令和百物語 ～妖怪小話～

伍拾壱 坊主狸

　理容業界は過酷だ。
　年々、理容室の数を減らしている。
　何故か。
　
　理由は三つ。
　
　一つ目は、美容室を利用する男性の増加。
　ひと昔前は、男は理容室、女は美容室と、明確な住みわけがされていた。
　が、時代は移り変わり、男性もまた美容に興味を持ち始めた。
　髪を整える目的の理容室ではなく、髪を美しくデザインするための美容室へと男性客が流れ始めた。
　コンビニの四．五倍以上の店舗数と言われている美容室のは、流れる男性全てを受け止めることで理容室の客を減らし、閉業へと追い込んだ。
　
　二つ目は、千円カットの増加。
　男性の美容意識が高まったとはいえ、髪さえ切れればなんでもいいと考える男性もまだまだ多い。
　むしろ、毎月発生する髪を切るというイベントに、お金も時間もかけたくない男性たちは、一回で五千円もかかる美容院など見向きもしなかった。
　三千円の理容室に通い続けた。
　が、その視線を奪ったのが千円カットである。
　一回千円。
　散髪時間は十分。
　圧倒的なコスパの良さで散髪を実現する千円カットは、さらなる安さと速さで散髪を売り出すことで理容室の客を減らし、閉業へと追い込んだ。
　
　しかし、まだ理容室には強みがある。
　美容室も千円カットも、顔そりができない。
　美容室は、化粧に付随した軽い顔そりまではできるが、それ以上、つまり男性の顔の産毛と髭を完全に除去するまでの顔ぞりは法律によって禁止されている。
　千円カットは、そもそも散髪のみを行うことで時間短縮しているため、顔そりをサービスに含めることができない。
　
　月に一回の顔そりを望む男性は、根強く理容室に残っていた。
　
　
　
　そう、残っていた。
　
　
　
　三つ目は、坊主狸の登場。
　坊主狸は、一瞬で人間の頭を坊主にすることができる。
　千円カットの十分が長く感じられるほど、一瞬で。
　さらに、その能力を応用することで、顔ぞりも一瞬で終わらせることができるようになった。
　店に入った瞬間、散髪と顔ぞりを終わらせてくれる理容室。
　そんな触れ込みで店舗を拡大し、残った理容室を閉業へと追い込んだ。
　
　現在、閉業に追い込まれていない理容室は、坊主狸が出店していない地域に立っている理容室のみである。
　
「目標は、全都道府県制覇ですポコ！」
　
　だからこそ、坊主狸のテレビインタビューの回答は、残った全ての理容室を震え上がらせた。
　
　理容室の消滅は、すでに秒読み。
　新しい時代を前に、理容室と言う存在は消えてなくなるしかないと、世論が耳打ちしている。