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オンステージ
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小麦の袋と夕焼けを背に、私は独りで農道を歩いていた。一歩進むごとに腰が軋み、ため息の代わりに息を切らす。
売れ残りを持ち帰る生活はこれでもう三ヶ月目になる。市長が税率を上げてから、私の暮らしは傾く一方。毎日毎日麻袋をおぶって家路を辿る私の姿は、はたから見たらどんなにみじめなのだろうか。そうぼやぼや考えていると目の前にきらりと光るものが飛び込んできた。
道端に、ガラス片が落ちていた。いや、それはガラスではなく、今の空と同じオレンジ色をした鍵であった。
私は屈んでそれを拾って、顔の前にぶら下げてみた。よく見るとそれはオレンジ色をしているのではなく、周りの景色を反射して映し出しているのだった。
「すみません、それたぶん僕のです」
その時、そう言って後ろから近づいてくる男があった。その男は、いや、その人物は確かに男の声をしていたが、全身が黒く塗りつぶされていた。はじめは逆光のためかと思われたが、そうではなかった。彼は全身が黒いタイツに包まれていたのだ。
私はぎょっとして固まってしまったが、今は恐怖よりも疲労が勝っていた。こんな珍妙な男に関わっている暇はない。そう考えてそそくさと鍵を突き出したところで、男はふと思い直した様に私を制止した。
「いえ、やっぱりそれ、あなたに差し上げましょう」
思わぬ申し出が飛び出して、私は袋を背負い直した。
「は? どういうことですか。これ、あなたのなんでしょう」
男は私の苛立ちを見て取ったのか、すかさず話を続けてきた。
「この鍵、実はこの辺りでは貴重な代物でしてね。この道を右に曲がった先に透明のテントがあるんですよ。アクリル板でできていて、触れば分かります。そこの鍵穴にこれを差し込んで回すと、扉が開いて中に入れるんです。そこで不定期にショーが催されていて、これが痛快極まりないこと請け合いです。今からでも間に合いますから、是非行ってみて下さい」
それだけ言うと男は向こうへ駆けてゆき、畦道にそれて見えなくなってしまった。
私は眉根を寄せて手の中の鍵を見下ろした。その表面はいつの間にライラック色に変化している。娯楽とはめっきり縁遠い日々に飽きを感じていた私は、思わず小麦の袋を置いてもと来た道を引き返していた。
右の分岐はめったに通ることがないが、少し行くと目の前の風景に僅かに異様な感じを受けた。もしやと思って矯めつ眇めつ見定めると、夕闇に満ちた空間がそこだけ歪んで浮かび上がっている。それはまるで別の夕空を円錐台に切り抜いてコラージュしたかの様であった。
私は円錐台の側面に体を押しつけ、じりじりと横歩きをしながら手元を探った。意外にもすぐに指先が沈没し、私は離れてその位置を確かめる。そこには中空に開いた暗い穴が認められ、私はポケットから鍵を出してゆっくりと差し込んだ。途端に透明のテントが溶融し、避ける間もなく私の体は落日の緞帳に包み込まれた。
「さあいよいよ本日のクライマックスです最後のキャストは皆さんお待ちかね、かの悪名高き…」
シンバルと思しき大音声に起こされた時、私の体は劇場後方の客席に座っていた。眼前の舞台では、ピンクのフリフリを着たツインテールの娘が縄でパイプ椅子にがんじがらめにされたまま泣き叫んでいる。しかし白いハンケチを猿轡にされていて、その声は殆ど聞こえない。先程から流れている司会の語りに耳をすますと、声の主は桟敷席の最端にいる赤いマネキンであった。マネキン、と意識して、あの黒づくめの男が思い当たった。よく見るとこの赤い男もマネキンではなく、赤いタイツで全身を覆った人間の様である。
「それでは正義の味方の登場です。出でよ、純潔の獅子!」
肘に突つかれる様な痒みを覚えて見やると、膝上に一枚のメモ用紙が差し出されている。私は顔を上げて隣席の人を振り向いた。その人の顔面は黒の平面で、あの男の姿とよく似ている。
『はじめてか?』
メモにはそう書いてあった。見渡すと、今まで照明のせいと思っていた観客達の顔の黒さは、どれも彼らの被っている黒タイツの覆面によるものだった。通路を挟んで右の人も、斜め前に座る人も、皆タイツで全身を墨染めにしているのだ。そこでようやく、このテントが国立歌劇場に匹敵する広さであることに気づいた。
