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第一章

第六話 BUFFALOの看板娘

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 セノンにとってこの日二度目の宿探しを終え四人は別の宿屋の前に立っていた。
 その宿屋には大きな看板が掲げられておりそこには『BUFFALO』と刻まれていた。

『BUFFALO』は木造建築で二階建てだった。一階のあるスペースには酒場があり、そこでは夜分冒険家たちが酒をに見交わしたり、パーティーが行われたりする。

 セノン達一行はその宿屋に入るとメイド服を着た女性が笑顔で向かい出てくれた。

「いらっしゃいませっ♪ あら、初めてのお客さんですね? こちらへどうぞ」

 メイドさんはそのまま店の奥へと案内する。この時後ろをふわりと振り返りスカートがめくれそうになった。
 この時、一香と瑠美はすかさず政次のほうを睨む。もちろん政次はかわいらしいメイドとその行動で顔を赤らめていた。政次が意識を取り戻すと両手を顔の前で大げさに振っていた。

「違う! 今のは何でもない! ですよね? セノンさんだって! ほら?」

 政次は懸命に二人に説明し、この状況を打破しようとセノンに話を振る。
 しかし、政次の思い通りには簡単にはならない。

「ん? どうかしましたか? あ、ここのメイドさんすごく有名らしいですよ? 冒険家でなくてもメイドを拝むためだけに来る人もいるくらいらしいですよ。一番人気はユリカさん。よかったですね、政次君」

 セノンはコマンドメニューを開いて『BUFFALO』について調べていた。
 セカルドのコマンドメニューは万能な働きをしており、冒険家たちはメモをしたり試練の塔の攻略法、何か物事を調べるときに使ったりする。

「よくないです! ってちょっと、今のは俺をかばうところでしょ! なんなんですか? 何を考えて生きてるんですか?」

 政次はここぞというときいつもこうやってセノンにいじられ続ける。

「あ、メイドさんは全員で五人いるのですか。なるほど、――ん? 何か言いましたか?」

 セノンはとぼけているのか本当に聞いていなかったのかこの答えは誰にも分らない。

「やっぱり、セノンさんはいい人」

 瑠美は政次に視線で訴えようとしている。それに対して少し申し訳なさそうな表情を見せる政次。

「あーあ、そうだったんだー。政次は、あーやって女性らしさがあって、美人さんが好きなんだー」

 一香は瑠美のほうを見て少し声のボリュームを上げて話す。
 すると、瑠美もにこっとした顔を作った。

「ご、ごめんよ~。二人とも。俺が悪かったって」

 真剣に悩みこむ政次。これを見て、セノンがくすくすと笑い始める。すると、女子二人も続きくすくすと笑う。

「まったくも~。これだからみんなは――」

「みんなは? なんなんですか?」

 セノンはすぐに政次をからかう。それを見ていたメイドは、

「皆様、仲がいいのですね? うらやましいです」

 と、ふわりと振り返っていった。

「それでも今日初めて会ったばかりなんですよ! このセノンさんって方が私たちを助けてくれて――」

 しっかりしている一香は政次が答える前にきっぱりと答える。

「そうなんですか? セノンさんってすごいんですね!」

 メイドがセノンを褒めると政次は嫉妬して言う。

「セノンさんばっかりずるい……」

 しかし、セノンはそんな政次の声を聴いてないかのように答える。

「ありがとうございます」

 そんな会話を続けていると、『BUFFALO』の受付へ着いた。

「本日は宿屋『BUFFALO』のお越し頂きありがとうございます♪ 受付の案内をさせていただくユリカと申します。今日のご予定を教えてください♪」

 しかし、四人の口からは予定を言うよりも先に驚きの声しか上がらなかった。

「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」」」」

 それもそのはず、この四人はこのユリカという『BUFFALO』の一番の看板娘の前で彼女の話をしていたからだ。彼女には品はあったが全く大物とは感じさせるものがなかった。それゆえの有名人なのではないかと四人は悟った。

 セノンはコマンドメニューを開いて、改めて彼女のことを調べる。

 すると、そこに乗っていたのは宿『BUFFALO』の看板娘としての情報でなく、現実世界でも[小百合夏帆こゆりかほ]という名前でモデルの仕事をこなし、この時代にも流行しているSNSのフォロワーは一千万人を超えているという情報も出てきた。

「あなたほどのすごい人がなんで宿屋の看板娘なんてやっているんですか?」

 セノンは呆然とした立ち姿のまま問いかける。

「そんなの楽しいからに決まってるじゃないですか? それより、私もセノンさんには興味あるんです。よかったら、あとからお話でもどうですか?」

 ユリカは少しセノンに歩み寄る。それには等間隔を保つようにセノンも下がる。
 そして、セノンは彼女の楽しいからやるっていう言葉、表情からは、何か同じものを感じた。

「わかりました……今日は部屋を三つ夕食付きでお願いしたいです」

 セノンは返事には困らなかったが、小さな男の子の目線も気になってきたため、話を戻す。

「ありがとうございます。準備ができたら連絡ください。そして、かしこまりました! 三つのお部屋を準備いたしますね」

 ユリカはコマンドメニューを開きフレンドと書いてあるをタップし、セノンにフレンド申請を送った。
 セノンにはすぐにその通知が届き了承した。
 フレンドとはセカルドの中で進行が深まった人同士が互いに了解を経てなるものだ。フレンドになると、いつでもメッセージを送ることができるほか、自分の位置情報を送ったりなど様々なことができるようになる。

