令和百物語 ~妖怪小話~

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参拾伍 絡新婦

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 これから会う相手に、男は胸を高鳴らせていた。
 マッチングアプリで、いいねを千以上獲得している相手と会うことに。
 
 いいね千以上――つまりマッチングアプリで上位一パーセントに入る人気の女性とマッチングし、かつ会うことに成功する確率は、極めて低い。
 だからこそ、男にとっては大きなチャンスなのだ。
 
 美容院を予約して髪をセットし、勝ったばかりの服に身を包み、香水を一振りして待ち合わせ場所に向かう。
 待ち合わせの場所はとある喫茶店。
 少々駅から離れた、穴場と呼ばれる喫茶店。
 
 喫茶店に到着すると、客はほとんどおらず、ただ一人、喫茶店の真ん中の席に美しい女が座っていた。
 
 男は思わず息をのむ。
 マッチングアプリに登録する写真は、そのほとんどが美化されている。
 角度。
 光の具合。
 スタンプ。
 加工。
 あらゆる方法で、本物よりも綺麗で可愛く美しい。
 それは、男女ともである。
 
 男とて、ベストショットを登録しているため、人のことを言える口ではない。
 
 が、喫茶店に座っている女は、写真をはるかに飛び越えてきた。
 美しい美しいと眺めていた写真を、さらに数倍美化したような女が座っていた。
 女は男に気づくと、ニコリと微笑んだ。
 
 男の心臓が飛び跳ねる。
 
 男は緊張しながら、カクカクと歩き、女の前へと移動する。
 
「はじめまして」
 
 女は、甘いとろけるような声で、男に言った。
 
「あ、は、はじめ……まし……」
 
 
 
 
 
 
「ほんで、さようなら」
 
 女の背中に張り付いていた服がびりびりと破け、八本の巨大な蜘蛛の手足が現れた。
 手足はあっという間に男を捕らえる。
 
「ひ!? あ!?」
 
 女の腹に張り付いていた服がびりびりと破け、巨大な口が現れる。
 破けた服からは、美しく色っぽい胸部も腹部も見えていたが、男の煩悩は恐怖で容赦なくすりつぶされる。
 
 数秒後の自分の姿の想像にすりつぶされる。
 
「た、助け!?」
 
 男の想像通り、男はなすすべなく女――絡新婦にかみ砕かれる。
 ベキベキ。
 ミシミシ。
 ボリボリ。
 煎餅でも食べるように、絡新婦は男を食らう。
 
「御馳走さまで御座いました」
 
 口と手足を引っ込めて、女は上品に笑う。
 
 
 
 絡新婦の糸は、世界中に張り巡らされ、今日も餌である男を探している。
 現実ではなく、インターネットの中で。
 
「ほんに、いい時代になりんした」
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