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弐拾陸 偽汽車
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深夜二時。
電車の走るはずのない時間に、汽笛の音が鳴り響く。
カーテン越しに照らされる灯りに、深夜にもかかわらず人々は目を覚まし、誰の仕業だと怒りのままにカーテンを開ける。
そして目を丸くする。
深夜の線路に、一台の蒸気機関車が走っていた。
日本において、既に営業用の蒸気機関車は終焉を迎え、走る姿を目にすることはほぼない。
動作可能な状態で保存されている一部の蒸気機関車が、定期的に動作保存運転をされるのみである。
一瞬、人々は動作保存運転かと考えたが、深夜に行われることではないし、事前の連絡もないことから、考えを否定した。
そして思い出すのが、先日のニュース。
全国各地に、蒸気機関車が突然現れるというニュースだ。
曰く、走行している電車の線路を逆走する蒸気機関車が出現し、運転手が急ブレーキをかけて電車を止めると、蒸気機関車は煙のように消えてしまうという。
最初は、寝ぼけた運転手のでたらめだと世間に笑われたが、日本全国、北海道から沖縄まで、あらゆる地域で同様の出来事が起こり始めた。
さらに、ある乗客が、その様子を動画撮影し、動画投稿サイトへ投稿したことで、蒸気機関車の噂は真実であると認知された。
いつしかその蒸気機関車は、偽汽車と呼ばれるようになった。
「あれが偽汽車……」
「初めて見た……」
窓から蒸気機関車を見ている人々は、口々に叫ぶ。
そしてスマホを構え、写真や動画を撮り始める。
偽汽車は線路を走る。
深夜の誰もいないはずの線路を。
大きな汽笛を鳴らしながら。
「……あれ、もう一台?」
突然、深夜の誰もいないはずの線路に、偽汽車とは別のもう一台が現れる。
偽汽車の乗る線路と同じ線路に、偽汽車とは逆方向に進むもう一台が。
このまま行けば、正面衝突は免れない。
偽汽車に向かって、牛車が突っ込む。
「お前のせいで、ダイヤ乱れて、ぼくの仕事に影響が出てるんだが?」
次の瞬間、偽汽車と牛車は正面衝突した。
衝突音はせず、偽汽車が一方的に霧散し、牛車――朧車が線路をまっすぐと突き進んだ。
「ギャフン!?」
消えた偽汽車の代わりに、小さな鳴き声と共に狢が空へ舞う。
朧車にぶつかり、吹き飛ばされたのだ。
朧車は長い舌を伸ばして空中の狢を捕まえ、自分の顔の前へと引き寄せ、ギロリと睨みつける。
「お前、ずいぶんぼくの島を荒らしてくれたな? おおん? 今ここでぼくに飲み込まれるのと、おとなしく山へ帰って余生静かに過ごすのと、どっちがいい?」
「すみませんでしたあああ!! 皆から注目浴びてみたかったんです!! おとなしく山へ帰ります!!」
「おう」
そのまま貉は朧車に飲み込まれた。
「一件落着だな」
朧車は線路を走り、次の仕事場所を目指す。
電車の走るはずのない時間に、汽笛の音が鳴り響く。
カーテン越しに照らされる灯りに、深夜にもかかわらず人々は目を覚まし、誰の仕業だと怒りのままにカーテンを開ける。
そして目を丸くする。
深夜の線路に、一台の蒸気機関車が走っていた。
日本において、既に営業用の蒸気機関車は終焉を迎え、走る姿を目にすることはほぼない。
動作可能な状態で保存されている一部の蒸気機関車が、定期的に動作保存運転をされるのみである。
一瞬、人々は動作保存運転かと考えたが、深夜に行われることではないし、事前の連絡もないことから、考えを否定した。
そして思い出すのが、先日のニュース。
全国各地に、蒸気機関車が突然現れるというニュースだ。
曰く、走行している電車の線路を逆走する蒸気機関車が出現し、運転手が急ブレーキをかけて電車を止めると、蒸気機関車は煙のように消えてしまうという。
最初は、寝ぼけた運転手のでたらめだと世間に笑われたが、日本全国、北海道から沖縄まで、あらゆる地域で同様の出来事が起こり始めた。
さらに、ある乗客が、その様子を動画撮影し、動画投稿サイトへ投稿したことで、蒸気機関車の噂は真実であると認知された。
いつしかその蒸気機関車は、偽汽車と呼ばれるようになった。
「あれが偽汽車……」
「初めて見た……」
窓から蒸気機関車を見ている人々は、口々に叫ぶ。
そしてスマホを構え、写真や動画を撮り始める。
偽汽車は線路を走る。
深夜の誰もいないはずの線路を。
大きな汽笛を鳴らしながら。
「……あれ、もう一台?」
突然、深夜の誰もいないはずの線路に、偽汽車とは別のもう一台が現れる。
偽汽車の乗る線路と同じ線路に、偽汽車とは逆方向に進むもう一台が。
このまま行けば、正面衝突は免れない。
偽汽車に向かって、牛車が突っ込む。
「お前のせいで、ダイヤ乱れて、ぼくの仕事に影響が出てるんだが?」
次の瞬間、偽汽車と牛車は正面衝突した。
衝突音はせず、偽汽車が一方的に霧散し、牛車――朧車が線路をまっすぐと突き進んだ。
「ギャフン!?」
消えた偽汽車の代わりに、小さな鳴き声と共に狢が空へ舞う。
朧車にぶつかり、吹き飛ばされたのだ。
朧車は長い舌を伸ばして空中の狢を捕まえ、自分の顔の前へと引き寄せ、ギロリと睨みつける。
「お前、ずいぶんぼくの島を荒らしてくれたな? おおん? 今ここでぼくに飲み込まれるのと、おとなしく山へ帰って余生静かに過ごすのと、どっちがいい?」
「すみませんでしたあああ!! 皆から注目浴びてみたかったんです!! おとなしく山へ帰ります!!」
「おう」
そのまま貉は朧車に飲み込まれた。
「一件落着だな」
朧車は線路を走り、次の仕事場所を目指す。
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