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第25話 第五回戦・2
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右。
左。
右。
左。
右。
左。
右。
京平が移動を開始してから、四十五分が経過した。
無機質なコンクリートの壁と床だけしかない通路を、ひたすら真っすぐ進んでいく。
九回目の分かれ道を曲がった時点で、何も起こらない。
「杞憂だったか?」
「キユーってなんだ?」
「……余計な心配をしてたってことだ」
「なるほど! 裏切者はいなかったってことだな!」
九回も分かれ道を経れば、三千~四千人の高校生たちもばらばらになる。
京平と馬鬼の周りには、もう誰もいない。
京平は、馬鬼の失言に恐々とすることもなくなり、余裕を持って動けていた。
しかし、余裕は別の不安を作り出す。
京平の脳に、青澄の姿が浮かんでは消えていく。
生きている青澄と、死んでいる青澄。
「無事でいてくれ」
「あん?」
京平の走る速度が、少し上がる。
馬鬼も、つられて上げる。
コンクリートに足音が鳴り、反射し、響き渡る。
「見えた! 次の分かれ道だ!」
「おう!」
京平と馬鬼は、勢いよく十回目の分かれ道を左に曲がった。
「む、曲者」
十回目の分かれ道の先は壁に阻まれた行き止まりで、壁の前には甲冑を来た骸骨が椅子に座っていた。
骸骨は二人を見つけると、腰に指していた刀を抜き、切っ先を二人に向けてきた。
「……やっぱ、裏切者が!」
「おい、どうする?」
「決まってるだろ! 逃げるんだよ! 刀を持ったやつになんて勝てるか!」
まず京平が、後に続いて馬鬼が、百八十度回転して骸骨から逃げ出した。
「むむ! 逃げるとは卑怯なり!」
骸骨は剣を振り上げ、逃げる二人を追う。
京平と馬鬼は、すぐに分かれ道へ戻り、元来た道へ逃げるか分かれ道のもう一本へ逃げるかの判断を迫られた、
元来た道は、行き止まりでないことが保証されている。
もう一本の道は、行き止まりか否かが保証されていない。
京平は迷わず、元来た道を選択した。
もしも京平自身が裏切者ならば、もう一本の道も行き止まりにして、止めをさすと考えたからだ。
京平の後ろからは、ガシャンガシャンと甲冑を構成する部品同士がこすれ合う音が響く。
「……ちくしょう、どうする」
このまま、行き止まりでないことが保証された道を逃げ続ければ、辿り着くのはスタート地点だ。
骸骨がどこまで追ってくるのか京平にはわからないが、スタート地点まで追いかけてくるとすれば、最後には追い付かれてしまう。
かといって、今まで曲がらなかった道は、逃げ道の有無が保証されていない。
「どうする!」
「あれ、ぶっ飛ばせばいいんじゃないか?」
「冗談言ってる場合か!」
京平の悩みは――。
「うわああああ!?」
京平が向かっている先から響く声によって、解消された。
別の行き止まりに出くわした他の高校生たちと、それを追う西洋甲冑の集団によって。
西洋甲冑が合計十体、細い剣を持って、銀の鎧をガシャガシャと動かしながら高校生たちを追っていた。
「嘘だろ……」
京平の後ろには、甲冑の骸骨。
京平の前には、西洋甲冑の集団。
完全に挟み撃ちだ。
京平は足を止め、立ちつくした。
前後に逃げ場はない。
左右には高い高い壁しかない。
「くそっ……!」
京平は壁を上ろうと指を突き立てるが、指が引っ掛かる場所などどこにもない。
指は上から下へと滑り落ち、京平の体は僅かも上にあがらない。
「くそっ……! くそっ……! こんなところで……! 青澄……!」
ガリガリと壁を掻き続け、京平の指の皮膚が擦り切れる。
だらだらと流れ出る血が、壁に血の模様を描く。
西洋甲冑の集団に追われていた高校生たちも京平と馬鬼の姿に気づき、そして向かいから走ってくる甲冑の骸骨に気づき、絶望の表情で足を止める。
「あ……」
「もう……駄目だ……」
絶望が、周囲を包む。
「なあ? だから、あれぶっ飛ばせばいいんじゃねえのか?」
馬鬼を除き。
挟み撃ちになってしまった現状を見てなお不思議そうな顔をする馬鬼に、京平は怒鳴りつける。
「ああ!? ぶっ飛ばせるもんならぶっ飛ばしてみろよ!! 相手は刀を持ってんだぞ!!」
