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第1話 完璧で究極のお嬢様
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そこは、少年にとって見たことのない場所だった。
室内で五十メートル走でもする気なのかとつっこみたくなる奥行きのダイニングルームに、奥の方でふんぞり返っている少女。
そして、会話用に手渡されたマイク。
学生時代に体育館で発言をしたぶりに受け取ったマイクを見て、少年は固まる。
そんな少年の様子を察し、執事長が代わりにマイクを手に取る。
「お嬢様、彼が先程申し上げた、私に代わってお嬢様の食事管理を担当する執事です」
「へえ、彼が」
少女は、五十メートル先にいる少年を上から下までなめるように見回す。
少年は、圧倒的な強者の視線に、ぶるりと背筋を震わせる。
「ごめん、ちょっと誰か双眼鏡を持って来てくれない? 良く見えなくて」
「あ、ぼくがそちらに伺います」
が、少女のとぼけた態度に、緊張が一気に解けた。
高圧的な話し方とは裏腹に、どこか抜けたような行動。
少年は四十メートルを速足で歩き抜け、少女の横へと立った。
「そう、横に立つのね」
その振る舞いが失敗だったと少年が気づいたのは、少女の鼻で嗤うような一言と、少女の後方に立った執事長の動き。
「あ、すみま」
「いいのよ。庶民に、私と同じ礼儀作法なんて求めていないわ」
少女は虫でも払うように掌をひらひらと動かした後、立ち上がって少年の前に立つ。
その横に、すぐさま執事長が並ぶ。
ブラウンのロングヘアーがつやつやと輝き、豪華絢爛とう言葉が頭の中に浮かぶほど輝いていた。
少女の赤い瞳が少年に刺さり、少年よりも小さいはずの体が、少年には自分より何倍も大きく見えた。
(就職先、間違えたかな……)
内心で不安を抱えながら、少年は逃げるように視線をダイニングテーブルへと向ける。
そして、テーブルの上に置かれている料理に気づく。
キャビア、トリュフ、フォアグラ。
あまりに見慣れない光景に、少年の顔が少女へと戻る。
執事長がコホンと一度咳ばらいをし、少女の代わりに説明を始める。
「さて、君の仕事だが、今日からお嬢様の食事を管理してほしい。ちなみに今は、三大珍味が主食だ」
「正気か!?」
「正気よ。私は完璧で究極のお嬢様よ? 庶民と同じ食べ物なんて、口にできる訳ないじゃない」
「庶民どころか人間の食べ物じゃないんですよ!?」
思わず突っ込んだ少年は、叫びたいことを叫びきった安堵から、急に頭が冷える。
これから雇われようとしている相手に対して不適切な発言だったと気づき、さっと背筋を冷たくした後、おそるおそる少女と執事長の顔を伺う。
が、少年の不安とは対照的に、二人は笑顔を作っていた。
少年を評価していた。
「素晴らしいわ、爺や! ここまで私に怯えず、言いたいことを言ってくれるなら、きっと大丈夫ね!」
「ええ、もちろん! この私の審美眼に、狂いはありませんからな!」
「さすがよ、爺や! 褒美として、首の撤回と日記を見た件は許してあげます!」
「ありがとうございます、お嬢さ……。あれ? 体重の件は?」
「明日から毎日、私の体重分の重りを背負って過ごしてね? あら、よかったじゃない。体重計のデータを盗み見しなくても、私の体重が分かるわよ?」
「あああああ!? 持病の腰痛が悪化するぅ! 腰痛があああああ!」
ぎゃんぎゃんと話す二人を見て、少年は呆気にとられつつも、胸をなでおろした。
少なくとも、就職当日に首になることはなくなったのだから。
少年が不安視していた以上、就職先がフレンドリーだとわかったからだ。
金が必要な少年には、この上ない朗報だ。
少年は、少女と執事長を見つめる。
視線に気づいた少女と執事長は話し合いを止め、少年を見る。
少女は、少年に向ってすっと手を差し出した。
少年は、その手をガッシリと握った。
硬い握手は、信用の証。
主従関係成立の証。
証が交わされた後、少女は自分の左胸に手を当てる。
