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伍拾玖 タンタンコロリン
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地方の過疎化が加速している。
田畑の中にポツンと建つ庭付きの一軒家。
そこに住むのは、一人の老人。
子どもたちは、とうに都会へと出ていって、配偶者はとうに黄泉へと旅立った。
老人は、自分の命が残り少ないこともわかっていた。
子供たちから、心配だから都会で一緒に暮らそうと、何度も誘われた。
それが駄目ならと老人ホームへの入居も勧められた。
しかし老人は、断固として首を縦には降らなかった。
先祖代々受け継いできた家が、例え自分の代で終わりだとしても、せめて末代として見守りたかったのだ。
なによりも、配偶者と共に育てた庭の柿の木を放っておくことなど、とてもできなかった。
「やあやあ、綺麗な実ができた……」
桃栗三年柿八年。
柿の種がとれては植えてを繰り返し、庭はすっかり柿の森となっている。
亡き配偶者と一緒に植えた柿の種。
木となり、実をつけるその姿は、老人に当時の光景を思い出させてくれた。
「やあやあ、久しぶりだね……」
とはいえ、既に老人に、柿の実をとる力は残ってなかった。
毎日の水やりが精いっぱい。
もっとも、柿の実をとって食べる気も最初からなかった。
縁側に座って眺めるだけで、充分に楽しかった。
季節が廻り、柿は赤く熟れる。
食べごろだ。
近所の悪ガキが、石を投げて柿を落とし、何個かかっさらっていったものの、老人は気にすることはなかった。
「懐かしいなぁ……。子供の頃、同じことをやったっけなぁ……」
時代が変われど、子どもと言うものは変わらない。
ちょっとした悪いことを嬉々としてやって来る。
それが子供の仕事。
老人は柿の木を見守った。
季節が廻り、柿はその寿命を迎える。
ゆっくりと腐り落ちていく。
老人もまた、その寿命を迎える。
いつも座っている縁側に、ぱたりと横たわった。
思い出と共に消えるというのも悪くないと、ぼやけた目で柿の木を見つめる。
「タンタンコロリン。タンコロリン」
声が聞こえてきたのは、それと同時くらい。
柿の木の横に、僧侶のような恰好をした妖怪が立っていた。
柿の実をとらずに放置しておくと現れる妖怪、タンタンコロリン。
タンタンコロリンは、老人の側へと近づいて、その顔を覗き込む。
「お疲れ様……」
覗き込んできたその顔は、老人にとって忘れるはずのない配偶者の顔だった。
「ああ……迎えに……来てくれたのか……」
「そう。一緒に行きましょう」
タンタンコロリンは、老人に手を差し伸べる。
老人は、その手を取る。
後日、老人と連絡がとれないことを不審に思った子どもが、老人の家を訪れて、その死を確認した。
書類の上では、一つの孤独死として終わった。
しかし、その死に顔は、孤独を感じさせないほどに安らかなものだった。
田畑の中にポツンと建つ庭付きの一軒家。
そこに住むのは、一人の老人。
子どもたちは、とうに都会へと出ていって、配偶者はとうに黄泉へと旅立った。
老人は、自分の命が残り少ないこともわかっていた。
子供たちから、心配だから都会で一緒に暮らそうと、何度も誘われた。
それが駄目ならと老人ホームへの入居も勧められた。
しかし老人は、断固として首を縦には降らなかった。
先祖代々受け継いできた家が、例え自分の代で終わりだとしても、せめて末代として見守りたかったのだ。
なによりも、配偶者と共に育てた庭の柿の木を放っておくことなど、とてもできなかった。
「やあやあ、綺麗な実ができた……」
桃栗三年柿八年。
柿の種がとれては植えてを繰り返し、庭はすっかり柿の森となっている。
亡き配偶者と一緒に植えた柿の種。
木となり、実をつけるその姿は、老人に当時の光景を思い出させてくれた。
「やあやあ、久しぶりだね……」
とはいえ、既に老人に、柿の実をとる力は残ってなかった。
毎日の水やりが精いっぱい。
もっとも、柿の実をとって食べる気も最初からなかった。
縁側に座って眺めるだけで、充分に楽しかった。
季節が廻り、柿は赤く熟れる。
食べごろだ。
近所の悪ガキが、石を投げて柿を落とし、何個かかっさらっていったものの、老人は気にすることはなかった。
「懐かしいなぁ……。子供の頃、同じことをやったっけなぁ……」
時代が変われど、子どもと言うものは変わらない。
ちょっとした悪いことを嬉々としてやって来る。
それが子供の仕事。
老人は柿の木を見守った。
季節が廻り、柿はその寿命を迎える。
ゆっくりと腐り落ちていく。
老人もまた、その寿命を迎える。
いつも座っている縁側に、ぱたりと横たわった。
思い出と共に消えるというのも悪くないと、ぼやけた目で柿の木を見つめる。
「タンタンコロリン。タンコロリン」
声が聞こえてきたのは、それと同時くらい。
柿の木の横に、僧侶のような恰好をした妖怪が立っていた。
柿の実をとらずに放置しておくと現れる妖怪、タンタンコロリン。
タンタンコロリンは、老人の側へと近づいて、その顔を覗き込む。
「お疲れ様……」
覗き込んできたその顔は、老人にとって忘れるはずのない配偶者の顔だった。
「ああ……迎えに……来てくれたのか……」
「そう。一緒に行きましょう」
タンタンコロリンは、老人に手を差し伸べる。
老人は、その手を取る。
後日、老人と連絡がとれないことを不審に思った子どもが、老人の家を訪れて、その死を確認した。
書類の上では、一つの孤独死として終わった。
しかし、その死に顔は、孤独を感じさせないほどに安らかなものだった。
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