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しおりを挟む「先輩は今日予定あるんですか?」
朝食を済ませた二人は適当に座りテレビを眺めていた。そんな時、陽翔がふと口にした。昨日の空音の件から一日が経ち、慶のおかげもあり陽翔の心情はだいぶ落ち着きを取り戻していた。
「ん?あー勉強だな」
慶はテレビに視線を向けながら、さらりと答えた。勉強、慶の答えは至極真っ当であった。正月も過ぎ一月も半ばに差しかかろうとしている、大学受験を控えている慶にとって残りの時間は本当に極わずかである。
「あの…先輩、僕今日は帰ります」
陽翔は決心したように慶に向けて言葉を発した。テレビから視線を外した慶は「俺に気を遣わなくていいんだぞ」と優しい笑みを向け陽翔の頭を撫でた。
「でも…今は先輩にとってすごく大切な時期ですし…僕が居たら邪魔になりますよ」
「そうか?俺はむしろ陽翔が傍に居てくれる方がやる気が出るし、勉強も捗ると思うけどな」
慶の眩しい笑顔に、陽翔は返す言葉を見失ってしまう。しかしここで引いたら結局はまた慶の優しさに甘えることになる、陽翔は食い下がることなく言葉を続けた。
「…っ気を遣ってくれてるのは先輩の方じゃないですか…気持ちはうれしいですけど、今は自分の事を一番に考えてくださいよ」
「なんだよ陽翔、お前は俺の言葉が嘘だと思ってるのか?ひでぇなぁ」
「えっ?いや…っそういう訳では…」
陽翔が慌てたように弁解すると、慶は再び陽翔の頭にぽん、と手を置いた。
「一人で缶詰にされて勉強するよりも、お前が居るって分かった状態で勉強するのだと心待ちもだいぶ変わってくるんだけどな」
言い負けてしまった陽翔はこれ以上言葉が出てこなかった。すると、黙り込んでしまった陽翔に「俺の事よりも、まずは悠哉と仲直りすることを考えるんだな」と慶は柔らかく微笑んだ。
陽翔は今日一日目を背けていた悠哉の話題を指摘され、一気に気落ちしてしまうようだった。あれから悠哉が陽翔に対してどのような感情を抱いたのか、陽翔には知る由もなかったが、その事実を知ってしまったらどうなるのか自分でも想像が出来なかった。
「実はな、昨日から彰人から何度も着信がかかってくるんだ。恐らく悠哉は今すぐにでもお前と話がしたいみたいだぞ」
慶のその言葉に、陽翔はドキリとする。彰人が何度も慶に着信をかけた理由、それは悠哉に頼まれ陽翔の行方を聞き出すためだろう。悠哉が自分と話をしたがっている、陽翔には何となくだが悠哉の意図が分かったが、それでも素直に悠哉に会いに行く気にはなれなかった。
「まだ悠哉に嫌われた、とか思ってるのか?」
慶は鋭く陽翔の内心を言い当てた。
「分かってます…先輩が言ってたように悠哉は簡単に人を軽蔑するような人間じゃないって…だけどやっぱり怖いものは怖いんです。悠哉に嫌われた事実を知ってしまったら僕は耐えられない」
悠哉は情に厚い、簡単に人を軽蔑するような人間ではないと分かっているつもりでも、陽翔には一歩を踏み出す勇気が未だに出なかった。長い間自分の気持ちを隠し続けていた分、今更合わせる顔がなかった。
「はぁー、だったら俺がついていってやるよ」
そう言って立ち上がった慶は、陽翔の腕を掴み無理やりに陽翔を立ち上がらせた。陽翔は「えっ?!ちょっと先輩?!」と困惑の声を漏らし慶の顔を見上げる。
「俺が一緒なら心強いだろ」
「いや…っでも先輩は僕に構ってる暇なんてないでしょ…っ?」
「だったらこうしよう。お前が悠哉と話をつけるまで俺は勉強しない」
慶は涼しい顔でとんでもない事を言い出した。そんな提案受け入れられるはずもなかった陽翔は「いや…っなんでそうなるんですか…っ?!」と瞳を見開いた。
「で、どうするんだ?このまま俺とゲームでもして暇を過ごすか?」
陽翔はずるい、と思った。こんなの行かない以外の選択肢はない。これ以上慶に迷惑をかける訳にはいかない陽翔は、グッと拳を握った。
「分かりました…悠哉と話してきます」
陽翔の答えに「よし」と慶は陽翔の頭をふわりと撫でた。
「あっ先輩はついてこないでいいですからね?」
「え?」
「僕なんかに構ってないで勉強してください」
陽翔が言い聞かせるように慶にそう言うと、慶は眉を下げ「…わかった」と頷いた。
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