「わかった」
馬鬼は怒鳴る京平に背を向けて、向かってくる甲冑の骸骨に向かって走り出した。
「ほう、ようやく向かってくる気になったか」
骸骨はカラカラと笑い、刀を馬鬼に向って振り下ろす。
次の瞬間、パンッと、まるで蚊を叩いたような音が周囲に響いた。
「……なんだと?」
骸骨の刀は、馬鬼の両手に挟まり、受け止められていた。
「真剣……白刃取りじゃごらぁ!!」
馬鬼が手首を九十度傾けると、刀の刃がボキリと折れて、床へと落ちる。
そして、カランと言う音に気をとられて視線を下に向けた骸骨の顔面を、馬鬼の拳が撃ち抜く。
「ぐべ……ば……!?」
骸骨の顔は砕け、後方に向かって倒れていく。
馬鬼はすぐさま振り返り、西洋甲冑の集団へと向かって走る。
西洋甲冑の集団が剣を構え、馬鬼へ突き出してくる刃の雨を、馬鬼は跳んで交わす。
空中で一体の頭を掴み、着地と同時に首から下を剣身に見立て、西洋甲冑を振り回した。
振り回された西洋甲冑の脚が、他の西洋甲冑の頭を吹き飛ばす。
頭を失った西洋甲冑たちは視覚を失ったようで、手探りで周囲の様子を確かめ始める。
馬鬼は、持ってた西洋甲冑を投げ捨てて、よろよろとする西洋甲冑の足を蹴って倒していく。
ついでに、手に持っていた剣を奪い、手と脚を胴体から切り落としていく。
バラバラにされて動きを封じられた西洋甲冑たちが、芋虫のようにうぞうぞと動く。
しかし、もはや走ることも、剣を揮うこともできない。
完全い無効化された西洋甲冑の中で、馬鬼は京平へと振り返る。
「よお、ぶっ飛ばしたぞ」
「えぇ……」
唖然とする周囲を放っておいて、馬鬼は刀と剣を拾い集める。
そして、京平に一本、逃げ着てきた三人の高校生に一本ずつ剣を渡す。
「これで、戦力が五倍になったな!」
京平は、奥へと向かって歩き始める。
後ろからは、三人の高校生たちもついてきている。
「なあお前、今までどんなゲームやったんだ?」
「えーっと、一回戦が腕相撲で、二回戦が綱引きで、三回戦が人間同士の殴り合いで、四回戦が熊との殴り合いだな」
「全部力比べ!?」
「そりゃあ力比べにするだろう。俺、頭わりぃし」
京平は咄嗟に後ろを振り向いた。
幸い三人の高校生たちは馬鬼の力を恐れて距離をとっており、馬鬼の言葉は聞こえていなかった。
京平は馬鬼を肘で小突く。
「あー、俺また余計なこと言ったか?」
「言った。気を付けてくれ、本当に」
京平は、行動にも発言にも知性を感じない馬鬼が生き残っている理由がわからなかった。
しかし、先の馬鬼の戦闘力と一回戦から四回戦までのゲーム内容を聞いて、ようやく理解した。
馬鬼は、人並み外れた腕力を持っている。
それゆえ、人間だろうと人外だろうと対等以上に戦い、ここまで生き残ってきたのだ。
逆を言えば、巨大迷宮という頭を使うゲームは、馬鬼の最も不得意とするゲーム。
京平は空を見上げる。
雲が示すのは、『2:06:35』。
十回の分岐にたどり着くまでに費やした時間が、およそ五十分。
分岐から分岐の移動にかかる時間が約五分。
「行き止まりか」
先程選ばなかった十回目の分岐の右側は、何もない行き止まりだった。
「最奥が十回目の分岐先だとすれば、ここからゴール地点に辿り着くのはほとんど運だな」
「そうなのか?」
「ああ。片道五十分の大旅だ。当然、全部の分岐を確認するには時間が足りない。そのうえ、もしも一回目の分岐から間違えていたとしたら、スタート地点に戻ってから、一回目の分岐を左に行く必要がある。戻るだけで五十分、左に行ってから最奥に到着するまでさらに五十分。はずしたら、その時点でほぼタイムアップ、ゲームオーバーだ」
「なるほど?」
理解が追い付いていない馬鬼への説明を諦め、京平は考える。
今まで歩いてきた巨大迷路に、ゴール地点へのヒントが隠されていないか。
もしも自分が裏切者で、自分以外の代表者たちを皆殺しにするにはどう迷宮を設計するか。
答えは簡単だ。
最初に左を曲がらなければ正解の道に辿り着けないようにし、代表者たちで合意していた通り最初に右を曲がると、最奥の行き止まりまでトラブルなく辿り着くようにする。
そして、一回目の折り返しまで戻るか悩み、折り返した後に改めて左の道で最奥を目指しても間に合わない設計にする。
京平なら、そうする。