私は隣人の差し出すペンを使ってメモに書きつける。
『声は出せないのですか?』
すると隣人は舞台に釘づけのまま返事を手渡した。
『ここでは私語厳禁
こえをだせばみもとがわれる』
私はまたペンを借りてその下に書いた。
『身元を隠すために覆面を?』
そこで突如として拍手の時雨が響き渡り、私はメモを渡しながら前方を振り返った。舞台には見たこともない純白のライオンが現れて、シルクの鬣を靡かせながら優雅に四肢を運んでいた。ラズライトの瞳とビターブラックの鼻先が冷たく雪景に薫っているが、この猛獣が歓迎されるべき類のそれでないのは明らかだった。
再び肘を突つかれたのに気づいて、私は視線を落とした。
『そうだ ここはしみんのだいひょうがあ
くにんにさばきを下す場
あのライオンがざいにんをくう
かおがみえないから本音がだせる
きゃくはこえの代わりに拍手でよろこび
をあらわす』
私はメモとペンをひったくって書き殴った。
『あの娘が犠牲に?』
ライオンはのっしのっしと娘の周りを周回している。その間、一瞬たりとも娘から目をそらさない。
隣人がメモを返した。
『そうだ あいつはのうみんを土人とよん
だ
さべつようごだとしらなかったじゃすま
されない』
それを見て思い出した。あの娘は確か有名な踊り子ではなかったか。彼女が先月舞台の挨拶で「土人」と発言したことは噂に聞いていたが、そうか、あの小娘がそうなのか。小さい頃から農村で貧苦にあえいできた私は、その話を聞いた時、はけ口のない怒りを募らせたものだった。
しかし。
『人殺しだろう』
隣人は面倒そうに応じた。文章はまたしても数行に渡っていた。
『おれたちがころすわけじゃない』
踊り子は投光に凝視されている。彼女の顔は幾本もの涙の痕に轢かれ、猿轡と衣服は唾液で濡れそぼっていた。ツインテールが無残に乱れ、鬼女の様相を呈している。
『ライオンはおれたちのだいべんしゃ』
ライオンが大口を開けて咆哮し、会場の空気を破り裂いた。私は自分が食われた気になってぎゅっ、と目を瞑ってしまったが、反対に隣人は全力で両手を打ち鳴らしていた。
即座に万雷の拍手が降り注いで、私の鼓膜を直撃する。
『せいぎがあくをたおす』
舞台では踊り子が必死になって身を捩り、頭を左右に振り回している。そのせいで彼女は椅子ごと床に倒れて、椅子の金属部が野暮な音を立てた。濡れて縮んだためか、いつの間にか猿轡は外れている。ライオンは大回りで歩くのをやめ、横倒しの踊り子の方へと急接近した。踊り子は枯れ切った声を振り絞って喚いているが、それよりも観客の拍手の方が大きくて、何を言っているのか聞き取れない。
『おれたちはそれをみるだけ』
だが拍手が収まってから、一つだけ聞こえた言葉があった。
「本当に知らなかったのに! アンタたちに何の権利があるっていうのよ!」
それを認識した瞬間、私は激しい義憤に駆られた。あの踊り子は、ここまでの目に遭っていながらまだ自分の非を認めようとしない。そのことは到底信じられず、理解ができず、何より悔しい。目の前で起こっていることはとてもあり得べき状況ではないが、彼女の態度も人として通常のものではなかろう。私の口はいつしか真一文字に結ばれ、両手は乱暴に打ち合わされていた。
私の方を盗み見た隣人が、新しい紙をちぎって寄越した。今度は一文だった。
『ここにはもう一つルールがある』
私は材木を割る様なライオンの声に耳を塞いだ。その拍子に、指の間に挟んだペンが斜めに傾く。
ライオンは首を捻転させて、牙の隙間から青い炎を漏らし始めた。
「それではこれが本当のフィナーレです! 悪女に正義の鉄槌が下されます! 皆さん最後は盛大な拍手でお願いします!」
司会の声に熱がこもりハウリングを起こした。
ライオンは炎を舞台の一ヶ所に吐き出し、それが瞬く間に群青の蝋紙となって高々と立ち上がる。驚愕で動けなくなっている踊り子を尻目に、ライオンはさらにもう一つ、青い火球を繰り出して踊り子の背後を燃やした。次にまた別の場所に炎を噴いて熱い光が直立し、さらにまた前方に吼えて蒼炎のサテンを拡げた。そして数発の火球を吐出して炎の裾野を環状に形成し、踊り子は逃げ場を失った。
私は右手の向きを変え、自分の知る最も響く拍手の仕方に切り換えた。菓子袋を開けた様な破裂音が会場の空気を震わせている。私の拍手が、猛き怒りが、踊り子の罪へと向かっている!
