令和百物語 ～妖怪小話～

拾肆 口裂け女

「ってことがあったのよおおおおお！！」
　
「それは辛かったわねー」
　
「そうなのおおおお！！」
　
　のっぺらぼうの野辺さんは喫茶店でお茶しながら、口裂け女の梔子さんに先日のミスコンの不満をぶちまける。
　どちらも、中途半端に人間と近いその容姿ゆえ、人間の世界で苦しんでいる者同士。
　
　人間は、見た目を大きく重視する。
　十六世紀の日本では、貿易相手であるポルトガル人やスペイン人を、日本人との見た目の差異から南蛮人と呼んだ。
　ニ十世紀のアメリカでは、ジム・クロウ法により、学校や公園のような公の施設を白人用と黒人用で分離した。
　
　口裂け女はストローでコーヒーを啜り、ふと思い出したように呟く。
　
「私も最近、マッチングアプリで知り合った男の人に会いに行ったんだけど、喫茶店についてマスクを外した瞬間、大声上げて逃げられてさ……」
　
「ええー、酷ーい」
　
「頭に来たから追いかけて、鎌で惨殺しといたんだけど……」
　
「あー、先週のニュース。あれ、くっちーのことだったんだ」
　
「そうそう」
　
「まあ、大声上げて逃げだすなんて失礼なことするやつだし、殺されても仕方ないわよね」
　
「だよねー」
　
　一人。
　また一人。
　喫茶店から客が帰っていく。
　店長は店員を喫茶店の奥へと隠れさせ、自分一人がフロアに立つ。
　
　二人っきりになった喫茶店で、野辺と梔子は溜息をつく。
　
「はあ……。差別って、どうやったらなくなるのかしら」
　
「ねー」
　
　二人の悩みは尽きない。
　
「あ、すみませーん。コーヒーお代わりくださーい」
　
「あ、私もお願いします」
　
「ひゃ、ひゃい！」