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伍拾 蛭子神
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人間は不平等だ。
生まれた国が違えば価値観が違う。
今日贅沢ができないことに不幸を感じる国があれば、今日生存できたことに幸福を感じる国がある。
生まれた親が違えば価値観が違う。
我が子に誕生日プレゼントとして高級車をプレゼントする親がいれば、我が子を労働に従事させて光熱費やパチンコ代にあてる親がいる。
人間は不平等だ。
昨今、日本で流行っている言葉がある。
親ガチャ。
子どもは親を自分で選ぶことができず、親によって子どもの置かれる環境が大きく変わる事実を、ソーシャルゲームのガチャで例えた言葉だ。
親ガチャと言う言葉については、連日ネットで賛否が巻き起こっている。
賛成意見。
親が貧しければ塾にも行けない。
親が夢を叶えるのを阻んでくる。
毎日親が怒鳴りあっていて家に帰りたくない。
反対意見。
貧困家庭でも個人の努力次第で金持ちになれる。
公的な制度を使えばハンデを埋めることができる。
文句言う暇があったら努力すべき、全ては自己責任。
今日もまた、テレビのバラエティー番組では、親ガチャという言葉の賛否を巡って芸能人と知識人たちが討論をくり広げている。
「親ガチャ、あるに決まってんだろ! 馬鹿じゃねーの?」
蛭子神は寝そべったままテレビに向かって怒鳴りつけ、そのままテレビを消した。
「親ガチャって言葉を使っちゃいけないなんて言うやつは、親に恵まれたやつばっかだろ! てめぇ、〇歳の頃に親に捨てられて、挙句の果てに存在を抹消されたことあんのかよ! 俺と同じ境遇に立ってから言えや、ボケ!!」
しかしテレビを消しただけでは怒りが収まらず、立ち上がってテレビのディスプレイを殴り割った。
破片が部屋に飛び散り、テレビはその役目を完全に失う。
「糞不愉快!!」
蛭子神はドスドスと足音を立てて台所へ向かい、冷蔵庫から取り出した缶ビールを一気に飲み干した。
「糞!! 糞が!! 親なんてなあ!! 糞だ!!」
蛭子神は、神ゆえ生まれた直後の記憶も持っている。
イザナキとイザナミの間に、最初の神として生まれた時のことを。
この地に生を受けた瞬間、蛭子神は目に見える美しい両親と世界に感動の涙を流した。
が、イザナキとイザナミは、そうではなかった。
イザナキとイザナミは、子作りの作法を間違え、作法の間違いが蛭子神を不具の子――即ち神として不完全な体を持つ子として生んでしまった。
感動する蛭子神。
絶望するイザナキとイザナミ。
「生み直そう」
「そうしましょう」
それを最後の両親の言葉として、蛭子神は捨てられた。
ゴミのように捨てられた。
神の国よりはるかに劣る地上の海へと。
蛭子神は、呼吸もできない海の中、死なないためだけにもがいた。
生きたい。
それだけの本能で。
幸いにも、とある島に流れ着き、蛭子神は生を勝ち取った。
死の恐怖から逃れた蛭子神は、安堵で染まった。
その直後、憎悪で染まった。
両親への復讐を決めた。
神として生まれながら、名を変え、妖怪の一人として生きた。
イザナキとイザナミの生んだ、言わば弟妹とも呼べる神たちが、世界を作るのを眺めた。
見つからないように眺めた。
見つかれば、再び親に管理されるから。
すべては、親ガチャの呪いから解放されるために。
「待ってろ、イザナキ。待ってろ、イザナミ。必ず復讐をしてやるからな。冥界に居ようが関係ない。冥界ごと殺してやる」
蛭子神はずっと待っている。
その時を。
「お前たちが作った世界の滅亡を手土産に、いつか必ず会いに行ってやる」
その時が訪れるまで、後――年。
生まれた国が違えば価値観が違う。
今日贅沢ができないことに不幸を感じる国があれば、今日生存できたことに幸福を感じる国がある。
生まれた親が違えば価値観が違う。
我が子に誕生日プレゼントとして高級車をプレゼントする親がいれば、我が子を労働に従事させて光熱費やパチンコ代にあてる親がいる。
人間は不平等だ。
昨今、日本で流行っている言葉がある。
親ガチャ。
子どもは親を自分で選ぶことができず、親によって子どもの置かれる環境が大きく変わる事実を、ソーシャルゲームのガチャで例えた言葉だ。
親ガチャと言う言葉については、連日ネットで賛否が巻き起こっている。
賛成意見。
親が貧しければ塾にも行けない。
親が夢を叶えるのを阻んでくる。
毎日親が怒鳴りあっていて家に帰りたくない。
反対意見。
貧困家庭でも個人の努力次第で金持ちになれる。
公的な制度を使えばハンデを埋めることができる。
文句言う暇があったら努力すべき、全ては自己責任。
今日もまた、テレビのバラエティー番組では、親ガチャという言葉の賛否を巡って芸能人と知識人たちが討論をくり広げている。
「親ガチャ、あるに決まってんだろ! 馬鹿じゃねーの?」
蛭子神は寝そべったままテレビに向かって怒鳴りつけ、そのままテレビを消した。
「親ガチャって言葉を使っちゃいけないなんて言うやつは、親に恵まれたやつばっかだろ! てめぇ、〇歳の頃に親に捨てられて、挙句の果てに存在を抹消されたことあんのかよ! 俺と同じ境遇に立ってから言えや、ボケ!!」
しかしテレビを消しただけでは怒りが収まらず、立ち上がってテレビのディスプレイを殴り割った。
破片が部屋に飛び散り、テレビはその役目を完全に失う。
「糞不愉快!!」
蛭子神はドスドスと足音を立てて台所へ向かい、冷蔵庫から取り出した缶ビールを一気に飲み干した。
「糞!! 糞が!! 親なんてなあ!! 糞だ!!」
蛭子神は、神ゆえ生まれた直後の記憶も持っている。
イザナキとイザナミの間に、最初の神として生まれた時のことを。
この地に生を受けた瞬間、蛭子神は目に見える美しい両親と世界に感動の涙を流した。
が、イザナキとイザナミは、そうではなかった。
イザナキとイザナミは、子作りの作法を間違え、作法の間違いが蛭子神を不具の子――即ち神として不完全な体を持つ子として生んでしまった。
感動する蛭子神。
絶望するイザナキとイザナミ。
「生み直そう」
「そうしましょう」
それを最後の両親の言葉として、蛭子神は捨てられた。
ゴミのように捨てられた。
神の国よりはるかに劣る地上の海へと。
蛭子神は、呼吸もできない海の中、死なないためだけにもがいた。
生きたい。
それだけの本能で。
幸いにも、とある島に流れ着き、蛭子神は生を勝ち取った。
死の恐怖から逃れた蛭子神は、安堵で染まった。
その直後、憎悪で染まった。
両親への復讐を決めた。
神として生まれながら、名を変え、妖怪の一人として生きた。
イザナキとイザナミの生んだ、言わば弟妹とも呼べる神たちが、世界を作るのを眺めた。
見つからないように眺めた。
見つかれば、再び親に管理されるから。
すべては、親ガチャの呪いから解放されるために。
「待ってろ、イザナキ。待ってろ、イザナミ。必ず復讐をしてやるからな。冥界に居ようが関係ない。冥界ごと殺してやる」
蛭子神はずっと待っている。
その時を。
「お前たちが作った世界の滅亡を手土産に、いつか必ず会いに行ってやる」
その時が訪れるまで、後――年。
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