令和百物語 ～妖怪小話～

漆拾参 ぶかっこう

　インターネットは、今は夢への入り口と化した。
　
　歌い手を目指す人間は、自分の歌をネットへアップする。
　
　作曲家を目指す人間は、自分の曲をネットへアップする。
　
　モデルを目指す人間は、自分の姿をネットへアップする。
　
　夢のため。
　趣味のため。
　承認欲求のため。
　
　それぞれが、思い思いの感情でネットへアップする。
　
　共通するのは、自分のために、自分の意思であること。
　共通するのは、全員が才能の原石であること。
　
　不器用でも。
　不格好でも。
　拙くても。
　
　誰に恥じることもなく、堂々とネットへアップする。
　
　その行動は、人間の成長を促す。
　行動は力。
　経験は力。
　回数は力。
　すべてが、未来の自分の実力へと昇華されていく。
　
「頑張ってー」
　
「応援してるぞー」
　
「今回のやつ、今までで一番好きだ！」
　
　そんな不格好な彼らを、偶然に見つけた人々は、その努力を評価する。
　その成長を評価する。
　まるで、夢に向かって一緒に走っている感覚で、彼らを応援する。
　
　夢は、インターネットの中で大きくなっていく。
　
　
　
　が、見つけた人が好意的であるとは限らない。
　応援だけとは限らない。
　
「ちょｗｗｗ音痴すぎｗｗｗこんな下手糞な歌アップすんなよｗｗｗカラオケで歌ってろよｗｗｗｗｗｗ」
　
「これが曲とかｗｗｗ全作曲家に謝れよｗｗｗ」
　
「ぶっさｗｗｗよくこんな顔晒せるなｗｗｗ俺なら恥ずかしくて死ぬわｗｗｗ」
　
　悪意が、インターネットの中を飛び交う。
　
　行動を笑う。
　経験を笑う。
　回数を笑う。
　結果以外は認めない。
　結果が出たらいなくなる。
　あるいは結果さえもあざ笑う。
　
　そんな悪意が。
　
　
　
「ご飯よ……ひっ！？」
　
　そんな悪意が、人間の姿を変えた。
　
　インターネットに投げ入れた悪意は、ネットの中をさ迷い、より強い悪意となって、悪意を投げ入れた人間に返ってきた。
　
　悪意が人間の形を変える。
　舌の長さが三倍になった。
　首が長さが五倍になった。
　脳がすっぽりと取り出されたかの如く、頭がへしゃげた。
　
　ぶかっこう。
　
　返ってきた悪意によって姿の変わった人間は、成り立ちからそう呼ばれ始めた。