令和百物語 ~妖怪小話~

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弐拾弐 浮き物

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「ご覧ください! この長蛇の列! いま私は、日本で最も人気の水族館、ウキウキ水族館に来ております!」
 
 営業自粛に伴い、大打撃を受けたレジャー業界。
 水族館もその一つ。
 三重県志摩市にあった歴史ある水族館もその波には勝てず、閉園を余儀なくされた。
 しかし、そんな時勢にも関わらず、新たに開業したウキウキ水族館は、瞬く間に大人気となった。
 新潟県にある小さな島には、連日人が押し寄せる。
 
 レポーターもこの水族館には興味があったようで、どことなく声が弾んでいる。
 
「あ、開館しました! それでは、中に入ってみようと思います!」
 
 開館時刻になると、扉が開き、長蛇の列がゆっくりと前に進んでいく。
 簡易な衝立で囲まれた空間へと。
 
「あら? なにもありませんね? これはいったいどういうことなのか?」
 
 レポーターは、目を丸くして、大げさに驚いて見せる。
 
 ウキウキ水族館には、天井がない。
 人間が歩きやすいように固めた地面を。木製のパーティションでぐるりと囲んでいるだけである。
 また、ウキウキ水族館には、水槽がない。
 水族館のメインの鑑賞対象である魚が生きられる環境は、ここにはない。
 
 では、何があるのか。
 
 何が人間を引き付けるのか。
 
「あ! あー! 空を! 空をご覧ください!」
 
 ビデオカメラの視点が、レポーターから空へと移る。
 
 空には、魚と海鳥の群れが飛び回っていた。
 
「お母さんみてー! サメがいるー!」
 
「クラゲの群れだー! きれーい!」
 
「マンボウマンボウ! 変な顔ー!」
 
 あちらこちらから、お客さんたちの弾む声が聞こえてくる。
 
 空を泳ぎ回るのは、浮き物と呼ばれる妖怪。
 特定の場所に現れて、魚や海鳥、時には未確認の巨大魚の姿で泳ぎ回る妖怪。
 人間が近づきすぎると消え去ってしまうため、安全面も問題ない。
 
 オープンエアーな空間で空飛ぶ魚を楽しめるというエンターテイメントは、子供心だけでなく、大人心も鷲摑みした。
 また、閉所に大量の人間が集まる従来の水族館と比較し、三密を避けることができる水族館というというのも独り勝ちした理由であろう。
 
「あ、あー! 巨大な魚が現れました! あれが稀に現れるという、未確認の巨大魚なのでしょうか!?」
 
 ウキウキ水族館は、今日も大人気営業中。
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