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第13話 第二回戦・4

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「セット! セットしたぞ!」
 
 テーブルの周りに群がる生徒たちの壁をこじ開けて、二年三組の大塚祐樹は、無事に五枚のカードをテーブルにセットした
 この瞬間、二年三組のゲームクリアが確定した。
 が、役目を終えて安心する祐樹にも、他の生徒たちの手が伸びてくる。
 
「頼む! カードをくれ! 余ってるカードを!」
 
「まだあるんでしょ? お願い!」
 
「金! 金を払う! 生き延びることができたら、必ず払う! だから! 助けてくれ!」
 
 
 
 慧一は最初、何が起きているのかわからなかった。
 群がってくる生徒たちの隙間からテーブルが見える。
 既に、三年二組と三年三組のプレートの下には、五枚のカードがセットされている。
 二年三組が三番目。
 慧一は、左手の甲の時間を見る。
 
 00:05:16。
 
 タイムアップまで、残り五分強。
 残り時間に対して、カードをセットしてくるクラスの数が、あまりにも少なすぎた。
 どれだけ強い役を揃えていようとも、セットが間に合わなければ意味がない。
 であれば、既に探すのを諦め、セットを終えててもいい時間。
 
 慧一は考えた。
 カードがセットされていない理由を。
 
「……あ!?」
 
 そして、思い至った。
 
 シンプルな話だ。
 二年三組は、京平の手に入れたキングのカードによって、クイーン以下のカードを早々に乱獲した。
 クイーンも。
 ジャックも。
 十も。
 九も。
 八も。
 七も。
 六も。
 五も。
 四も。
 三も。
 他のクラスが、役を揃えるために必要な分まで。
 結果、ゲームバランスは完全に壊れた。
 
 二年三組以外のクラスが手に入れることができたカード枚数は、六枚から七枚。
 十五クラス中十二クラスが、ノーペアの状況を作り出していた。
 いくら大きな数を手に入れて、多くのカードを探知できるようになろうと、肝心の探知できるカードが二年三組によって回収されていれば、役に立たない。
 いくら絵札のカードを手に入れようと、複数枚を手に入れなければ役としては使えない。
 二年三組は知らず知らず、他のクラスの勝機を刈り取っていた。
 
 
 
 なお、この状況を予想して早々に動いたのが、生徒会長一率いる三年二組だ。
 最初の一時間、一は二年三組同様、誰がどこを探すかを決定したうえでカードの捜索を開始した。
 入手したカードは、一時間で三枚。
 そして、一時間半で五枚。
 
 少なすぎる、というのが一の感想だ。
 数字の大きなカードほど探すのに時間がかかる場所にある、そして入手したカードは他のカードの探知機の役割を果たす、というルールを看破してなお、カードを見つける速度がさして上がっていないことに疑問を抱いた。
 他のチームが同様にルールを発見したうえで行動していると仮定しても、見つかる数が少なすぎた。
 抱いた仮定は二つ。
 一つ目は、十五クラス全てが役を作れるほどカードが存在しない、最初から全クラスがカード不足に陥ることを前提としたゲームであること。
 二つ目は、学校にばら撒かれたカードは十分にあるが、一部のクラスが三年二組の見つけていないルールによって大量のカードを入手し、結果他のクラス分のカードが不足していること。
 
 その答えは、走り回る二年三組の生徒を見てすぐに分かった。
 二年三組の持つカードは多すぎた。
 
「俺たちと、手を組まないか?」
 
「え?」
 
 よって、一はカード探しを早々に諦めて、たまたま近くにいた三年五組の友人を捕まえ、手を組むことを提案した。
 初めは疑いの目を向けていた三年五組の代表も、一の説明と三年五組の状況を照らし合わせ、現状を理解し、一の案を飲んだ。
 二クラスで集めたカードを合わせれば、ペアが三つ。
 どちらかがワンペアで、どちらかがツーペアを揃えることができた。
 少々の口論の後、最終的には一と三年五組の代表のじゃんけんで、三年二組がツーペア、三年五組がワンペアとなり、ゲーム開始から二時間が経過した時点で、早々にカードをテーブルにセットしていた。
 大半のクラスが役を揃えることができず、ワンペアでも充分にゲームクリア圏内に入るという一の読みは、的中した。
 
 
 
 現状を理解した慧一は、焦ってカードを取り出す。
 慧一とて、できるだけ多くの人間を助けたいという思いがある。
 
「頼む! 俺にくれ!」
 
「私! 私よ! まだ、役が揃ってないの!」
 
「うちのクラスだってまだだよ!」
 
 が、この場において救うことができる立場がいかに過酷なものか、慧一は気づいて青ざめた。
 否、慧一だけではなく、二年三組のカードを持っている生徒たち全員が青ざめた。
 カードを渡せば、渡した相手のクラスは救われるかもしれない。
 しかし、渡していない相手のクラスは全員が死亡する。
 カードを渡したとして、どの役が揃ったかで、やはりクラスの全員が死亡する。
 一言で言おう。
 二年三組の生徒は、他クラスの生殺与奪の権を握った。
 
