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第2章 悲劇の予兆
まちなかでおさるをみかけた
しおりを挟むまちなかでおさるをみかけた。よく見る普通の猿は皺々でくたびれたお爺ちゃんみたいな顔をしてるけど、こいつはそんなんじゃない。すっごくかわいい。黒い毛に囲まれた顔はつるっと白くて、目と口がちょこんとしてこっちを見てる。つかまえたい。手を伸ばして近づくと、逃げてしまった。そいつは近くのラーメン屋さんに入っていった。入口の格子戸が用意してたみたいに少し開いていたのだ。わたしもそこに入った。
中は、ラーメン屋さんじゃなかった。すごい人混み。暗いのにみんな盛り上がって歓声を上げている。真ん中にリングがある。その中でボクサーが2人、ボクシングしている。色んなところから色とりどりのスポットライトがリングに向かって当てられている。わたしはボクシングの試合会場に来てしまったらしい。観客席を探してるけど、あのおさるはいな…と!ちょっと!あそこで見てる客!赤いハンチングにトレンチコート、サングラスのあの男!ほら、あのおさるによく似てる!!
わたしはそいつから目を離さずに人混みをかき分けておさるの席へと階段を上る。案の定、そいつはおさるだった。わたしが上がっていくと帽子も服もサングラスも放り捨ててぴょんぴょんぴょんと逃げてった。わたしも急いで追いかけた。おさるは飛んで、跳ねて、すばしっこく走った。おさるがリングに乗ったので、わたしも乗った。おさるは2人のボクサーの間をぬっていった。わたしもボクサーを押しのけ、おさるを追った。
「どしーん。」
振り向くと、さっき押しのけたボクサーが倒れていた。2人のボクサーは、看板だった。
「えっ?」
けれど、驚いてる暇はない。おさるが逃げてしまう。わたしは見失ってしまったおさるに先回りするため、来た道に戻ってあの格子戸を開けた。
「ガラガラガラガラ!」
そこは、おさるを見つけた場所だった。おさるはもう、どこにもいなかった。
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