レースの服が祟ったのだろう、スカートに引火した蒼炎は見る間に踊り子を蔽い尽くした。ライオンの最後の勝鬨が強風を巻き起こし、隣人が書き加えた膝上のメモが足元に落下していった。
『オペラグラスをもちこむな』
私の両手は既に感覚を失っていた。
青い帷が落ちた後、外はとっぷり闇の世界だった。観客達は夜空に擬して早々と散り散りになってしまい、あの隣人を見つけることも不可能だった。私は帰宅してからもしばらく奇妙な興奮に襲われていたが、それは決して不快なものではなかった。寧ろ、久方ぶりに全霊を揺さぶる喜びを体感していたのだ。こんなショーへの鍵を譲ってくれたあの男に、私は密かに感謝した。
それからというもの、夕方の観劇は私の欠かせない習慣になった。次回の日程はショーの終わりに告知され、終幕の後はその日を楽しみにまた仕事に精を出す。当日は前夜から殆ど眠れず、それでも一層商売に身が入った。
日が暮れれば予め持参してきたタイツをすばやく被り、夕闇に紛れて裏道を駆け翔んで、例の場所で劇場に入る。それだけで勝手に座席に着いていて、後は海岸の岩の様にしてじっと開演の時刻を待つのだ。
いよいよとなると、まず市民の代表、すなわち赤い司会がその場で立ち上がって、尤もらしい序文を宣言する。合わせてオーケストラの大袈裟な眩耀が十六方位に奏でられる。私達はそこでその日最初の拍手を行う。舞台の迫が動き出し、先鋒「キャスト」のご登場だ。
白い英雄はいつも雄渾で、いかなる者にも獅子博兎の構えを崩さなかった。キャスト達はその威風を前に皆目なす術がない。彼らはただ助けを乞うてのたうつのみで、己の罪を恥じる者は一人としてなかった。そのような愚昧の徒を前にして、私の神経は否応なく逆立てられたのだ。
ある時の犠牲者は、私も恐れていた小麦泥棒だった。彼は小麦に似たライオンの尾を何度も掴んでその度に振り飛ばされ、こちらは笑いをこらえるのに必死だった。もちろん犯罪人でない犠牲者の方が多くあった。金を貯め込み親には一文も渡さないごうくつ女。誤報を流布して異人を貶める金物屋。変わり種では、ルールに反して会場にオペラグラスを持ち込んだ客がいた。彼は周囲の観客らにタイツを脱がされ、神輿にされて舞台に上げられた。刹那に茫漠の投光を浴びることになったせいだろう、彼は目潰しのまま殆ど逃げることができなかった。おかげで奴の最期は実に退屈だった。この間はと言えば、家畜を棍棒で殴り歩いていたいたずら少年だった。
ショーが幻ではない証拠に、開催翌日の新聞には犠牲者の失踪が報じられた。その真相は当然のこと私達観客にしか分からない。だがどうも市中で注意していると、あのショーを知っている人は実はかなりいる様だ。思えばあの劇場は、野外テントにしては随分と大勢入れていた。あの男は鍵について「この辺りでは貴重」と言っていたが、あれは「農村では」という意味で、市内で鍵を持つ者は決して少なくないのだろう。私が三ヶ月の不況に参っていた間にも、新しい娯楽が生まれて人々に流行していたのだった。
唯一、覆面しなければいけないのが少々厄介ではあったが、万一犠牲者に知り合いがいてはもっと厄介なことになろう。ライオンの餌食に選ばれるのはいつも悪い噂のある者だった。日頃から新聞や雑誌で大きな疑惑をかけられているのに、ふざけた理屈でのらりくらりと追及をかわす様な、胸糞の悪い連中である。そういう輩が失踪する度に、例によって陰謀論が持ち上がるが、それぞれの犠牲者には何の連関もないのだから、検証の仕様がないのだった。いや、そもそも市中の人々がいわば共犯者である時点で、検証の機会は絶たれている。私達は互いの素性を知らないながら、見えない糸で連帯していた。
舞える焰は拍手の度に勢いを増し、黒子の水波のさざめきが灼け切った夜に灯油を注ぐ。私は影に外れた席で幾度も怒りの袋を開けた。劇場で両掌を痒くするためなら、市場で何時間でも売り口上を叫び果てることができた。
やっと商売が本調子になってからも、私の観劇は続いていた。
その日もショーの開催日で、私は夕刊の日付を確認して浮足立っているところだった。何気なくトップニュースを眺めていると、その下に失踪者の捜索願があることに気づいた。
《X日未明、Y村ノ粉挽男Z消息絶ツ。妻
WガZノ突然ノ外出ヲ確認スルモサシテ
気ニセズ引キ止メズ。服装ハ以下ノ通
リ。…》
その内容が目に入って、私の胸は白々しい鳥肌で総毛立った。何が起こったかはつまるところ――ごまかすまでもなかった。捜索願にある写真の人物は、先週観に行ったショーの犠牲者の一人だったのだ。いや、それはいつものことである。但し、名前が違っていた。