信用に値する相手だと分かれば、行うことは一つ。
自己紹介である。
「そうそう、名乗るのを忘れていたわね。私の名前は、星野マイよ。これからよろしくね」
「よろしくねえよ! 完璧で究極のお嬢様って名乗ってたから、完璧によろしくねえよ!」
「どうされました? 誰もが目を奪われていくお嬢様を前にしたからといって、その態度はいただけませんねえ」
「むしろ、どうもされないと思ってるんですか執事長!? 紅白にも出て近々二期が始まるタイミングで、おっそろしいパクりぶち込んできたな!?」
「ちなみに私は、執事長の斉藤壱男(さいとういちお)と申します。どうぞ、よろしく」
「お前もかあああああ? 何もよろしくねえよ!? 絶対妻の名前はミヤコとかそんな感じだろ!? パクり二段重ねで大人の事情で休載コースだわ!」
自己紹介と言う平和的なイベントは、まさかの阿鼻叫喚で幕を開けた。
少女と執事長の名前が、某有名漫画と重なり過ぎた。
巨大な権力に消される前に、一人叫んで逃げだしたい衝動に駆られる少年を見て、当事者の二人と言えば顔を見合わせて噴き出していた。
「あっはっはっは!」
「これは、からかいがいのある執事が来きましたね!」
「冗談よ、冗談。そんな都合よく、他の作品と似た名前のキャラクターがいる訳ないでしょう?」
「キャラクターって言っちゃったよ、この人!?」
全身を震わせて、ひとしきり笑い終えた少女と執事長は、ふてくされた少年に向き直る。
からかうことは、この家の伝統だ。
どんな苦境であろうと、どんな想定外の状況であろうと、立ちまわることを求められるが故の伝統美だ。
とはいえ、少年は来たばかり。
さすがに申し訳ないことをしたと反省した二人は、姿勢を正して、改めて少年に向き直る。
「失礼。改めまして、私はこの鳳凰院家の次期当主、鳳凰院向晴(ほうおういんこはれ)です。どうぞ、よしなに」
向晴は、左胸に手を当て、恭しく頭を下げた。
一連の流れは、まるで清流の様に清らかでなめらかで、少年は思わず見とれる。
髪の一本一本がふわりと動く一秒にさえ、高貴と言う二文字が詰まっていた。
「そして私は、この城の執事長にしてお嬢様の専属執事。烏川兆老(うがわちょうろう)と申します。今後、貴方の上司となりますので、どうぞよろしくお願いします」
兆老もまた、左胸に手を当て、恭しく頭を下げた。
一連の流れは、まるで渓流のように力強く勇ましく、少年は思わず感動した。
白い毛と黒い毛が混じった灰色の髪の毛には、熟練と言う二文字が詰まっていた。
少年に、二人の本気が伝わった。
先程までのふざけた行動を帳消しにするほど、少年の心に強い忠誠が刺さった。
少年は姿勢を正し、背筋を伸ばす。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
少年は、見よう見まねで頭を下げた。
不格好ではあるが、気概だけは正しく伝わる一礼を。
少年が頭を上げた時、ふいに全員い笑みがこぼれる。
信頼の笑みが。
そして、向晴が笑顔で口を開く。
「最後に、貴方のお名前を教えていただける?」
「はい。ぼくの名前は、伸比のび田(のびのびた)と申します」
「……ぷっ」
少年の返答に、向晴だけでなく、兆老も噴き出した。
偽名を使って挨拶するという二人に対し、再び偽名を使って返事をするという少年にユーモアを感じ、まさに求める人材であると改めて喜んだ。
「素晴らしい返しですね。国民的アニメのキャラクターだなんて。好きですよ。では、改めて貴方のお名前を」
「伸比のび田です」
「……ですから、そういう冗談はもう」
「伸比のび田です」
向晴と兆老は顔を見合わせ、のび田へと向き直り、大きく口を開けた。
「うっそでしょ貴方!? あれだけ私たちの名前に突っ込んでおいて、自分は国民的アニメの主人公ど真ん中じゃないのおおおおお!?」
「しかも、吾輩たちと違って読み方まで完全一致だとおおおおお!?」
「いやあああああ!? 爺や、こいつ恐あああああい!?」
再び始まる阿鼻叫喚。
今度は、叫ぶ人間が変わって二回戦。
叫び踊る向晴と兆老、首をかしげるのび田。
