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第34話 第六回戦・6

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 第六回戦、神様当てゲーム。
 現時点で、参加者たちが神様を探す手掛かりはたった一つ。
 目立つことだ。
 
 京平と青澄の会話は、余りにも不自然で、目立っていた。
 争う理由がないのだ、どちらも神様でないのなら。
 争う理由がないのだ、最優先すべきは両者が生き残ることなのだから。
 争っているとすればそれは、どちらが死ぬか。
 
 どちらが死ぬかを争っているとすればそれは、どちらかが神様。
 
 京平か、青澄か。
 そして、周囲の数人の考えは正しい。
 考えが正しいか否かは、指を刺せばすぐに分かる。
 指を刺して、「こいつが神様だ」というだけ。
 しかし、はずせば自分が指されるという恐怖が確信を求め、周囲の高校生たちは様子見程度に落ち着いた。
 
 
 
「頼む。俺はこれ以上、人を殺したくない」
 
「……っ! 私に……人を殺せってこと!?」
 
 青澄は、自身の言葉が卑怯な言い回しであることを自覚していたが、自身が卑怯者になれるだけで京平を救えるのであればと撤回はしなかった。
 青澄も、自身が死ぬのは恐い。
 しかし、京平が死ぬのも恐い。
 何か都合よく世界が動いてくれないかと夢を見ながら、何か都合よく世界が動くまでの時間稼ぎをするしかできない。
 
「違う。人を、助けるんだ」
 
 時間稼ぎと言うことは、じきに終わるということだ。
 
 京平と青澄の違和感に気づいた数人に、十数人が気づく。
 気付いた十数人の様子に、数十人が気づく。
 気付いた数十人の様子に、数百人が気づく。
 じわりじわりと、視線の数は増えていく。
 
 青澄の目から、涙がこぼれ始める。
 本当の意味で両想いになれたのに。
 本当の意味で思いが伝わったのに。
 世界の残酷さを静かに呪う。
 残酷な世界の成すがままにされるしかない自身の無力さを呪う。
 
「青澄」
 
 京平は青澄に近寄り、頭を撫でた。
 
「どうせ死ぬなら俺は、青澄に殺されたい。せめて、青澄を助けるために死にたい」
 
 京平も、死ぬのは恐い。
 同時に、生きるには罪を犯しすぎたことを知っている。
 極限状態の今だからこそ平静を保って入られるが、デスゲームが終わって日常が戻ってきた後、京平が平静を保ち続けることができるかは甚だ疑問だ。
 萌音も青澄も、いない世界で。
 
「でも……でも……」
 
「頼む。俺を、救ってくれ」
 
 
 
 青澄の視界は、涙でぼやけていた。
 力なく笑う京平の顔が、とても幸せそうに見えた。
 いや、事実として、京平は幸せだった。
 最後の最後、好きな人と本音で話し、自身の罪をその相手に裁かれるのだから。
 救いのなかったデスゲームの着地点としては、上々だ。
 
 周囲の視線が確信を深めていく中、震える青澄の指先が、京平を指す。
 
「こ……こ……。こいつが……、神だ……」
 
 東京都の高校生の前に、青と赤の二枚の紙が現れる。
 もちろん、青澄の前にも。
 終わりに向かって動き始めたことを理解した瞬間、青澄は膝から崩れ落ちた。
 
 一方で、誰もが神様を指名することを恐れ、停滞していた状況に現れた紙は、東京都の高校生たちにとっては救いだった。
 終わってくれという祈りを込めて、宣言する。
 
 処刑賛成。
 処刑賛成。
 処刑賛成。
 
 処刑反対。
 
 青澄は、終わりへせめてもの抵抗をする。
 神様を指名した人間が処刑反対を選ぶのは、ゲームの中でも初めてのこと。
 しかし、一人が反対したところで、結果は変わらない。
 一票に、力はない。
 
 人生最期の時間に、京平は空を見上げていた。
 不気味に光る星たちが、京平を手招きしているように見えた。
 
「死んだら、どうなるんだろ。天国や地獄は、あるのかな」
 
 そして、未来に思いを馳せる。
 
「もしあったら、俺は地獄で、萌音は天国だろうな。会長と副会長も、たぶん天国だろうな」
 
 死後という未来に。
 
「でも、もし同じ場所に行って再会できたなら、謝りたいな。許しては、くれないだろうけど」
 
 京平の全身が、青い光に包まれる。
 京平は、青澄の方へ向く。
 
「青澄、ありがとう」
 
「処刑執行」
 
 青澄が最後に見た京平の顔は、とても幸せそうだった。
 そのまま京平の頭部は破裂して、京平の体は白い床へと堕ちた。
 
「東京都、ゲームクリア」
 
 
 
 
 
 
「……クリア?」
 
「クリアだ」
 
「やった……! やったあああああ!!」
 
 東京都の高校生たちは、喜び、舞った。
 デスゲームから解放された事実に、両手を上げて、抱き合って、喜び狂った。
 同時に襲ってくるのは、怒りである。
 自分たちをデスゲームに巻き込んだ、神様への怒り。
 
「こいつが、元凶!」
 
 怒りを込めて首のない死体に一撃蹴りでも食らわせようと、一人が振り返る。
 
 
 
