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陸拾弐 流れ行燈
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「違うの! これは違うの!」
妻は夫に叫ぶ。
ベッドの中から。
「……何が違うんだよ。そんな格好で」
夫は妻に冷たく言い放つ。
ベッドの中で裸になっている妻に。
妻の横には、同じく裸の見知らぬ男が気まずそうにしている。
「まずは、服を着ろ。話はそれからだ」
夫はそう言うと、二人を残してリビングへと向かっていった。
リビングからは、妻にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた。
怒り声。
泣き声。
夫の両親と、妻の両親だ。
現状を理解した妻は、頭の中が真っ白になりながらも、操り人形のように服を着た。
「……今日、旦那は出張だって。……話が違うじゃないですか」
見知らぬ男の恨みがましそうな声は、妻の耳に届かなかった。
「許して!! 出来心なの!! 本当に好きなのは貴方だけなの!!」
「……無理だよ」
「貴方と別れたら死ぬしかない!!」
数時間の話し合い。
数日間の説得。
数週間の駄々こね。
結果、夫と妻は離婚した。
有責は妻。
慰謝料を支払うのも妻。
否、元妻。
「お願い!! やりなおしましょう!!」
離婚後も、元妻は諦めなかった。
狂ったように、毎日のように元夫の家に押し掛けた。
元夫の仕事帰りを待ち伏せた。
元夫の友達に復縁の橋渡しを懇願した。
ただ一つ、復縁を夢見続けた。
元夫は、周囲を巻き込み続ける元妻への行動に精神をすり減らし、しかし正々堂々と法に則り戦った。
弁護士に助けを求め。
警察に助けを求め。
会社に助けを求め。
両親に助けを求め。
元妻の両親に助けを求め。
結果、元妻が何度目かの接近禁止令を破った後、元妻は元夫の前に現れることはなくなった。
離婚してから一年近く。
元夫は、ようやく本当の意味で自由の身となった。
「ああー。疲れた……」
会社からの帰路で、元妻の声が聞こえないことに喜びをかみしめていた。
流れる川の音が聞こえることに喜びをかみしめていた。
すべては悪い夢だったと忘れよう。
これから、新しい人生を始めよう。
恋愛は、しばらくいいかな。
元夫は、疲れ果てた頭でそんなことを考えていた。
川辺の草むらに座り、のんびりと川を眺める。
そよそよと吹くそよ風を前に睡魔が襲い、瞳がどんどん閉じていく。
「お前のせいだ」
元妻の声が聞こえても、反応できないほどに。
元夫は、そのまま眠りについてしまった。
「お前のせいだ」
元妻の声が、徐々に元夫へと近づいてくる。
「お前のせいだ」
川から流れてきた行燈には、元妻が干された布団のようにダラリとのっかっている。
「お前のせいだ」
元妻の体は、腰がぐんと伸びて、川辺に寝転がる元夫に抱き着いた。
「お前のせいだ」
そのまま元夫をずるずるとひこずり、ともに川の中へと沈んでいった。
「私が死んだのはお前のせいだ」
翌日、元夫婦二人の水死体が発見された。
妻は夫に叫ぶ。
ベッドの中から。
「……何が違うんだよ。そんな格好で」
夫は妻に冷たく言い放つ。
ベッドの中で裸になっている妻に。
妻の横には、同じく裸の見知らぬ男が気まずそうにしている。
「まずは、服を着ろ。話はそれからだ」
夫はそう言うと、二人を残してリビングへと向かっていった。
リビングからは、妻にとって聞き覚えのある声が聞こえてきた。
怒り声。
泣き声。
夫の両親と、妻の両親だ。
現状を理解した妻は、頭の中が真っ白になりながらも、操り人形のように服を着た。
「……今日、旦那は出張だって。……話が違うじゃないですか」
見知らぬ男の恨みがましそうな声は、妻の耳に届かなかった。
「許して!! 出来心なの!! 本当に好きなのは貴方だけなの!!」
「……無理だよ」
「貴方と別れたら死ぬしかない!!」
数時間の話し合い。
数日間の説得。
数週間の駄々こね。
結果、夫と妻は離婚した。
有責は妻。
慰謝料を支払うのも妻。
否、元妻。
「お願い!! やりなおしましょう!!」
離婚後も、元妻は諦めなかった。
狂ったように、毎日のように元夫の家に押し掛けた。
元夫の仕事帰りを待ち伏せた。
元夫の友達に復縁の橋渡しを懇願した。
ただ一つ、復縁を夢見続けた。
元夫は、周囲を巻き込み続ける元妻への行動に精神をすり減らし、しかし正々堂々と法に則り戦った。
弁護士に助けを求め。
警察に助けを求め。
会社に助けを求め。
両親に助けを求め。
元妻の両親に助けを求め。
結果、元妻が何度目かの接近禁止令を破った後、元妻は元夫の前に現れることはなくなった。
離婚してから一年近く。
元夫は、ようやく本当の意味で自由の身となった。
「ああー。疲れた……」
会社からの帰路で、元妻の声が聞こえないことに喜びをかみしめていた。
流れる川の音が聞こえることに喜びをかみしめていた。
すべては悪い夢だったと忘れよう。
これから、新しい人生を始めよう。
恋愛は、しばらくいいかな。
元夫は、疲れ果てた頭でそんなことを考えていた。
川辺の草むらに座り、のんびりと川を眺める。
そよそよと吹くそよ風を前に睡魔が襲い、瞳がどんどん閉じていく。
「お前のせいだ」
元妻の声が聞こえても、反応できないほどに。
元夫は、そのまま眠りについてしまった。
「お前のせいだ」
元妻の声が、徐々に元夫へと近づいてくる。
「お前のせいだ」
川から流れてきた行燈には、元妻が干された布団のようにダラリとのっかっている。
「お前のせいだ」
元妻の体は、腰がぐんと伸びて、川辺に寝転がる元夫に抱き着いた。
「お前のせいだ」
そのまま元夫をずるずるとひこずり、ともに川の中へと沈んでいった。
「私が死んだのはお前のせいだ」
翌日、元夫婦二人の水死体が発見された。
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