令和百物語 ~妖怪小話~

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弐拾捌 行逢神

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 満員電車は、日本の文化と言ってもいい。
 骨折しそうなほどに強い圧迫感を感じながら、人々は今日も電車に乗り込む。
 リモートワークの推奨で、多少人は減ったとはいえ、まだまだ解消には程遠い。
 
 満員電車が駅に止まり、扉が開く。
 電車から降りる人間は誰もいない。
 既にパンパンに詰め込まれた満員電車の中に、人々はさらに乗り込んでいく。
 
 行逢神もまた、その一人。
 
 扉が閉まって電車が走り出す。
 
 その途端に、乗客たちの様子がおかしくなる。
 ガタガタと寒さに震えだす人がいれば、突然の発熱に汗をだらだらと流す人もいる。
 次々と体調を崩し、満員電車という劣悪な環境の中で立ち続けることができず、全身の力が抜けて隣の人にもたれかかる。
 が、もたれかかった先の人間にも支える気力は残っておらず、まるでドミノ倒しのようにばたばたと倒れていく。
 
 ただ一人、行逢神だけが吊革を握って立ち続けた。
 
 満員電車が駅に止まり、扉が開く。
 行逢神一人が電車から降りる。
 電車から降りる人間は誰もいない。
 既にパンパンに詰め込まれた満員電車の中に、人々は乗り込もうとして、その死屍累々な光景に思わず足を止める。
 臨時停車のアナウンスが流れ、駅員たちが車両へと集まり、ぐったりと倒れ込む乗客たちを一人ずつ外へと出していく。
 
 行逢神はその様子を、楽しそうに眺めていた。
 
 
 
 行逢神は、近くにいる者に災いを成す。
 両親だろうが友達だろうが関係なく、その能力は行使される。
 幼い行逢神は、苦しんだ。
 自分のせいで周囲の人々が苦しむことを嘆いた。
 
 しかし、ある日考えを変えた。
 自分が周囲の人々を苦しめる能力を持って生まれたことも、何か意味があるはずだ。
 そうであれば、嘆くことをやめよう。
 胸を張って堂々と、人々を苦しめよう。
 人々の苦しみを楽しめる様になろうと。
 
 その決意通り、今日も行逢神は人込みへと混じり、楽しく人々を苦しめている。
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