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第23話
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沸き立つ教室内。
木理矢は近づいてきた生徒たちの相手をし終えた後、椅子の背もたれへと寄りかかる。
そして、陰キャ組である林平と森生を見た。
林平はいつも通り、無言のまま木理矢を見つめ、嬉しそうに顔を上下に振った。
喜んでいる時の、林平の癖だ。
一方の森生は、林平の表情とは真逆。
険しい表情で瞬きを繰り返しながら、カメラの方を見ていた。
「森生?」
「木理矢君……あれ……」
木理矢からの呼びかけにも、森生は振り向くことさえせず、カメラを指差した。
視線を追って木理矢もカメラを見るが、先程と変わったところはない。
「カメラがどうかしたのか?」
「なんか、奥の方が光ってない?」
「んん?」
木理矢はさらに慎重にカメラを見るが、森生の言った光を見つけることはできなかった。
「日光が反射でもしてるんじゃねえのか?」
しかし、森生の見た光が何かを考え、一つの可能性をはじき出した。
ルッキズムデスゲームは朝から始まり、今は午後二時半を過ぎたところ。
太陽の位置が変わり、カメラの中に反射した日光が映っていてもおかしくはない。
「あ」
だが、森生は納得の表情を作らない。
ただ、一言だけを零し、目を大きく見開いた。
刺していた指を下ろすほど、顔全体で驚きを表現していた。
同時に、スピーカーから機械音声が流れた。
『アール』
『ビー』
『オー』
『オー』
『ティー』
『システムを再起動します』
教室中の視線が、再びスピーカーへと集まる。
「……は?」
木理矢は思わず言葉を漏らした。
そのアルファベットの意味を真っ先に分かったからこそ。
スピーカーは文字列を羅列した後、すぐに沈黙をした。
「なんだ、さっきの?」
「いや、まさかな」
木理矢はカメラのすぐ下まで走り、改めてカメラの奥底を覗き込む。
森生の言った光という異変を探したが、相変わらずカメラに光はない。
木理矢が窓を見れば、丁度太陽に雲がかかっていた。
日光の反射だったのか、カメラの奥底に光があったのか、結局分からずじまい。
次に木理矢は、掛け時計を睨むように見た。
午後二時三十四分。
システムの再起動という言葉が事実であれば、そしてデスゲームを行うAIのプログラムが自動起動の設定をされていれば、次に秒針が十二を指したときに起こることなど容易に想像できた。
木理矢は心の中で最悪の未来を想像しつつ、自身の思い違いであってほしいと願った。
六時間目開始のチャイムが鳴り響く。
『ゲームスタートです』
が、最悪の未来はあっけなくやってきた。
誰も、一歩も動かない。
動けない。
機械音声の示す、終わったはずの悪夢が息をつく間もなく再来した事実を前に。
「なんで! なんでよ! 終わったんじゃないの!?」
恋々がその場に膝をつき、泣き叫ぶ。
恋々の泣き声に呼応して、絶望が教室内を舞う。
「嘘だろ!?」
「また始まるのかよ!」
「大丈夫だ! もう一度、皆でお面を付けよう!」
そんな雰囲気を、力也が大声で吹き飛ばす。
力也は剣でも掲げるように、お面を持った手を上へと伸ばした。
「でも、また再起動されるんじゃ」
「その時は、またお面を被ればいい。何度でも何度でも被ればいい。それを繰り返せば、誰も死ぬことはない! 五時間目のゲームでは、誰も死んでないじゃないか!」
力也の一言が変えていく。
絶望に染まりかけた教室の雰囲気を。
システムの再起動によるデスゲームの再開を、既に誰も死なない方法を見つけ終えたデスゲームの延長という意味へと。
力也の言葉に、生徒たちははっとする。
「そ、そうよ! もう私たちは、デスゲームで誰も死んだりしないじゃない!」
「そうだ! 勝てるんだ! 勝つぞ! 俺たちは、勝つ!」
力也の掲げた強い言葉に、生徒たちは奮い立つ。
