令和百物語 ～妖怪小話～

弐拾伍 道塞ぎ

「すみませーん、この先ただいま工事中で通行止めとなっております。恐れ入りますが、迂回をお願いします」
　
「わかりました」
　
　交通整備のおじさんの誘導に従い、一台の自動車が方向転換する。
　自動車が安全に運転できる道を維持するため、日本全国のどこかで今日も道路工事がされている。
　
　
　
「すみませーん、この先ただいま道塞ぎが現れて通行止めとなっております。恐れ入りますが、迂回をお願いします」
　
「わかりました」
　
　交通整備のおじさんの誘導に従い、一台の自動車が方向転換する。
　
　通行止めの先には、巨大な滝があった。
　空から突然現れた水が、道路に永遠打ち付けられている。
　滝の周囲には巨大な松が生えており、打ち付けられた水をすぐさま根で吸い込んでいく。
　一帯に水たまりができないのは、松のおかげ。
　さらに、滝と松を囲むように、その近くにいる人間をその場所から逃がさないように、巨大な岩々がある。
　岩々の中では、人々が諦めたように座りこんで、外から届けられた非常食を食べている。
　会社員は会社へ電話し、出社が不可能になったことを会社へ連絡している。
　
　道塞ぎは、一晩で自然に消える。
　道路を損傷させることも、人間に害を与えることもない。
　ただただ一日、人間を閉じ込めるだけ。
　
　現在、道塞ぎは、歩道における電車遅延のようなものとして扱われ、迷惑だがやむを得ない天災として世間に認知されている。
　
　一方で、最近の研究では、閉じ込められる人間の七割が、会社や学校に行きたくないと感じていた人間であるということがわかり、天災ではなく救済なのではないかとも言われている。