とんでもないことをしてしまったのだ。私が一週間前に拍手を送ってその死を見届けた中年男は、あの札つきの不貞夫と容姿のよく似た別人だった。あの赤いマネキンは裁くべき人物と違う男を劇場へ攫い、恐ろしい処刑を下してしまった。そして私達観客は、それを観て囃し立てていたのだ。
私は鍵を貰った日のことを思い出した。あの男は自分の物と申し出ておきながら、なぜかその鍵を拙速に私にくれた。初めからそのつもりだったのだ。失くしたふりをして鍵を落とし、それを私に握らせた上でショーのことを話して私の興味を引き、この鍵を明け渡したかったのだ。訝しげな品ゆえ、市場で売ることはできない。たとえ無銭でも、寧ろそれこそ訝しげだ。しかしその場にいる持ち主に使い道を担保された落とし物なら、ひっそりと貰う者がいるかもしれない。そして私が鍵を使い、新たな観客となり、男は鍵を手放した。かくして男は――恐らく――この様な悲劇から、目を背けた。
私はすぐにタイツを被って劇場へと直行した。普段はひとけのない道を選んで行くが、そんなことを考える余裕はない。大通りの人々は猛進する影男を見るなり怯えた顔で道を空け、そのうちの数人は、私を責める様な目つきで睨んでいた。花籠を運ぶ老女のつまずく音が聞こえた。足先が路傍の水桶を蹴っ飛ばす。既に太陽は山際に傾いて、チューニングの不協和音がひんやり背筋を上り来ている。
開場と同時にテントに鍵を差し、真っ暗の場内を桟敷席に向かって横切った。通路では黒い人々に何度もぶつかったが、素性を知らない者なので会釈もしないで行き過ぎた。赤づくめの司会は、自分の方へ走ってくる私を認めて動揺している様だったが、私は懐から紙を取り出して急いでそこに書きつける。なるほど覆面をしていると漢字など書けたものではない。あの日の隣人の文章がカナだらけだったわけである。
『まちがえてちがう人をころした』
司会は私のメモを一瞥すると、私のペンを借りて返答した。
『あなたが人を殺した?』
私はメモをひったくり、殆ど殴り書きで訂正した。
『あなただ せんしゅうのぎせいしゃの中
に人ちがいがいる』
司会は今度こそ意味を理解した様で、タイツの奥でも分かるほどの震えをして
「何っ」
と声を上げた。
私は持ってきた夕刊を彼の前に突きつけた。彼はそれを自分の額にぐっと押し付け、読みづらそうにして何度も何度も上下させている。信じたくない、信じられない。だが事は事実なのであった。司会は滑らかな顔面で口元を歪め、終いには絶句に尽きてしまった。そこでハッと思って振り返ると、いつの間にあんなにやって来たのだろう、私と同じ黒い甲虫達がすいすい後方で蠢いていた。
「…まずいな……どうにかしないと………」
司会がそう呻いた。場内には続々と観客が集まってきている。しかし今日の犠牲者に人違いがいる可能性は否定できない筈だ。司会は虚ろに頭を振ってうわごとを繰り返すが、その困惑はさながら風刺画の域を出ない。この時ほど覆面を人笑えに思ったことはなかった。
「どうにかしないと…」
オーケストラの幾人かが音出しをし始める。一部の黒子が異変に気づいたのか、背後の気流が不穏に回頭した心地になる。遠くの観客は立ち上がって、しきりにこちらをうかがっている様だった。
「どうにかしないと…どうにかしないと…」
一向にその調子なので、私は覚悟を決めねばならなかった。この場で観客達に事態を報せショーの中止を呼びかける。意を決して、私は夕刊を手に客席の方を振り向いた。
「どうにかしないと…」
その時――。
私の脳裏に聞こえた声が、一つの事実を立ち上がらせた。
「どうにかしないと…どうにかしないと…」
その司会の声は、言葉は、私の耳によく馴染んでいた。
定期的な街宣で市政の窮状を訴える声。
自分の会食を棚に上げ、緊縮財政を呼びかける声。
私の生活から余暇と娯楽を奪い去った権力者の声。
この司会の男は、紛う方なき市長であった。
私は赤いタイツを引っ掴んで桟敷席から引きずり出し、そのまま舞台上へ連れ出した。観客席は騒然となったが、私が頭部の布を破って顔を出させると、最前列の数人が彼の正体に気づいた様だった。
「卑怯者」
私は力の限りに吐き捨てた。オペラグラスの持ち込みを禁止したのは、もし人違いがあっても発覚しないようにするためだったのだろう。自分の非を認めたくない。政治と同じじゃないか。パンはなくてもサーカスでどうにかなるとでも思ったか。パフォーマンスはもう沢山だ。
