18 / 31
第5章 わな
わな
しおりを挟むガラガラガラ。
朝、登校した僕が教室の扉を開けると、僕の机の周りに人だかりができていた。
「おはよー、あれ?どうかしたの?」
「あっ、来た来た。おい、見ろよこれ。」
道を空けてもらいながら自分の机を覗き込むと、そこには驚きの光景が待っていた。
なんと、机の上、天板から数センチの空中に、イチゴが浮遊していたのだ。しかもそれは一定の速度でゆっくりと横方向に回転している。
「えっ、何これ‼︎……え、どうなってんの⁉︎」
僕は驚愕の声を上げてしまった。一体どういう仕組みなのだろう。天板と目の高さを合わせて見てみるが、机とイチゴの間にはピアノ線もガラスの箱も、種や仕掛けは一切ない。
僕は恐る恐るイチゴと机の間の空間に手を入れてみた。触れるものは…何もない。
「どうなってるんだ‼︎」
「ほらほらみんな、席に着きなさい。」
そこに担任のタカナシ先生がやってきた。
「せんせー!ツボタの机の上でイチゴが浮いてまーす‼︎」
教室で最初に声をかけてくれたウシゴメくんが先生に言った。
「何っ。イチゴが浮いてるって、どういうことだ?」
タカナシ先生も僕の机の方にやってくる。
「何だこれは⁉︎こんな手の込んだイタズラ、誰がやったんだ!」
「先生、オレたちじゃありません!オレが最初に登校した時には、もうこの状態でした。」
タカナシ先生は浮遊するイチゴをじっと観察すると、僕と同じようにイチゴの真下に手を入れて確かめ、次にイチゴの上の方を手で押さえつけた。
「あっ!」
みんなの視線がタカナシ先生の手に注がれた。でも結果は同じだった。先生の手は押さえたイチゴと一緒に回転してしまい、やがて
「無理だ。どうなってるのか知らんが、止められない。」
と先生もお手上げだった。
「こうなったら机を動かしてしまおう。ツボタ、手伝え。」
僕はタカナシ先生と一緒に机を持ち上げてその場から動かした。するとどういう訳だろう、イチゴもまるで天板にくっついているかのように移動して、机の上空から離れないのだ。
「うーん、困ったもんだなぁ。とりあえず授業に入りたいから、この机を一回廊下に出そう。ツボタは、これから先生が空き教室から机を1個持ってくるから、今日はそれを使いなさい。」
そして僕の机はどこかに持って行かれ、僕は今日一日代わりの机を使った。
翌朝、今度は3階の空き教室の前に人だかりができていた。そこは「算数教室」といい、算数の少人数授業で一番下のクラスが使う教室だった。
「今度は何があったんだろう。」
中に入ってみると、昨日よりももっと驚きの光景が待ち受けていた。
きちんと整理された列から外れた机の前で、タカナシ先生によく似た石像が立っていたのだ。
近づいて見てみると、石像の前のその机はもともとの僕の机だった。
「わあ!タカナシ先生の石像だあ!!」
真横から大声がして振り向くと、ウシゴメくんが面白そうに石像を見上げていた。
もう一度机を見ると、なんとあのイチゴはまだ浮遊している。
「ウシゴメくん、イチゴが…。」
「あっ、本当だ!まだ残ってるや!」
ウシゴメくんは昨日と同じようにイチゴを注意深く、あっちからこっちから見ていたが、やがて言い出した。
「これって食べられるのかなぁ。」
そして昨日のタカナシ先生みたいにイチゴの回転を止めようとしたり、イチゴを持ち上げようとしたりしたけれど、イチゴは回転を止めず、その位置から動くこともなかった。
「ええい、こうなったら‼︎」
ウシゴメくんは机に身を乗り出すと、「ガン!」と顎を天板にぶつけながら大口の中にイチゴを収めた。
「あっ!」
僕はそのままウシゴメくんが机から起き上がるのを見て、イチゴが本当に食べられたことを確認した。
「へへっ、ウマイぜ。つうかまぁ普通のイチゴだなッ…‼︎」
途端、ウシゴメくんの表情が強張った。喉に詰まらせたのだろうか。でもウシゴメくんの喉は今しがたゴクリと動いたばかりだ。後ろで見ていた同級生たちの悲鳴を聞きながらウシゴメくんの全身を見て、ようやく気がついた。
ウシゴメくんの体は服は、足の方から上へ向かって、ゆっくりと明るい灰色に変わっていったのだ。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
一人用声劇台本
ふゎ
恋愛
一人用声劇台本です。
男性向け女性用シチュエーションです。
私自身声の仕事をしており、
自分の好きな台本を書いてみようという気持ちで書いたものなので自己満のものになります。
ご使用したい方がいましたらお気軽にどうぞ
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる