神様ゲーム ~殺すのは貴方です~

はの

文字の大きさ
上 下
7 / 35

第7話 勝者

しおりを挟む
「はーい! ゲームクリアした皆は、これにて解散です! お疲れ様でしたー!」
 
 死体転がる教室で、すかい君は元気に言った。
 
「次のゲームは、一週間後! 来週まで元気に過ごして、来週またこの場所で会いましょう! 遅刻したり休んだりしたら……殺しちゃいますよー? ではまたっ!」
 
 地獄への切符を置いて。
 すかい君はぴょんと飛び跳ねたと思えば、全身がどんどん小さくなっていき、そのまま消えてしまった。
 
「う……うげええええ……!」
 
 一人の生徒が膝をつき、その場に嘔吐した。
 連鎖し、他の生徒たちもごみ箱や窓へと走り、体の中に溜まった悪い物を吐き出していく。
 生きた。
 生きてしまった。
 殺した。
 助けられなかった。
 死んだ。
 死んだ。
 死んだ。
 各々が、胃の中身と感情を吐き落としていく。
 
 開いた窓は、デスゲームが終了した証。
 開いた窓から入ってくる、隣の教室から聞こえる声。
 隣の教室でもデスゲームが行われていたという、何よりの証。
 全てを出し切った後は、現実を受け入れ、現実から目を背ける。
 そして、未来を見るしかない。
 
「生き残った……! 俺たちは生き残ったんだ!!」
 
 ただ、生きた今を喜んで未来につながったと考えることで、デスゲームという恐怖も友人の死という悲しさも、忘れるしかない。
 泣きながら、喜んだ。
 
「ありがとう豚山君……。助かったわ……」
 
「ぶひ!? い、いや」
 
 萌音は、茂雄の手をぎゅっと握って、お礼を言った。
 女子との交流が乏しい茂雄は、握られた手にどぎまぎとしながら、気の利いた返しをしようとして、結局できなかった。
 
 そんな二人の様子を、京平は悔しそうに見る。
 想像していた結末に辿り着けず、萌音が自分以外の誰かに向ける感謝の言葉に嫉妬して。
 しかし、すぐに自身の考えを恥じた。
 京平にとって、最高の結末ではなかったが、悪い結末ではなかったのだから。
 萌音が、生き残ったのだから。
 
 代わりに、京平が得た物と言えば。
 
「あ、あの、東君」
 
「ん?」
 
「た、助けてくれてありがとう」
 
 京平が助けた、青澄からの感謝の気持ちだ。
 
「ああ、うん」
 
 京平は、自身が助かった時の光景を思い出した。
 京平が、ぴょんこつのパンツを履いている青澄に手を上げさせてしまったことを。
 
「あ、白石さん……。その……ごめん」
 
 男子が女子にパンツの柄を聞くなど、平時であればセクハラもいいところ。
 翌日から、女子全員から白い目で見られ、男子からは呆れの表情を向けられ、ぼっち生活に突入してもおかしくはない。
 だから、京平は即座に謝った。
 
「い、いいの。助かるためだったんだから」
 
 青澄は顔を赤くしたまま、両手をぶんぶんと振って、京平を許した。
 というより、青澄にはもともと怒りなどない。
 秘密を知られた恥ずかしさこそあれ。
 
「京平! 良かった! 生きてた!」
 
 青澄との会話を終えたタイミングで、京平の元へ萌音が駆け寄ってくる。
 萌音は京平の手をぎゅっと握って、上下へ激しく振った。
 
「萌音!?」
 
「良かったー! 良かったよー!」
 
 萌音の目からは大粒の涙がぼろぼろと流れ、萌音がどれだけ京平を心配したかがうかがえる。
 
「ああ。お互い、生きててよかったな」
 
 京平は、萌音が生きていた安心感で、安らかに笑う。
 
「京平君、君のおかげで助かったよ」
 
 慧一が、京平の背中に声をかける。
 京平が振り向くと、涙を流し切って目が赤い慧一が立っていた。
 慧一には、男女問わずに仲の良い友達が多かった。
 死んだ生徒の内、何人が慧一と仲が良かったのかを考えると、京平にも慧一の悲しみが流れ込んできた。
 
「……ごめん」
 
 それ故、京平から出てきた言葉は謝罪だった。
 京平にとっては、萌音を生かすことしか考えていなかったからこその謝罪。
 デスゲームの背景を知らない慧一は、京平の言葉を「俺の一言のせいで、大勢の人間が死ぬ結果になってごめん」と解釈した。
 慧一は、慰めるように微笑んで、京平の肩に手を乗せた。
 
「いや、京平君がルールの穴を見つけて、叫んでくれて助かった。最悪だったのは、男子たちが誰もプロフィールを当てることができず、次々死んでしまうことだ。そうなれば、半分どころか、もっと死んでいただろう。これだけの人が生き残ったのは、君のおかげだ」
 
「そうだよ! 京平のおかげだよ!」
 
「そうです! 東君を、誰も責めたりしませんよ!」
 
 慧一に続くように、萌音と青澄も京平のフォローに回る。
 
「ありがとう」
 
 京平は、複雑な感情を抱いたまま、一言だけ呟いた。
 
 
 
 その後は、どの教室の担任にもなっていない教師が事情を知り、半信半疑で教室を訪れて絶句した。
 腰を抜かして驚いて、しかし教師としての使命感が血塗られた教室に生徒を残しておくのは危険だと判断し、学校全体に休校を通達した。
 死んだ者のために警察に電話をし、生きた者のために病院に電話をし、走り回った。
 