下手から純潔の獅子が現れた。私は破ったタイツの切れ端を握りしめ、それで市長を引っ張る格好でライオンへと向かった。市長は破れ目に首が締まったまま大声で喚き散らしている。ライオンの両の碧玉がそれを認めて陰翳にてらついた。そして英雄は大きな、一振りの舌なめずりをした。
私は拍手した。市長から手が離れない様に注意しながら、その掌に片手をぶつけた。何度も何度も、何度もぶつけた。悪漢を背に舞台を歩く。しかし独りでではない。市中の人々の拍手が聞こえる。裁きを望む時雨が聞こえる。今の私は彼らと共に、正義の糸で連帯している。
売れ残りを持ち帰る生活はこれでもう三ヶ月目になる。市長が税率を上げてから、私の暮らしは傾く一方。毎日毎日麻袋をおぶって家路を辿る私の姿は、はたから見たらどんなにみじめなのだろうか。そうぼやぼや考えていると目の前にきらりと光るものが飛び込んできた。
道端に、ガラス片が落ちていた。いや、それはガラスではなく、今の空と同じオレンジ色をした鍵であった。
私は屈んでそれを拾って、顔の前にぶら下げてみた。よく見るとそれはオレンジ色をしているのではなく、周りの景色を反射して映し出しているのだった。
「すみません、それたぶん僕のです」
その時、そう言って後ろから近づいてくる男があった。その男は、いや、その人物は確かに男の声をしていたが、全身が黒く塗りつぶされていた。はじめは逆光のためかと思われたが、そうではなかった。彼は全身が黒いタイツに包まれていたのだ。
私はぎょっとして固まってしまったが、今は恐怖よりも疲労が勝っていた。こんな珍妙な男に関わっている暇はない。そう考えてそそくさと鍵を突き出したところで、男はふと思い直した様に私を制止した。
「いえ、やっぱりそれ、あなたに差し上げましょう」
思わぬ申し出が飛び出して、私は袋を背負い直した。
「は? どういうことですか。これ、あなたのなんでしょう」
男は私の苛立ちを見て取ったのか、すかさず話を続けてきた。
「この鍵、実はこの辺りでは貴重な代物でしてね。この道を右に曲がった先に透明のテントがあるんですよ。アクリル板でできていて、触れば分かります。そこの鍵穴にこれを差し込んで回すと、扉が開いて中に入れるんです。そこで不定期にショーが催されていて、これが痛快極まりないこと請け合いです。今からでも間に合いますから、是非行ってみて下さい」
それだけ言うと男は向こうへ駆けてゆき、畦道にそれて見えなくなってしまった。
私は眉根を寄せて手の中の鍵を見下ろした。その表面はいつの間にライラック色に変化している。娯楽とはめっきり縁遠い日々に飽きを感じていた私は、思わず小麦の袋を置いてもと来た道を引き返していた。
右の分岐はめったに通ることがないが、少し行くと目の前の風景に僅かに異様な感じを受けた。もしやと思って矯めつ眇めつ見定めると、夕闇に満ちた空間がそこだけ歪んで浮かび上がっている。それはまるで別の夕空を円錐台に切り抜いてコラージュしたかの様であった。
私は円錐台の側面に体を押しつけ、じりじりと横歩きをしながら手元を探った。意外にもすぐに指先が沈没し、私は離れてその位置を確かめる。そこには中空に開いた暗い穴が認められ、私はポケットから鍵を出してゆっくりと差し込んだ。途端に透明のテントが溶融し、避ける間もなく私の体は落日の緞帳に包み込まれた。
「さあいよいよ本日のクライマックスです最後のキャストは皆さんお待ちかね、かの悪名高き…」
シンバルと思しき大音声に起こされた時、私の体は劇場後方の客席に座っていた。眼前の舞台では、ピンクのフリフリを着たツインテールの娘が縄でパイプ椅子にがんじがらめにされたまま泣き叫んでいる。しかし白いハンケチを猿轡にされていて、その声は殆ど聞こえない。先程から流れている司会の語りに耳をすますと、声の主は桟敷席の最端にいる赤いマネキンであった。マネキン、と意識して、あの黒づくめの男が思い当たった。よく見るとこの赤い男もマネキンではなく、赤いタイツで全身を覆った人間の様である。
「それでは正義の味方の登場です。出でよ、純潔の獅子!」
肘に突つかれる様な痒みを覚えて見やると、膝上に一枚のメモ用紙が差し出されている。私は顔を上げて隣席の人を振り向いた。その人の顔面は黒の平面で、あの男の姿とよく似ている。
『はじめてか?』
メモにはそう書いてあった。見渡すと、今まで照明のせいと思っていた観客達の顔の黒さは、どれも彼らの被っている黒タイツの覆面によるものだった。通路を挟んで右の人も、斜め前に座る人も、皆タイツで全身を墨染めにしているのだ。そこでようやく、このテントが国立歌劇場に匹敵する広さであることに気づいた。