「え、これ、どうしたら?」
 
「誰に渡したらいいんだよ!?」
 
 重い重い、権利を。
 
「あ、あの、持ってるカードを見せるので、どのクラスが何のカードを取るか話し合いを」
 
「ふざけんな!!」
 
「そんなの決めれるか!!」
 
 誰からともなく発せられた駄目もとの提案は、カードをセットできていないクラスの生徒たちにあっさりと却下された。
 当然だ。
 死ぬクラスを決めろという提案に乗るクラスはない。
 
「あ、じゃ、じゃあ、カードをばら撒くので、早い者勝ちで」
 
「ぶっぶー! 二年三組の生徒が持つカードの所有権は、二年三組の物! 所有権の放棄はできまっせーん! できるのはー、譲渡か交換のみー! さ、早く渡して、助けてあげちゃってください!」
 
 責任を放棄するために生み出した提案も、ルールを守るすかい君にあっさりと却下された。
 ルール説明時には救いと思われた譲渡と交換を許可するルールが、ここにきて牙をむく。
 
 慧一に、二年三組の生徒たちの視線がぶつかる。
 指示をくれと、視線がぶつかる。
 しかし、慧一にはどうすることもできなかった。
 ぐちゃぐちゃになった思考では何も言うことができず、泣きそうな顔で俯いた。
 司令塔は、いなくなった。
 
 頭を失った二年三組の生徒の行動は、様々だ。
 
「う……う……!? うわあああああ!!」
 
「あ、逃げるな!」
 
「俺たちを見殺すのか!」
 
 ある者は、カードを抱えたまま逃げ出した。
 
「あげます! あげますううう!!」
 
「ありがとう! ありがとう!」
 
「ふざけんなー! 人殺しー!」
 
 ある者は、目を瞑ったまま目の前の相手にカードを押し付けた。
 
「あ……ああ……」
 
「こいつ、気を失ったぞ!」
 
「せめてカードを渡してからにしてくれ!」
 
 ある者は、強すぎるプレッシャーを前に意識を失った。
 
 00:01:00。

「残り、一分!」
 
 すかい君の声が、無情に響く。
 テーブルの周りには絶望が渦巻いていた。
 
「嫌だー! 死にたくないー!」
 
「早く……! 早くカードを……!」
 
 
 
 00:00:33。
 
 
 
 00:00:10。
 
 
 
 00:00:01。
 
 
 
 
 
 
 00:00:00。
 
 
 
「タイムアーップ! ではー、セットされたカード、オープン!」
 
 すかい君がテーブルの上空へと移動し、楽しそうな声を出しながらテーブルを指出す。
 セットされていた五枚のカードは、ぴょんと飛び跳ね、ひっくり返り、各クラスの役を公開した。
 
 一年一組、セットなしでノーペア。
 一年二組、セットなしでノーペア。
 一年三組、セットなしでノーペア。
 一年四組、セットなしでノーペア。
 一年五組、セットなしでノーペア。
 二年一組、セットなしでノーペア。
 二年二組、セットなしでノーペア。
 二年三組、ストレートフラッシュ。
 二年四組、ワンペア。
 二年五組、セットなしでノーペア。
 三年一組、セットなしでノーペア。
 三年二組、ツーペア。
 三年三組、セットなしでノーペア。
 三年四組、セットなしでノーペア。
 三年五組、ワンペア。
 
「第一位、二年三組! 第二位、三年二組! 第三位が同列で、二年四組と三年五組! 同列第五位がその他のクラス! 宝探しポーカーは上位五クラスがゲームクリアなので、第三位以上は皆ゲームクリア! おめでとーございまーす!」
 
 宝探しゲームは、カードを探す妨害が禁止。
 力ずくで奪うのも禁止。
 暴力は、ルールに引っかかる可能性があったから、誰も使えなかった。
 逆を言えば、ゲームが終わった今、暴力は肯定される。
 
 一人の生徒が、慧一の頬を思いっきり殴り、慧一は仰向けに倒れる。
 
「ふざ……ふざけんな……! お前がカードを渡してれば……俺は……俺は……!!」
 
「一年一組、一年二組、一年三組、一年四組、一年五組、二年一組、二年二組、二年五組、三年一組、三年三組、三年四組。ゲームオーバー」
 
 慧一を殴った生徒の頭部が破裂する。
 慧一の周囲に立つ生徒たちの頭部が破裂する。
 グラウンドに、血の雨が降る。
 頭部を失った体が、バタバタと倒れていく。
 十一クラス分。
 二百人程度の死体が。
 
「ぐ……おえええ……」
 
 血に、吐しゃ物が混じり、何とも言えない匂いが運動場に漂っていた。
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