裏切者が京平と同じくらいに性格が悪ければ、裏切者も、そうするはずなのだ。
左。
右。
左。
右。
左。
右。
京平が移動を開始してから、四十五分が経過した。
無機質なコンクリートの壁と床だけしかない通路を、ひたすら真っすぐ進んでいく。
九回目の分かれ道を曲がった時点で、何も起こらない。
「杞憂だったか?」
「キユーってなんだ?」
「……余計な心配をしてたってことだ」
「なるほど! 裏切者はいなかったってことだな!」
九回も分かれ道を経れば、三千~四千人の高校生たちもばらばらになる。
京平と馬鬼の周りには、もう誰もいない。
京平は、馬鬼の失言に恐々とすることもなくなり、余裕を持って動けていた。
しかし、余裕は別の不安を作り出す。
京平の脳に、青澄の姿が浮かんでは消えていく。
生きている青澄と、死んでいる青澄。
「無事でいてくれ」
「あん?」
京平の走る速度が、少し上がる。
馬鬼も、つられて上げる。
コンクリートに足音が鳴り、反射し、響き渡る。
「見えた! 次の分かれ道だ!」
「おう!」
京平と馬鬼は、勢いよく十回目の分かれ道を左に曲がった。
「む、曲者」
十回目の分かれ道の先は壁に阻まれた行き止まりで、壁の前には甲冑を来た骸骨が椅子に座っていた。
骸骨は二人を見つけると、腰に指していた刀を抜き、切っ先を二人に向けてきた。
「……やっぱ、裏切者が!」
「おい、どうする?」
「決まってるだろ! 逃げるんだよ! 刀を持ったやつになんて勝てるか!」
まず京平が、後に続いて馬鬼が、百八十度回転して骸骨から逃げ出した。
「むむ! 逃げるとは卑怯なり!」
骸骨は剣を振り上げ、逃げる二人を追う。
京平と馬鬼は、すぐに分かれ道へ戻り、元来た道へ逃げるか分かれ道のもう一本へ逃げるかの判断を迫られた、
元来た道は、行き止まりでないことが保証されている。
もう一本の道は、行き止まりか否かが保証されていない。
京平は迷わず、元来た道を選択した。
もしも京平自身が裏切者ならば、もう一本の道も行き止まりにして、止めをさすと考えたからだ。
京平の後ろからは、ガシャンガシャンと甲冑を構成する部品同士がこすれ合う音が響く。
「……ちくしょう、どうする」
このまま、行き止まりでないことが保証された道を逃げ続ければ、辿り着くのはスタート地点だ。
骸骨がどこまで追ってくるのか京平にはわからないが、スタート地点まで追いかけてくるとすれば、最後には追い付かれてしまう。
かといって、今まで曲がらなかった道は、逃げ道の有無が保証されていない。
「どうする!」
「あれ、ぶっ飛ばせばいいんじゃないか?」
「冗談言ってる場合か!」
京平の悩みは――。
「うわああああ!?」
京平が向かっている先から響く声によって、解消された。
別の行き止まりに出くわした他の高校生たちと、それを追う西洋甲冑の集団によって。
西洋甲冑が合計十体、細い剣を持って、銀の鎧をガシャガシャと動かしながら高校生たちを追っていた。
「嘘だろ……」
京平の後ろには、甲冑の骸骨。
京平の前には、西洋甲冑の集団。
完全に挟み撃ちだ。
京平は足を止め、立ちつくした。
前後に逃げ場はない。
左右には高い高い壁しかない。
「くそっ……!」
京平は壁を上ろうと指を突き立てるが、指が引っ掛かる場所などどこにもない。
指は上から下へと滑り落ち、京平の体は僅かも上にあがらない。
「くそっ……! くそっ……! こんなところで……! 青澄……!」
ガリガリと壁を掻き続け、京平の指の皮膚が擦り切れる。
だらだらと流れ出る血が、壁に血の模様を描く。
西洋甲冑の集団に追われていた高校生たちも京平と馬鬼の姿に気づき、そして向かいから走ってくる甲冑の骸骨に気づき、絶望の表情で足を止める。
「あ……」
「もう……駄目だ……」
絶望が、周囲を包む。
「なあ? だから、あれぶっ飛ばせばいいんじゃねえのか?」
馬鬼を除き。
挟み撃ちになってしまった現状を見てなお不思議そうな顔をする馬鬼に、京平は怒鳴りつける。
「ああ!? ぶっ飛ばせるもんならぶっ飛ばしてみろよ!! 相手は刀を持ってんだぞ!!」
「わかった」
馬鬼は怒鳴る京平に背を向けて、向かってくる甲冑の骸骨に向かって走り出した。
「ほう、ようやく向かってくる気になったか」
骸骨はカラカラと笑い、刀を馬鬼に向って振り下ろす。