私は隣人の差し出すペンを使ってメモに書きつける。
『声は出せないのですか?』
すると隣人は舞台に釘づけのまま返事を手渡した。
『ここでは私語厳禁
こえをだせばみもとがわれる』
私はまたペンを借りてその下に書いた。
『身元を隠すために覆面を?』
そこで突如として拍手の時雨が響き渡り、私はメモを渡しながら前方を振り返った。舞台には見たこともない純白のライオンが現れて、シルクの鬣を靡かせながら優雅に四肢を運んでいた。ラズライトの瞳とビターブラックの鼻先が冷たく雪景に薫っているが、この猛獣が歓迎されるべき類のそれでないのは明らかだった。
再び肘を突つかれたのに気づいて、私は視線を落とした。
『そうだ ここはしみんのだいひょうがあ
くにんにさばきを下す場
あのライオンがざいにんをくう
かおがみえないから本音がだせる
きゃくはこえの代わりに拍手でよろこび
をあらわす』
私はメモとペンをひったくって書き殴った。
『あの娘が犠牲に?』
ライオンはのっしのっしと娘の周りを周回している。その間、一瞬たりとも娘から目をそらさない。
隣人がメモを返した。
『そうだ あいつはのうみんを土人とよん
だ
さべつようごだとしらなかったじゃすま
されない』
それを見て思い出した。あの娘は確か有名な踊り子ではなかったか。彼女が先月舞台の挨拶で「土人」と発言したことは噂に聞いていたが、そうか、あの小娘がそうなのか。小さい頃から農村で貧苦にあえいできた私は、その話を聞いた時、はけ口のない怒りを募らせたものだった。
しかし。
『人殺しだろう』
隣人は面倒そうに応じた。文章はまたしても数行に渡っていた。
『おれたちがころすわけじゃない』
踊り子は投光に凝視されている。彼女の顔は幾本もの涙の痕に轢かれ、猿轡と衣服は唾液で濡れそぼっていた。ツインテールが無残に乱れ、鬼女の様相を呈している。
『ライオンはおれたちのだいべんしゃ』
ライオンが大口を開けて咆哮し、会場の空気を破り裂いた。私は自分が食われた気になってぎゅっ、と目を瞑ってしまったが、反対に隣人は全力で両手を打ち鳴らしていた。
即座に万雷の拍手が降り注いで、私の鼓膜を直撃する。
『せいぎがあくをたおす』
舞台では踊り子が必死になって身を捩り、頭を左右に振り回している。そのせいで彼女は椅子ごと床に倒れて、椅子の金属部が野暮な音を立てた。濡れて縮んだためか、いつの間にか猿轡は外れている。ライオンは大回りで歩くのをやめ、横倒しの踊り子の方へと急接近した。踊り子は枯れ切った声を振り絞って喚いているが、それよりも観客の拍手の方が大きくて、何を言っているのか聞き取れない。
『おれたちはそれをみるだけ』
だが拍手が収まってから、一つだけ聞こえた言葉があった。
「本当に知らなかったのに! アンタたちに何の権利があるっていうのよ!」
それを認識した瞬間、私は激しい義憤に駆られた。あの踊り子は、ここまでの目に遭っていながらまだ自分の非を認めようとしない。そのことは到底信じられず、理解ができず、何より悔しい。目の前で起こっていることはとてもあり得べき状況ではないが、彼女の態度も人として通常のものではなかろう。私の口はいつしか真一文字に結ばれ、両手は乱暴に打ち合わされていた。
私の方を盗み見た隣人が、新しい紙をちぎって寄越した。今度は一文だった。
『ここにはもう一つルールがある』
私は材木を割る様なライオンの声に耳を塞いだ。その拍子に、指の間に挟んだペンが斜めに傾く。
ライオンは首を捻転させて、牙の隙間から青い炎を漏らし始めた。
「それではこれが本当のフィナーレです! 悪女に正義の鉄槌が下されます! 皆さん最後は盛大な拍手でお願いします!」
司会の声に熱がこもりハウリングを起こした。
ライオンは炎を舞台の一ヶ所に吐き出し、それが瞬く間に群青の蝋紙となって高々と立ち上がる。驚愕で動けなくなっている踊り子を尻目に、ライオンはさらにもう一つ、青い火球を繰り出して踊り子の背後を燃やした。次にまた別の場所に炎を噴いて熱い光が直立し、さらにまた前方に吼えて蒼炎のサテンを拡げた。そして数発の火球を吐出して炎の裾野を環状に形成し、踊り子は逃げ場を失った。
私は右手の向きを変え、自分の知る最も響く拍手の仕方に切り換えた。菓子袋を開けた様な破裂音が会場の空気を震わせている。私の拍手が、猛き怒りが、踊り子の罪へと向かっている!
