにされ土に塗れたシグルズ、シグルズを薬草で手当するアイラ、なんともたまれないオリヴァーがいた。

「オリヴァー君、決闘は危ないからもうしちゃだめだぞー」
 アイラから手当を受けるシグルズはまるで与えられた台本の棒読みのように語り、すべてを察したオリヴァーは頷いた。 

 コーネリアとシグルズの間の力関係にケリはつけられたのだった。

 シグルズは隣に座るオリヴァーにこっそり喋り掛け、
「おい、オリヴァー、あのバ……」
 シグルズは対面するコーネリアから殺気を感じると吐き出しかけた言葉を言い換えた。
「じゃなくて……お姉さんは一体何者だ? お前の姉貴か?」
「あぁ、僕の母さんだよ」
「はっ?マジかよ……、お前人間だよな?」
「どういう意味だよ」
「いやな、実はオレ、直感で相手の弱点が何となく分かるんだが、お前の母親はオレが弱点目掛けて仕掛けようとした瞬間にガードしやがった……、そんな人間見たことねえ、人間わざじゃねえよ」
 コーネリアを見据えるシグルズの瞳には侮りや傲慢さが抜け、尊崇に近い念がこもっていた。

 のちにオリヴァーの赤い友人はコーネリアから手ほどきを受けることになる。
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