令和百物語 ~妖怪小話~

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玖拾壱 鬼神

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 ホモ・サピエンス。
 現存する唯一の人類にして、現代の地球の覇者。
 
 地球に置いて、多くの種類の人類が生存していたにも関わらず、ホモ・サピエンスだけが現存している理由は何か。
 
 道具を作り、操る能力が高かったからか。
 火を扱い、肉や炭水化物を食すことができたからか。
 動物も人間も殺すことができる、残虐性があったからか。
 
 答えはわからない。
 
 過去のことは、痕跡を辿り仮説を立てることしかできず、正しい答えはわからない。
 
 しかし、一つ言えることは、ホモ・サピエンスは生存と言う勝負において強者だったという事だろう。
 他の人類を駆逐し、人間になったという事だろう。
 
 ゾウと比べて巨大でもない。
 ゴリラと比べて腕力もない。
 チーターと比べて脚力もない。
 
 他の哺乳類と比べても、肉体的には劣等種でしかない
 
 しかし勝った。
 進化し、生存し、勝ったのだ。
 
 世界はいつだって、勝者が作る。
 世界で正しいのは、いつだって勝者。
 
 弱肉強食。
 
 勝者だけが全てを手にし、敗者は権利も命も差し出すしかないのだ。
 
 
 
「なかなか良き土地じゃ」
 
「のう。神界があと数億年で住めんくなると言われた時は、どうしようかと思ったが……。なるほど、ここはええ場所じゃな」
 
 それは、野生の話ではない。
 原始時代の話でもない。
 
 人間が、自然界の一員として生きる以上、いつでも起こりうる話だ。
 
 鬼門をくぐり、鬼神たちは現れた。
 
 並の人間の五倍はあろうかという巨体。
 頭部からは角が生えており、皮膚は赤く硬い。
 巨大な目でギョロギョロと周囲を見渡し、世界が汚れていることに気づく。
 
「掃除が必要じゃなあ」
 
「ほうじゃのお」
 
 人間であれば、どうするだろうか。
 泊まれる場所を求めて森を歩いている時、雨風凌げそうな廃墟を見つけたらどうするだろうか。
 とりあえず入るだろう。
 廃墟の中を見ると、蜘蛛の巣をはって蜘蛛が休み、小さな兎が雨風を凌いでいるならばどうするだろうか。
 蜘蛛ごと蜘蛛の巣を払い、小さな兎を外へ放り出すだろう。
 払える限りの埃を払うだろう。
 壁に穴が空いてれば物を立てかけて塞ぐだろう、
 
 邪魔なものは追い出すだろう。
 可能な限り心地の良い環境に変えるだろう。
 
 だから、鬼神たちの行動は、極めて正しい行動。
 
 うぞうぞと逃げ回る人間たちを、手で払い殺すのも正しい行動。
 ぼこぼこと生えている家やビルと、手で払い壊すのも正しい行動。
 
 鬼神にとっては。
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