そんな三人を見つめながら、シェフは今後増えるだろうストレスを予想し、胃痛に苦しんでいた。
室内で五十メートル走でもする気なのかとつっこみたくなる奥行きのダイニングルームに、奥の方でふんぞり返っている少女。
そして、会話用に手渡されたマイク。
学生時代に体育館で発言をしたぶりに受け取ったマイクを見て、少年は固まる。
そんな少年の様子を察し、執事長が代わりにマイクを手に取る。
「お嬢様、彼が先程申し上げた、私に代わってお嬢様の食事管理を担当する執事です」
「へえ、彼が」
少女は、五十メートル先にいる少年を上から下までなめるように見回す。
少年は、圧倒的な強者の視線に、ぶるりと背筋を震わせる。
「ごめん、ちょっと誰か双眼鏡を持って来てくれない? 良く見えなくて」
「あ、ぼくがそちらに伺います」
が、少女のとぼけた態度に、緊張が一気に解けた。
高圧的な話し方とは裏腹に、どこか抜けたような行動。
少年は四十メートルを速足で歩き抜け、少女の横へと立った。
「そう、横に立つのね」
その振る舞いが失敗だったと少年が気づいたのは、少女の鼻で嗤うような一言と、少女の後方に立った執事長の動き。
「あ、すみま」
「いいのよ。庶民に、私と同じ礼儀作法なんて求めていないわ」
少女は虫でも払うように掌をひらひらと動かした後、立ち上がって少年の前に立つ。
その横に、すぐさま執事長が並ぶ。
ブラウンのロングヘアーがつやつやと輝き、豪華絢爛とう言葉が頭の中に浮かぶほど輝いていた。
少女の赤い瞳が少年に刺さり、少年よりも小さいはずの体が、少年には自分より何倍も大きく見えた。
(就職先、間違えたかな……)
内心で不安を抱えながら、少年は逃げるように視線をダイニングテーブルへと向ける。
そして、テーブルの上に置かれている料理に気づく。
キャビア、トリュフ、フォアグラ。
あまりに見慣れない光景に、少年の顔が少女へと戻る。
執事長がコホンと一度咳ばらいをし、少女の代わりに説明を始める。
「さて、君の仕事だが、今日からお嬢様の食事を管理してほしい。ちなみに今は、三大珍味が主食だ」
「正気か!?」
「正気よ。私は完璧で究極のお嬢様よ? 庶民と同じ食べ物なんて、口にできる訳ないじゃない」
「庶民どころか人間の食べ物じゃないんですよ!?」
思わず突っ込んだ少年は、叫びたいことを叫びきった安堵から、急に頭が冷える。
これから雇われようとしている相手に対して不適切な発言だったと気づき、さっと背筋を冷たくした後、おそるおそる少女と執事長の顔を伺う。
が、少年の不安とは対照的に、二人は笑顔を作っていた。
少年を評価していた。
「素晴らしいわ、爺や! ここまで私に怯えず、言いたいことを言ってくれるなら、きっと大丈夫ね!」
「ええ、もちろん! この私の審美眼に、狂いはありませんからな!」
「さすがよ、爺や! 褒美として、首の撤回と日記を見た件は許してあげます!」
「ありがとうございます、お嬢さ……。あれ? 体重の件は?」
「明日から毎日、私の体重分の重りを背負って過ごしてね? あら、よかったじゃない。体重計のデータを盗み見しなくても、私の体重が分かるわよ?」
「あああああ!? 持病の腰痛が悪化するぅ! 腰痛があああああ!」
ぎゃんぎゃんと話す二人を見て、少年は呆気にとられつつも、胸をなでおろした。
少なくとも、就職当日に首になることはなくなったのだから。
少年が不安視していた以上、就職先がフレンドリーだとわかったからだ。
金が必要な少年には、この上ない朗報だ。
少年は、少女と執事長を見つめる。
視線に気づいた少女と執事長は話し合いを止め、少年を見る。
少女は、少年に向ってすっと手を差し出した。
少年は、その手をガッシリと握った。
硬い握手は、信用の証。
主従関係成立の証。
証が交わされた後、少女は自分の左胸に手を当てる。
信用に値する相手だと分かれば、行うことは一つ。
自己紹介である。
「そうそう、名乗るのを忘れていたわね。私の名前は、星野マイよ。これからよろしくね」
「よろしくねえよ! 完璧で究極のお嬢様って名乗ってたから、完璧によろしくねえよ!」