「セノンさん! なんで部屋を三つもとる必要があるんですか? 教えてください」

「そんなことちょっと考えたらわかることですよ?」

「わかんないですよ!」

 政次はいろいろと言いたそうにしていたが、ここで一番大事なことを最初に聞く。

「そんなこと簡単だよ。まず、わたしと一香で一部屋。あとは一人ずつ。理由も簡単。政次がわたしたちと同じ部屋だと何しでかすか知ったことじゃないから。あとは。セノンさんが政次と同じ部屋ってのもね?」

 セノンの言いたいことはすべて瑠美が代読した。しかし、政次は、

「今までは三人で寝てたじゃん! なんでわざわざ高いお金を払ってまで……」

「それとこれとは別でしょ。もうこれまでとは違うんだし! 政次さん!」

 一香の言葉により政次はノックアウトした。

「こちらがルームキーになります。男の方は二階。女の子たちは三階になります」

 ユリカはタイミングよくカギを取り出し、その場にいた女性の勝ちとなった。

「夕食は一階に酒場となるスペースがあるのでそこに来ていただければご用意します」

「わかりました」

 セノンがお礼を言って三つのカギを受け取った。そのカギはというと一香には手渡しをし、政次は気を失いかけていたので、そっとアイテムポーチの中に入れておいた。
 具現化していると大きく持ち運びに困るためそのアイテムを一度情報化し手に持たずとも所持できているという便利なことができるのがアイテムポーチだ。

「夜の八時に酒場集合。解散」

 セノンは自分のカギをアイテムポーチに入れた後、子供たち三人に指示を出した。
 すると、三人の子供たちは部屋が気になったため走って自分の部屋にいった。

「さて、このあともうフリーになってしまったけど?」

「そうですか。私はいつでも抜けて良いとなっているので……とりあえず、場所を変えますか」

 そういってユリカは受付の後ろにあった扉を開ける。

 開かれた先の場所は丸テーブルとその周りには木でできている椅子がいくつか並べられていた。そこは宿
『BUFFALO』で働く人たちの休憩場として使われている場所だ。

「ここでゆっくりとお話ししましょう」

「わかりました」

 セノンはユリカのいる受付の中に入っていき扉もくぐった。

「ここに座って待っていてください。飲み物を準備しますね! もちろん、サービスですよ?」

 ユリカはそうやっていうとその憩いの場の端まで行きコーヒーの準備をした。

「どうぞ。改めまして、ユリカといいます。本名は知っているかと思われますが小百合夏帆です」

 ユリカはセノンの前と自分の前にコーヒーを置き、椅子に座る。

「セノンといいます。本名は公表していません」

「いいですよ。別に無理して言わなくても」

 二人は会話が始まると現実世界で流行している話の話題へとなった。いま、流行していることはおっさんブラザーズという二人組のお笑い芸人がやっているリズムネタだった。

 面白い話題で二人に空気が和やかになると、セノンは口にした。

「先ほど、僕に聞きたいことがあるとおっしゃっていましたが、それは何だったんですか?」

 セノンがこの言葉を口にすると、これまでとは雰囲気が一転した。

「単刀直入に言います。それは……――」

 ユリカは少しの間を作ってから言い放った。

「私も旅にご一緒させてください!」

 ユリカは立ち上がり深々と頭を下げる。

 それに驚いたセノンは目が点になっている。しかし、返事をしないわけにもいかないため、

「それは、正気ですか?」

 と、頭に思ってもいないことを聞いてしまった。

「はい、正気です。まず、大きな理由はセノンさんという大きな方の近くで生活してみたいということです」

 セノンは実体こそあまり知られていないが、今この時代の日本を生きているのならば、元テルルのギルドメンバーの名前は一般常識の一つだった。

「なるほど……ほかには?」

「私が旅に出たかったということです!」

 ユリカは熱くこのことを言い出した。

 それを聞いたセノンはこれを聞いて止めるつもりは全くなかった。

「私、こう見えても武器も扱えるように努力してきたつもりです。何なら、私と戦ってから決めていただいてもかまいません」

「わかった。わかりましたから。落ち着いてください。まず、答えを言わせてもらいます。その答えは、もちろんオッケーです」

 ユリカはこの言葉を聞けたことのうれしさあまり飛び跳ねて喜びを表す。

「ありがとうございます。それでは、私も今日の夕食皆さんと食べてもいいですか?」

 ユリカは感極まって続けて聞いてしまう。

「もちろんいいですよ。これからよろしくお願いします」

 セノンが手を差し出すとユリカは固く握手をする。

「話はこれだけですか?」

 セノンが立ったまま聞くと、

「はい! これからセノンさんのもとで頑張っていきたいと思います!」

「そうですね、僕も聞きたいことはあったけど、これから一緒ということはまたそのうち知っていくとします。それでは」

 そういってセノンはその場を立ち去り、自分の部屋に行った。
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