一寸先は闇2

北瓜 彪

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第7章 心理学の授業

くしやキング

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 B君がパパとママに連れられて、旅行代理店に行った時のこと。
 パパとママが、のっぽのスツールに座って、お店の人の説明を聞いていると、後ろの自動ドアがウイーンと開いて、何やらロボットのような人が入ってきた。全身が銀色の金属で、頭からは2本の角が生え、その間に大きな王冠があり、三角の目とガチガチの歯をうなり声と共に黄色く光らせ、どんどんこちらに進んでくる。両手には巨大つまようじと呼ぶべき細長い剣を握っていて、それで周囲の人や物を何かに構わず刺していった。黄色い悲鳴が沸き起こり、A4紙が無秩序に飛行する中、刺された人や物は剣の持ち手の方へ隙間なく詰められていっていた。人なら腹を貫かれたまま、テーブルは天板を突かれたまま、ロッカーは扉に穴を空けられて、剣に串刺しにされてゆく。刺されるものの重さや大きさは関係ない。針で糸を縫うように、ロボットはいとも容易く様々なものを剣の先にくっつけていった。
 B君は何が起こっているのか分からず、ロボットに見入っていたので、逃げなければと思った時にはそれがすぐそばまで来ていた。B君はわざといすから落ちて、テーブルの下に潜り込んで、斜めに走ろうとしたが、カーペットに手をついてもぞもぞしているうちに、いすもテーブルもあっという間に串刺しにされて取り除かれた。しかも、さっき店内を眺めていた時に壁と同色の扉を見つけ、そこが店員の控室だと思って面白がっていたのに、今そこに逃げ込もうと考えてそちらを見ると、扉は全く見当たらなかった。B君はパニックになってしまい、そのうちにも周りのインテリアはロボットの剣に吸い取られてゆく。バリケードになる物も失い、壁際に追い詰められたB君に、ロボットが両手を突き出してきた。
 反射的に体が動いて、B君は横に身をかわす。ロボットの剣は、両方とも後ろの白い壁に突き刺さった。ロボットは剣を抜こうとして、あるいはもしかすると壁さえ串刺しにしようとして、剣を握る両手に力を込めて、思い切り体を後ろに反らした。1度の試みでは抜けないようで、もう一度がりがりとふんばった。三角の目とガチガチの歯は、その度に卵黄色に明滅し、草刈機を動かしたようなうなり声で、ロボットは何度も何度も揺れ動いている。とその途中でものすごい音がして、いきなり天地がひっくり返った。

 B君が目を開けて辺りを見回した時、彼は自分が地面にあお向けになっていることに気づいた。ゆっくり体を丸めて起き上がろうとすると、その背中に細かい痛みが走る。足下に血のついたガラスの破片が密集していて、その1つには、水色地に白抜きの矢印が貼りついていた。
 「え?」
 矢印には、「自動」という言葉が書いてあった。
 B君はアッとおどろいて顔を真上へ向けた。
 自分を取り囲む四角い箱の天井に、2つの串が吊り下がっている。それらには、制服の女性やプラスチックのいす、パンフレットスタンド、半袖ボーダーシャツの男性、ポトスの鉢、B君と同い年くらいの男の子…その他諸々の人と物が、鍔に支えられて積み上がっていた。そして一番下で、2本の串につかまるロボットの両腕が、それらの間に短い橋を架けていた。
 
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