レースの服が祟ったのだろう、スカートに引火した蒼炎は見る間に踊り子を蔽い尽くした。ライオンの最後の勝鬨が強風を巻き起こし、隣人が書き加えた膝上のメモが足元に落下していった。
『オペラグラスをもちこむな』
私の両手は既に感覚を失っていた。
青い帷が落ちた後、外はとっぷり闇の世界だった。観客達は夜空に擬して早々と散り散りになってしまい、あの隣人を見つけることも不可能だった。私は帰宅してからもしばらく奇妙な興奮に襲われていたが、それは決して不快なものではなかった。寧ろ、久方ぶりに全霊を揺さぶる喜びを体感していたのだ。こんなショーへの鍵を譲ってくれたあの男に、私は密かに感謝した。
それからというもの、夕方の観劇は私の欠かせない習慣になった。次回の日程はショーの終わりに告知され、終幕の後はその日を楽しみにまた仕事に精を出す。当日は前夜から殆ど眠れず、それでも一層商売に身が入った。
日が暮れれば予め持参してきたタイツをすばやく被り、夕闇に紛れて裏道を駆け翔んで、例の場所で劇場に入る。それだけで勝手に座席に着いていて、後は海岸の岩の様にしてじっと開演の時刻を待つのだ。
いよいよとなると、まず市民の代表、すなわち赤い司会がその場で立ち上がって、尤もらしい序文を宣言する。合わせてオーケストラの大袈裟な眩耀が十六方位に奏でられる。私達はそこでその日最初の拍手を行う。舞台の迫が動き出し、先鋒「キャスト」のご登場だ。
白い英雄はいつも雄渾で、いかなる者にも獅子博兎の構えを崩さなかった。キャスト達はその威風を前に皆目なす術がない。彼らはただ助けを乞うてのたうつのみで、己の罪を恥じる者は一人としてなかった。そのような愚昧の徒を前にして、私の神経は否応なく逆立てられたのだ。
ある時の犠牲者は、私も恐れていた小麦泥棒だった。彼は小麦に似たライオンの尾を何度も掴んでその度に振り飛ばされ、こちらは笑いをこらえるのに必死だった。もちろん犯罪人でない犠牲者の方が多くあった。金を貯め込み親には一文も渡さないごうくつ女。誤報を流布して異人を貶める金物屋。変わり種では、ルールに反して会場にオペラグラスを持ち込んだ客がいた。彼は周囲の観客らにタイツを脱がされ、神輿にされて舞台に上げられた。刹那に茫漠の投光を浴びることになったせいだろう、彼は目潰しのまま殆ど逃げることができなかった。おかげで奴の最期は実に退屈だった。この間はと言えば、家畜を棍棒で殴り歩いていたいたずら少年だった。
ショーが幻ではない証拠に、開催翌日の新聞には犠牲者の失踪が報じられた。その真相は当然のこと私達観客にしか分からない。だがどうも市中で注意していると、あのショーを知っている人は実はかなりいる様だ。思えばあの劇場は、野外テントにしては随分と大勢入れていた。あの男は鍵について「この辺りでは貴重」と言っていたが、あれは「農村では」という意味で、市内で鍵を持つ者は決して少なくないのだろう。私が三ヶ月の不況に参っていた間にも、新しい娯楽が生まれて人々に流行していたのだった。
唯一、覆面しなければいけないのが少々厄介ではあったが、万一犠牲者に知り合いがいてはもっと厄介なことになろう。ライオンの餌食に選ばれるのはいつも悪い噂のある者だった。日頃から新聞や雑誌で大きな疑惑をかけられているのに、ふざけた理屈でのらりくらりと追及をかわす様な、胸糞の悪い連中である。そういう輩が失踪する度に、例によって陰謀論が持ち上がるが、それぞれの犠牲者には何の連関もないのだから、検証の仕様がないのだった。いや、そもそも市中の人々がいわば共犯者である時点で、検証の機会は絶たれている。私達は互いの素性を知らないながら、見えない糸で連帯していた。
舞える焰は拍手の度に勢いを増し、黒子の水波のさざめきが灼け切った夜に灯油を注ぐ。私は影に外れた席で幾度も怒りの袋を開けた。劇場で両掌を痒くするためなら、市場で何時間でも売り口上を叫び果てることができた。
やっと商売が本調子になってからも、私の観劇は続いていた。
その日もショーの開催日で、私は夕刊の日付を確認して浮足立っているところだった。何気なくトップニュースを眺めていると、その下に失踪者の捜索願があることに気づいた。
《X日未明、Y村ノ粉挽男Z消息絶ツ。妻
WガZノ突然ノ外出ヲ確認スルモサシテ
気ニセズ引キ止メズ。服装ハ以下ノ通
リ。…》
その内容が目に入って、私の胸は白々しい鳥肌で総毛立った。何が起こったかはつまるところ――ごまかすまでもなかった。捜索願にある写真の人物は、先週観に行ったショーの犠牲者の一人だったのだ。いや、それはいつものことである。但し、名前が違っていた。
とんでもないことをしてしまったのだ。私が一週間前に拍手を送ってその死を見届けた中年男は、あの札つきの不貞夫と容姿のよく似た別人だった。あの赤いマネキンは裁くべき人物と違う男を劇場へ攫い、恐ろしい処刑を下してしまった。そして私達観客は、それを観て囃し立てていたのだ。