次の瞬間、パンッと、まるで蚊を叩いたような音が周囲に響いた。
「……なんだと?」
骸骨の刀は、馬鬼の両手に挟まり、受け止められていた。
「真剣……白刃取りじゃごらぁ!!」
馬鬼が手首を九十度傾けると、刀の刃がボキリと折れて、床へと落ちる。
そして、カランと言う音に気をとられて視線を下に向けた骸骨の顔面を、馬鬼の拳が撃ち抜く。
「ぐべ……ば……!?」
骸骨の顔は砕け、後方に向かって倒れていく。
馬鬼はすぐさま振り返り、西洋甲冑の集団へと向かって走る。
西洋甲冑の集団が剣を構え、馬鬼へ突き出してくる刃の雨を、馬鬼は跳んで交わす。
空中で一体の頭を掴み、着地と同時に首から下を剣身に見立て、西洋甲冑を振り回した。
振り回された西洋甲冑の脚が、他の西洋甲冑の頭を吹き飛ばす。
頭を失った西洋甲冑たちは視覚を失ったようで、手探りで周囲の様子を確かめ始める。
馬鬼は、持ってた西洋甲冑を投げ捨てて、よろよろとする西洋甲冑の足を蹴って倒していく。
ついでに、手に持っていた剣を奪い、手と脚を胴体から切り落としていく。
バラバラにされて動きを封じられた西洋甲冑たちが、芋虫のようにうぞうぞと動く。
しかし、もはや走ることも、剣を揮うこともできない。
完全い無効化された西洋甲冑の中で、馬鬼は京平へと振り返る。
「よお、ぶっ飛ばしたぞ」
「えぇ……」
唖然とする周囲を放っておいて、馬鬼は刀と剣を拾い集める。
そして、京平に一本、逃げ着てきた三人の高校生に一本ずつ剣を渡す。
「これで、戦力が五倍になったな!」
京平は、奥へと向かって歩き始める。
後ろからは、三人の高校生たちもついてきている。
「なあお前、今までどんなゲームやったんだ?」
「えーっと、一回戦が腕相撲で、二回戦が綱引きで、三回戦が人間同士の殴り合いで、四回戦が熊との殴り合いだな」
「全部力比べ!?」
「そりゃあ力比べにするだろう。俺、頭わりぃし」
京平は咄嗟に後ろを振り向いた。
幸い三人の高校生たちは馬鬼の力を恐れて距離をとっており、馬鬼の言葉は聞こえていなかった。
京平は馬鬼を肘で小突く。
「あー、俺また余計なこと言ったか?」
「言った。気を付けてくれ、本当に」
京平は、行動にも発言にも知性を感じない馬鬼が生き残っている理由がわからなかった。
しかし、先の馬鬼の戦闘力と一回戦から四回戦までのゲーム内容を聞いて、ようやく理解した。
馬鬼は、人並み外れた腕力を持っている。
それゆえ、人間だろうと人外だろうと対等以上に戦い、ここまで生き残ってきたのだ。
逆を言えば、巨大迷宮という頭を使うゲームは、馬鬼の最も不得意とするゲーム。
京平は空を見上げる。
雲が示すのは、『2:06:35』。
十回の分岐にたどり着くまでに費やした時間が、およそ五十分。
分岐から分岐の移動にかかる時間が約五分。
「行き止まりか」
先程選ばなかった十回目の分岐の右側は、何もない行き止まりだった。
「最奥が十回目の分岐先だとすれば、ここからゴール地点に辿り着くのはほとんど運だな」
「そうなのか?」
「ああ。片道五十分の大旅だ。当然、全部の分岐を確認するには時間が足りない。そのうえ、もしも一回目の分岐から間違えていたとしたら、スタート地点に戻ってから、一回目の分岐を左に行く必要がある。戻るだけで五十分、左に行ってから最奥に到着するまでさらに五十分。はずしたら、その時点でほぼタイムアップ、ゲームオーバーだ」
「なるほど?」
理解が追い付いていない馬鬼への説明を諦め、京平は考える。
今まで歩いてきた巨大迷路に、ゴール地点へのヒントが隠されていないか。
もしも自分が裏切者で、自分以外の代表者たちを皆殺しにするにはどう迷宮を設計するか。
答えは簡単だ。
最初に左を曲がらなければ正解の道に辿り着けないようにし、代表者たちで合意していた通り最初に右を曲がると、最奥の行き止まりまでトラブルなく辿り着くようにする。
そして、一回目の折り返しまで戻るか悩み、折り返した後に改めて左の道で最奥を目指しても間に合わない設計にする。
京平なら、そうする。
裏切者が京平と同じくらいに性格が悪ければ、裏切者も、そうするはずなのだ。
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