「あ……あああああああああああああああああああああああああああ!!」
 
 振り返った先では、神様を指名した功労者であるはずの青澄が、京平の死体にしがみついて泣き叫んでいた。
 その目からは涙があふれ続け、落ちても落ちても次の涙が溢れ出てくる。
 しがみついた先の京平の服はぐしゃぐしゃによれて、その力強さがうかがえる。
 
 振り返った高校生に、青澄の心の内はわからない。
 しかし、自身の中に秘められた怒りを他のところで発散しなければならないと考え直す程度には青澄の表情が鬼気迫って見え、京平を蹴ることなくその場を離れる。
 デスゲームは終わった。
 怒りを発散する場所など、未来にいくらでも見つけることができるのだから。
 
 周囲から人が去り、青澄と京平は二人っきりになった。
 二人の周りでは、他の都道府県の高校生たちが、未だデスゲームを続けている。
 が、青澄にとってはどうでもいい。
 
「京平君」
 
 何もかもがどうでもいい。
 
「京平君!」
 
 青澄と京平。
 二人の命を天秤にかけた選択をして、青澄はようやく理解した。
 東京都の高校生全員と京平の命を天秤にかけた選択をして、青澄はようやく理解した。
 神様として、代表者として、京平がずっと行ってきたデスゲームのルール作り、その重さを。
 
「こんなの無理だよ……! こんなの誰も耐えられないよ……! 京平君はずっと、ずっとこんなプレッシャーと戦ってきたんだね……! ずっと一人で、私たちの命を背負ってくれてたんだね……!」
 
 青澄は、京平を抱きしめた。
 まだ温もりのある体を。
 
「大丈夫! 一人じゃないよ! 私が、いるから!」
 
 強く強く抱きしめて、囁いた。
 耳があっただろう場所へ
 
 ――青澄、ありがとう。
 
 京平の声が、聞こえた気がした。
 青澄は、京平の体をそっと床へ寝かせる。
 青澄のやるせない感情の行き場が見当たらない。
 
 否、青澄は気づいていた。
 やるせない感情の行き場なんて、一つしかないことに。
 
 
 
「ゲームクリア」
 
「ゲームクリア」
 
「ゲームクリア」
 
 
 
 
 
 
「三時間経過。残っている神様以外は、ゲームオーバー」
 
 
 
 青澄には、ゲーム終了もどうでもいい。
 神様を見つけられなかった高校生たちの頭部が一斉に破裂したことも、どうでもいい。
 生き残った代表者が、生き残った高校生たちに責められているのも、どうでもいい。
 生き残った高校生たちが、喜んでいるのもどうでもいい。
 
「これにて、ゲームは全部終了。ゲームクリアしたお前たちは、家帰れ」
 
「終わらせませんよ?」
 
 興味があるのは、ただ一つ。
 
 全員の目が、青澄へと向く。
 何を言っているんだと、目で訴えかける。
 神は気まぐれ。
 青澄の言葉が自分たちの命を脅かす可能性があると考えれば、今すぐにでも青澄を止めたい衝動に駆られる。
 が、止められるよりも早く、神が動く。
 
 神の姿が空中から消え、青澄の目の前に立つ。
 止めることはできないと気づいた全員が、青澄を恨んだ。
 神は、面倒くさそうに口を開く。
 
「終わりだよ」
 
「終わらせません。貴方はずっと、勝手にゲームを用意して、勝手にゲームに巻き込んで、私たちを殺してきた。なら、最後の一回くらい、私の勝手に巻き込まれなさいよ!」
 
「……一理あるな」
 
 神は、予想外の行動をする者が好きだ。
 デスゲームで生き残りが決まった人間が、神に牙をむくことは初めてのこと。
 青澄に稀少性を感じた神は、青澄にもう一言だけ話すことを許した。
 
 冥途の土産に。
 
「第七回戦! 神殺しゲーム! ルールは簡単! 殺された方の負けよ!!」
 
 そういうや否や、青澄は駆け出し、神の首に両腕を伸ばす。
 
 青澄には、腕力がない。
 人間一人の首を絞めようとしたところで、無理やり手を剥がされて終わるだろう。
 相手が神となれば、なおのことだ。
 青澄は、武器も持っていない。
 現状、絞殺よりも優れた殺し方を持っていない。
 
 つまり、現時点の青澄は、誰一人として殺せない。
 だからこれは、殺意ではなく、ただの救いだ。
 京平が青澄に殺されることに救いを求めたことと同様に、青澄は神へ反逆することで救いを求めた。
 
「考えりゃあ、自分が参加者になったことはなかったな」
 
 結末は誰もが知っていた。
 
 いつの間にか青澄の意識は途絶え、その首が白い床へと転がった。
 頭部を失った青澄の体は、駆け出した勢いのまま前に倒れ、二度と動くことはなかった。
 
 神は青澄の体を見下ろし、右手で体を掴み上げ、いつの間にか左手に持っていた巨大な袋に投げ込んだ。
 そして、次の瞬間には京平の体の前に立っており、京平の体も掴み上げて巨大な袋に投げ込んだ。
 神は袋をサンタクロースのように担ぎ上げ、上へと跳んで、空中に着地する。
 
「邪魔が入ったが、デスゲームは終了。解散」
 
 
 
 高校生全員の視界が暗転し、気づいたときは各自が通っている高校のグラウンドに立っていた。
 
 デスゲームは、終了した。
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