令和百物語 ~妖怪小話~

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参拾肆 死人憑

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 ピンポーン。
 ピンポーン。
 
 朝だというのに、何度もインターフォンがならされる。
 
「なんだ……こんな朝っぱらから……」
 
「本当ね……」
 
 ベッドの中で、男と女が面倒くさそうに顔を出す。
 最初は無視を決め込もうとした。
 が、何分間も鳴らされ続けては近所にも迷惑だろうし、何より非常識な行動に一言怒らなければ気が済まないと、男はベッドから這い出た。
 パジャマのままではあるが、非常識な相手に対し、わざわざ服に着替えて対応するほど、男の心は広くない。
 
「私も一緒に行こうか?」
 
「いや、俺一人で大丈夫」
 
 男は、妻である女をベッドに残し、一人で玄関に向かう。
 
 ピンポーン。
 
「すみませーん。いらっしゃいませんかー?」
 
 玄関に近づくと、ドア越しに呼びかけてくる声も聞こえる。
 それが一層、男の神経を逆なでした。
 鍵を開けて、乱暴に扉を開く。
 
「うっせえな! 今何時だと思ってんだ!」
 
 怒りに燃えて扉を開けた男は、外にいた人の姿を見て、目を丸くする。
 警察官が三人、立っていた。
 
「朝早くにすみません」
 
「え? は? 警察? 警察がなんで?」
 
「いえ、ちょっと通報がありましてね。奥様は、いらっしゃいませんか?」
 
 警察が自分の妻に用があるという事実に、男は最悪の想像をした。
 妻が、もしや何かしたのかと。
 
「妻が……何か?」
 
「それは、奥様に直接……」
 
「……わかりました」
 
 先ほどの怒りもどこへやら。
 男はすごすごと室内に戻り、不安のまま、女の元へ行く。
 女は男から事情を聴いて、そそくさと着替え、男と一緒に玄関へ戻る。
 
「あの、私が何か……?」
 
 警察は、女の姿に眉を顰める。
 一人の警察官は、その死臭に思わず鼻を手で覆いそうになる。
 
「通報の通りだな」
 
 警察官は、女の死体を見た後、男の方へと視線を戻す。
 
「旦那さん、貴方に死体損壊・遺棄罪の疑いがあります。署まで、ご同行願いますか?」
 
「……は? シタイ? ソンカイイキ? ナンデスカソレ?」
 
「旦那さん、奥様は既に」
 
「ツマハココニイマスヨ? イキテマスヨ? ホラ? ホラ? ウゴイテル? シャベッテル?」
 
「治療も、必要かもな……」
 
 
 
 時折、人間の死体に霊が憑りつき、まるで生者のように振舞うことがある。
 霊の目的は不明。
 
 しかし、愛しい相手の突然死を受け入れられない者にとって、その目的などどうでもいい。
 動く死体を見て、愛しい相手は、本当は死んでいないのだと偽りの記憶を作り上げ、動く死体と今まで通りの日常を過ごし始めてしまう。
 
 孤独を紛らわすために。
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