私は鍵を貰った日のことを思い出した。あの男は自分の物と申し出ておきながら、なぜかその鍵を拙速に私にくれた。初めからそのつもりだったのだ。失くしたふりをして鍵を落とし、それを私に握らせた上でショーのことを話して私の興味を引き、この鍵を明け渡したかったのだ。訝しげな品ゆえ、市場で売ることはできない。たとえ無銭でも、寧ろそれこそ訝しげだ。しかしその場にいる持ち主に使い道を担保された落とし物なら、ひっそりと貰う者がいるかもしれない。そして私が鍵を使い、新たな観客となり、男は鍵を手放した。かくして男は――恐らく――この様な悲劇から、目を背けた。
私はすぐにタイツを被って劇場へと直行した。普段はひとけのない道を選んで行くが、そんなことを考える余裕はない。大通りの人々は猛進する影男を見るなり怯えた顔で道を空け、そのうちの数人は、私を責める様な目つきで睨んでいた。花籠を運ぶ老女のつまずく音が聞こえた。足先が路傍の水桶を蹴っ飛ばす。既に太陽は山際に傾いて、チューニングの不協和音がひんやり背筋を上り来ている。
開場と同時にテントに鍵を差し、真っ暗の場内を桟敷席に向かって横切った。通路では黒い人々に何度もぶつかったが、素性を知らない者なので会釈もしないで行き過ぎた。赤づくめの司会は、自分の方へ走ってくる私を認めて動揺している様だったが、私は懐から紙を取り出して急いでそこに書きつける。なるほど覆面をしていると漢字など書けたものではない。あの日の隣人の文章がカナだらけだったわけである。
『まちがえてちがう人をころした』
司会は私のメモを一瞥すると、私のペンを借りて返答した。
『あなたが人を殺した?』
私はメモをひったくり、殆ど殴り書きで訂正した。
『あなただ せんしゅうのぎせいしゃの中
に人ちがいがいる』
司会は今度こそ意味を理解した様で、タイツの奥でも分かるほどの震えをして
「何っ」
と声を上げた。
私は持ってきた夕刊を彼の前に突きつけた。彼はそれを自分の額にぐっと押し付け、読みづらそうにして何度も何度も上下させている。信じたくない、信じられない。だが事は事実なのであった。司会は滑らかな顔面で口元を歪め、終いには絶句に尽きてしまった。そこでハッと思って振り返ると、いつの間にあんなにやって来たのだろう、私と同じ黒い甲虫達がすいすい後方で蠢いていた。
「…まずいな……どうにかしないと………」
司会がそう呻いた。場内には続々と観客が集まってきている。しかし今日の犠牲者に人違いがいる可能性は否定できない筈だ。司会は虚ろに頭を振ってうわごとを繰り返すが、その困惑はさながら風刺画の域を出ない。この時ほど覆面を人笑えに思ったことはなかった。
「どうにかしないと…」
オーケストラの幾人かが音出しをし始める。一部の黒子が異変に気づいたのか、背後の気流が不穏に回頭した心地になる。遠くの観客は立ち上がって、しきりにこちらをうかがっている様だった。
「どうにかしないと…どうにかしないと…」
一向にその調子なので、私は覚悟を決めねばならなかった。この場で観客達に事態を報せショーの中止を呼びかける。意を決して、私は夕刊を手に客席の方を振り向いた。
「どうにかしないと…」
その時――。
私の脳裏に聞こえた声が、一つの事実を立ち上がらせた。
「どうにかしないと…どうにかしないと…」
その司会の声は、言葉は、私の耳によく馴染んでいた。
定期的な街宣で市政の窮状を訴える声。
自分の会食を棚に上げ、緊縮財政を呼びかける声。
私の生活から余暇と娯楽を奪い去った権力者の声。
この司会の男は、紛う方なき市長であった。
私は赤いタイツを引っ掴んで桟敷席から引きずり出し、そのまま舞台上へ連れ出した。観客席は騒然となったが、私が頭部の布を破って顔を出させると、最前列の数人が彼の正体に気づいた様だった。
「卑怯者」
私は力の限りに吐き捨てた。オペラグラスの持ち込みを禁止したのは、もし人違いがあっても発覚しないようにするためだったのだろう。自分の非を認めたくない。政治と同じじゃないか。パンはなくてもサーカスでどうにかなるとでも思ったか。パフォーマンスはもう沢山だ。
下手から純潔の獅子が現れた。私は破ったタイツの切れ端を握りしめ、それで市長を引っ張る格好でライオンへと向かった。市長は破れ目に首が締まったまま大声で喚き散らしている。ライオンの両の碧玉がそれを認めて陰翳にてらついた。そして英雄は大きな、一振りの舌なめずりをした。
私は拍手した。市長から手が離れない様に注意しながら、その掌に片手をぶつけた。何度も何度も、何度もぶつけた。悪漢を背に舞台を歩く。しかし独りでではない。市中の人々の拍手が聞こえる。裁きを望む時雨が聞こえる。今の私は彼らと共に、正義の糸で連帯している。
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