「どうされました? 誰もが目を奪われていくお嬢様を前にしたからといって、その態度はいただけませんねえ」
「むしろ、どうもされないと思ってるんですか執事長!? 紅白にも出て近々二期が始まるタイミングで、おっそろしいパクりぶち込んできたな!?」
「ちなみに私は、執事長の斉藤壱男(さいとういちお)と申します。どうぞ、よろしく」
「お前もかあああああ? 何もよろしくねえよ!? 絶対妻の名前はミヤコとかそんな感じだろ!? パクり二段重ねで大人の事情で休載コースだわ!」
自己紹介と言う平和的なイベントは、まさかの阿鼻叫喚で幕を開けた。
少女と執事長の名前が、某有名漫画と重なり過ぎた。
巨大な権力に消される前に、一人叫んで逃げだしたい衝動に駆られる少年を見て、当事者の二人と言えば顔を見合わせて噴き出していた。
「あっはっはっは!」
「これは、からかいがいのある執事が来きましたね!」
「冗談よ、冗談。そんな都合よく、他の作品と似た名前のキャラクターがいる訳ないでしょう?」
「キャラクターって言っちゃったよ、この人!?」
全身を震わせて、ひとしきり笑い終えた少女と執事長は、ふてくされた少年に向き直る。
からかうことは、この家の伝統だ。
どんな苦境であろうと、どんな想定外の状況であろうと、立ちまわることを求められるが故の伝統美だ。
とはいえ、少年は来たばかり。
さすがに申し訳ないことをしたと反省した二人は、姿勢を正して、改めて少年に向き直る。
「失礼。改めまして、私はこの鳳凰院家の次期当主、鳳凰院向晴(ほうおういんこはれ)です。どうぞ、よしなに」
向晴は、左胸に手を当て、恭しく頭を下げた。
一連の流れは、まるで清流の様に清らかでなめらかで、少年は思わず見とれる。
髪の一本一本がふわりと動く一秒にさえ、高貴と言う二文字が詰まっていた。
「そして私は、この城の執事長にしてお嬢様の専属執事。烏川兆老(うがわちょうろう)と申します。今後、貴方の上司となりますので、どうぞよろしくお願いします」
兆老もまた、左胸に手を当て、恭しく頭を下げた。
一連の流れは、まるで渓流のように力強く勇ましく、少年は思わず感動した。
白い毛と黒い毛が混じった灰色の髪の毛には、熟練と言う二文字が詰まっていた。
少年に、二人の本気が伝わった。
先程までのふざけた行動を帳消しにするほど、少年の心に強い忠誠が刺さった。
少年は姿勢を正し、背筋を伸ばす。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
少年は、見よう見まねで頭を下げた。
不格好ではあるが、気概だけは正しく伝わる一礼を。
少年が頭を上げた時、ふいに全員い笑みがこぼれる。
信頼の笑みが。
そして、向晴が笑顔で口を開く。
「最後に、貴方のお名前を教えていただける?」
「はい。ぼくの名前は、伸比のび田(のびのびた)と申します」
「……ぷっ」
少年の返答に、向晴だけでなく、兆老も噴き出した。
偽名を使って挨拶するという二人に対し、再び偽名を使って返事をするという少年にユーモアを感じ、まさに求める人材であると改めて喜んだ。
「素晴らしい返しですね。国民的アニメのキャラクターだなんて。好きですよ。では、改めて貴方のお名前を」
「伸比のび田です」
「……ですから、そういう冗談はもう」
「伸比のび田です」
向晴と兆老は顔を見合わせ、のび田へと向き直り、大きく口を開けた。
「うっそでしょ貴方!? あれだけ私たちの名前に突っ込んでおいて、自分は国民的アニメの主人公ど真ん中じゃないのおおおおお!?」
「しかも、吾輩たちと違って読み方まで完全一致だとおおおおお!?」
「いやあああああ!? 爺や、こいつ恐あああああい!?」
再び始まる阿鼻叫喚。
今度は、叫ぶ人間が変わって二回戦。
叫び踊る向晴と兆老、首をかしげるのび田。
そんな三人を見つめながら、シェフは今後増えるだろうストレスを予想し、胃痛に苦しんでいた。
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