 始業時間から三十分も経っていない。
 時刻は午前九時を過ぎた頃。
 京平たちも荷物を持って教室を出て、続々と帰路に就く。
 口を開くものは少ない。
 教室の外にある日常が、さっきまでいた非日常をより強調させた。
 
 隣の教室からも、高校二年生の生徒たちが出てくる。
 高校三年生の生徒たちも、階段を降りている。
 
「あ、会長!」
 
 階段を降りてきた男子生徒の一人に、萌音が駆け寄る。
 男子生徒――永星一は、黒縁眼鏡を人差し指と親指で調整しながら、駆け寄ってくる萌音を見る。
 そして、疲れ切った表情で無理やり笑顔を作ると、立ち止まって萌音を迎えた。
 
「やあ、西月さん。君も生きてたか。よかった」
 
「はい! 会長もご無事でよかったです!」
 
 一は生徒会長であり、生徒会書記の萌音とは見知った間柄だ。
 京平は直接面識こそないものの、萌音から一の話は聞いていたし、学校行事の度に全校生徒の前に立つ一のことは認識していた。
 百七十七センチメートルの高身長と細マッチョなスタイル、学年一位の頭の良さ、加えて甘いマスクと称される容姿。
 一は、女子生徒たちの間で人気が高かった。
 萌音と同じ生徒会と言うことで、京平は当初こそ一に対して良い印象はなかったが、告白してくる女子を次々振っているという噂を聞けば、嫉妬の炎も自然と収まっていった。
 
「生きてたのは偶然だよ。たまたま、ぼくの得意なゲームだっただけだ」
 
「会長は、全校生徒のプロフィールを把握してるので、真っ先にゲームをクリアされました」
 
 一の隣に立っていた、生徒会副会長の日生千雪が補足する。
 
「え!? 相変わらずすごいですね」
 
「生徒会長だからね。このくらいは」
 
 余談だが、京平は千雪に親近感を抱いていた。
 常に真面目が貼りついた表情をしているが、千雪が一に向ける視線は片思いしている人間特有のそれであり、同じく萌音に片思いをしている京平には、千雪が一に片思いしていることがすぐにわかった。
 そして、一と千雪の幼馴染かつ同じ生徒会という距離感も、京平と萌音の幼馴染かつ同じクラスという距離感に重なっていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ルッキズムデスゲーム

はの
ホラー
『ただいまから、ルッキズムデスゲームを行います』 とある高校で唐突に始まったのは、容姿の良い人間から殺されるルッキズムデスゲーム。 知力も運も役に立たない、無慈悲なゲームが幕を開けた。

令和百物語 ~妖怪小話~

はの
ホラー
今宵は新月。 部屋の灯りは消しまして、百本の蝋燭に火を灯し終えております。 魔よけのために、刀も一本。 さあさあ、役者もそろいましたし、始めましょうか令和四年の百物語。 ルールは簡単、順番に怪談を語りまして、語り終えたら蠟燭の火を一本吹き消します。 百本目の蝋燭の火が消えた時、何が起きるのかを供に見届けましょう。

終焉の教室

シロタカズキ
ホラー
30人の高校生が突如として閉じ込められた教室。 そこに響く無機質なアナウンス――「生き残りをかけたデスゲームを開始します」。 提示された“課題”をクリアしなければ、容赦なく“退場”となる。 最初の課題は「クラスメイトの中から裏切り者を見つけ出せ」。 しかし、誰もが疑心暗鬼に陥る中、タイムリミットが突如として加速。 そして、一人目の犠牲者が決まった――。 果たして、このデスゲームの真の目的は? 誰が裏切り者で、誰が生き残るのか? 友情と疑念、策略と裏切りが交錯する極限の心理戦が今、幕を開ける。

このつまらない世界に風穴を

阿波野治
ホラー
この世界はつまるところ、つまらない。そんな世界でミクは希望を見出だした。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

猫と死者のロンド

えりっく
ホラー
巷で噂の誘拐犯 それは十二年前の犯人と同一人物なのか。 さらわれた子どもたちの生き残りである浅野は 救えなかった友人のことを引きずり続ける。 二十三歳になった浅野は 元ホステスの萌と、その息子の陸翔と同居していた。 そこへ彼女の勤務していた店の黒服が訪ねてきて……。 どこか陰のある黒服の青年レンと その青年のストーカーであるイカれた看護師上原 そしてその上原が密かに働くデリバリーヘルスの同僚さくら さくらを指名し続ける自称映画監督 彼らを鋭い目で見張り続ける黒き王 さらわれた少年、島崎と江波の不穏な関係性 彼らの人生が様々なかたちで交差して地獄を生んでいく。

「蝕人植物」―植物の叛逆―

我破破
ホラー
植物の叛逆、それは人類の終わりを意味していた。 食虫植物ならぬ蝕人植物が跋扈する世界。そんな中で笹切槍矢(ささぎりそうや)は一人、バーナー・ブレードを手に立ち上がる。それは、たった一人残った姉を守る為だった……。

常世の狭間

涼寺みすゞ
ホラー
生を終える時に目にするのが このような光景ならば夢見るように 二つの眼を永遠にとじても いや、夢の中で息絶え、そのまま身が白骨と化しても後悔などありはしない――。 その場所は 辿り着ける者と、そうでない者がいるらしい。 畦道を進むと広がる光景は、人それぞれ。 山の洞窟、あばら家か? それとも絢爛豪華な朱の御殿か? 中で待つのは、人か?幽鬼か? はたまた神か? ご覧候え、 ここは、現し世か? それとも、常世か?

処理中です...