「勝つ! 勝つ! 勝つ! ここまで来たら、何としてでも生き延びてやるんだから!」
恋々も涙をぬぐい、勢いよく立ち上がった。
ボサボサの髪が揺る。
「皆、集まれ! 円陣を組むぞ!」
力也の号令で、教室の中心に生徒たちが集まる。
今後の生存で必要なことは、誰も裏切らないこと、つまりは個の勝利ではなく集団の勝利を目指すこと。
陸上部という個と集団の混じり合う競技によってその重要性を知っている力也の行動は最善だったと言える。
円陣に合流しなかったのは、三人。
小暮木理矢。
白鳥瞭。
そして、もう一人。
「森生。お前の仕業か?」
カメラを見つめて動かない、中野森生。
パチリ、パチリと、瞬きを続けている。。
森生が答える代わりに、スピーカーから音声が流れる。
『ドット』
『スラッシュ』
『エー』
『ドット』
『エス』
『エイチ』
『デスゲームを、ノーマルモードからハードモードに変更します。殺す対象を、最も点数の高い男女一名ずつから、ゼロ点以上の男女全員に変更します』
ルール変更を告げる機械音声が響く中、森生がゆっくりと木理矢へ振り向いた。
「そうだよ?」
森生の目に光はなく、ドロリと濁っていた。
世の中に絶望したような、今にも飛び降りて死にそうな、なんの期待も持ち合わさない瞳。
「何故だ?」
木理矢は、林平を責めることも怒ることもなく、ただ問った。
その行動に、親しい友達として同じ時間を過ごした情が、ないとは言えない。
「何故? 生物として強いのか、試しただけだよ」
木理矢からの問いかけに、森生は冷たい声で答え続ける。
「話が見えないな」
「木理矢君。君は、強いからね。ぼくの気持ちなんて、わからないんだよ」
「…………」
デスゲームのルール変更に対して再び騒ごうとした生徒たちは、木理矢と森生の異変を見て動きを止めた。
森生の語る言葉が、デスゲームのルール変更という恐怖よりも強く、生徒たちの足を動かした。
森生の元へと。
「中野、お前……!」
「君たちにもわからないよ。君たちも、強いからね」
森生は、暗い瞳のまま、不気味な笑顔を作った。
木理矢は近づいてきた生徒たちの相手をし終えた後、椅子の背もたれへと寄りかかる。
そして、陰キャ組である林平と森生を見た。
林平はいつも通り、無言のまま木理矢を見つめ、嬉しそうに顔を上下に振った。
喜んでいる時の、林平の癖だ。
一方の森生は、林平の表情とは真逆。
険しい表情で瞬きを繰り返しながら、カメラの方を見ていた。
「森生?」
「木理矢君……あれ……」
木理矢からの呼びかけにも、森生は振り向くことさえせず、カメラを指差した。
視線を追って木理矢もカメラを見るが、先程と変わったところはない。
「カメラがどうかしたのか?」
「なんか、奥の方が光ってない?」
「んん?」
木理矢はさらに慎重にカメラを見るが、森生の言った光を見つけることはできなかった。
「日光が反射でもしてるんじゃねえのか?」
しかし、森生の見た光が何かを考え、一つの可能性をはじき出した。
ルッキズムデスゲームは朝から始まり、今は午後二時半を過ぎたところ。
太陽の位置が変わり、カメラの中に反射した日光が映っていてもおかしくはない。
「あ」
だが、森生は納得の表情を作らない。
ただ、一言だけを零し、目を大きく見開いた。
刺していた指を下ろすほど、顔全体で驚きを表現していた。
同時に、スピーカーから機械音声が流れた。
『アール』
『ビー』
『オー』
『オー』
『ティー』
『システムを再起動します』
教室中の視線が、再びスピーカーへと集まる。
「……は?」
木理矢は思わず言葉を漏らした。
そのアルファベットの意味を真っ先に分かったからこそ。
スピーカーは文字列を羅列した後、すぐに沈黙をした。
「なんだ、さっきの?」
「いや、まさかな」
木理矢はカメラのすぐ下まで走り、改めてカメラの奥底を覗き込む。
森生の言った光という異変を探したが、相変わらずカメラに光はない。
木理矢が窓を見れば、丁度太陽に雲がかかっていた。
