令和百物語 ~妖怪小話~

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参拾玖 火間虫入道

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「次の方、どうぞー」
 
 医者の呼びかけで、火間虫入道の蛭間が診察室へと入る。
 
「本日はどうしました?」
 
 蛭間は恥ずかしそうにしながら口を開けて、舌を医者へと見せる。
 舌は、真っ赤に腫れていた。
 
「火傷ですね。熱いものでも食べたんですか?」
 
 医者としては、至極全うな質問。
 舌を火傷していれば、熱いものを食べたかを疑うことは当然。
 対し、蛭間は、言いずらそうにもごもごと口を動かす。
 
 火傷した場所が独特な場所であれば、医者も言いづらそうにするのを理解する。
 しかし、蛭間の場合は口の中。
 果たして何を口にしたのかと、少々恐くなる。
 
「……です」
 
「ん?」
 
「火のついた灯油を嘗めたら、火傷したんです」
 
「…………」
 
 火間虫入道。
 夜なべして仕事をしている人の邪魔をするため、灯油を嘗めて炎を消す妖怪。
 
 
 
「精神科、紹介するね」
 
「ち、違うんです! これは妖怪としての本能で、正常なんです!」
 
「うんうん、そうだね」
 
 世界は妖怪に取って生きづらい。
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