日光の反射だったのか、カメラの奥底に光があったのか、結局分からずじまい。
次に木理矢は、掛け時計を睨むように見た。
午後二時三十四分。
システムの再起動という言葉が事実であれば、そしてデスゲームを行うAIのプログラムが自動起動の設定をされていれば、次に秒針が十二を指したときに起こることなど容易に想像できた。
木理矢は心の中で最悪の未来を想像しつつ、自身の思い違いであってほしいと願った。
六時間目開始のチャイムが鳴り響く。
『ゲームスタートです』
が、最悪の未来はあっけなくやってきた。
誰も、一歩も動かない。
動けない。
機械音声の示す、終わったはずの悪夢が息をつく間もなく再来した事実を前に。
「なんで! なんでよ! 終わったんじゃないの!?」
恋々がその場に膝をつき、泣き叫ぶ。
恋々の泣き声に呼応して、絶望が教室内を舞う。
「嘘だろ!?」
「また始まるのかよ!」
「大丈夫だ! もう一度、皆でお面を付けよう!」
そんな雰囲気を、力也が大声で吹き飛ばす。
力也は剣でも掲げるように、お面を持った手を上へと伸ばした。
「でも、また再起動されるんじゃ」
「その時は、またお面を被ればいい。何度でも何度でも被ればいい。それを繰り返せば、誰も死ぬことはない! 五時間目のゲームでは、誰も死んでないじゃないか!」
力也の一言が変えていく。
絶望に染まりかけた教室の雰囲気を。
システムの再起動によるデスゲームの再開を、既に誰も死なない方法を見つけ終えたデスゲームの延長という意味へと。
力也の言葉に、生徒たちははっとする。
「そ、そうよ! もう私たちは、デスゲームで誰も死んだりしないじゃない!」
「そうだ! 勝てるんだ! 勝つぞ! 俺たちは、勝つ!」
力也の掲げた強い言葉に、生徒たちは奮い立つ。
「勝つ! 勝つ! 勝つ! ここまで来たら、何としてでも生き延びてやるんだから!」
恋々も涙をぬぐい、勢いよく立ち上がった。
ボサボサの髪が揺る。
「皆、集まれ! 円陣を組むぞ!」
力也の号令で、教室の中心に生徒たちが集まる。
今後の生存で必要なことは、誰も裏切らないこと、つまりは個の勝利ではなく集団の勝利を目指すこと。
陸上部という個と集団の混じり合う競技によってその重要性を知っている力也の行動は最善だったと言える。
円陣に合流しなかったのは、三人。
小暮木理矢。
白鳥瞭。
そして、もう一人。
「森生。お前の仕業か?」
カメラを見つめて動かない、中野森生。
パチリ、パチリと、瞬きを続けている。。
森生が答える代わりに、スピーカーから音声が流れる。
『ドット』
『スラッシュ』
『エー』
『ドット』
『エス』
『エイチ』
『デスゲームを、ノーマルモードからハードモードに変更します。殺す対象を、最も点数の高い男女一名ずつから、ゼロ点以上の男女全員に変更します』
ルール変更を告げる機械音声が響く中、森生がゆっくりと木理矢へ振り向いた。
「そうだよ?」
森生の目に光はなく、ドロリと濁っていた。
世の中に絶望したような、今にも飛び降りて死にそうな、なんの期待も持ち合わさない瞳。
「何故だ?」
木理矢は、林平を責めることも怒ることもなく、ただ問った。
その行動に、親しい友達として同じ時間を過ごした情が、ないとは言えない。
「何故? 生物として強いのか、試しただけだよ」
木理矢からの問いかけに、森生は冷たい声で答え続ける。
「話が見えないな」
「木理矢君。君は、強いからね。ぼくの気持ちなんて、わからないんだよ」
「…………」
デスゲームのルール変更に対して再び騒ごうとした生徒たちは、木理矢と森生の異変を見て動きを止めた。
森生の語る言葉が、デスゲームのルール変更という恐怖よりも強く、生徒たちの足を動かした。
森生の元へと。
「中野、お前……!」
「君たちにもわからないよ。君たちも、強いからね」
森生は、暗い瞳のまま、不気味な笑顔を作った。
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