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伍 金玉
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かつて日本には、財閥と呼ばれる富豪の一族が存在した。
中でも最も力が強かった三つの財閥は、三大財閥と呼ばれた。
一九四五年から一九五二年にかけて連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の財閥解体によって解体されることにはなったが、令和となった現代においても、巨大な企業グループとしてその面影を残している。
そして昨今、突然現れた一つの企業がわずか数年で急成長を遂げ、その三大財閥をルーツに持つ企業グループに匹敵するほどの力を持ち始めた。
就活生の志望企業ランキングは次々と塗り替えられ、企業もメディアも、その謎の企業に興味の目を向けている。
しかし、不思議なことに、その企業が何をしている企業かと聞かれると、誰一人答えることができないのだ。
家電を作っている企業でもない。
保険を売っている企業でもない。
不動産を売っている企業でもない。
何を作り、何をもって社会に貢献している企業なのかが不透明なのだ。
その名を金玉(かねだま)グループ。
金玉グループ本社のビルの最上階、選ばれた人間しか入れないそのフロアには、社長室と会議室があるのみである。
会議室では、今日も金玉グループが保有する会社の代表取締役たちが集まり、金玉グループの頂点に座す男へ貢物をささげる。
会議室の上座に座る男は、禿げた頭をタオルで磨きながら、その貢物へと目を落とす。
「金玉様、こちら、私の地元でとれた新鮮な野菜で御座います。今朝収穫したものを直送いたしましたので、味も鮮度も最高のもので御座います」
「くるしゅうない、くるしゅうない」
「金玉様、こちら、私の地元で作られております伝統的な焼き物で御座います。機械を使わない、すべて手作りの逸品で、文字通り金玉様のための世界で唯一の茶碗で御座います」
「くるしゅうない、くるしゅうない」
「金玉様、こちら、純金でできたオブジェで御座います。飾ってもよし、売ってもよし、最高の逸品で御座います」
「首」
「え?」
「首」
その瞬間、会議室の壁に沿って並んでいた屈強な黒服の男たちが一斉に動き出し、純金のオブジェクトを差し出した男を捕らえた。
「あ、金玉様、し、失礼いたし」
「首」
「お、お待ちを……どうかご慈悲を!!」
「首」
懇願空しく、男はそのまま会議室の外へと引きずり出されていった。
この後、男の身に起こることは、集められた全員がわかっている。
明日には代表取締役の肩書ははずされ、男は会社から追い出される。
そして、金玉の近くにいた反動を受ける。
金玉は、金の精霊。
自身の仲間に――金玉グループに所属する人間に、圧倒的な金運を与える。
金運が与えられた人間は、どんなに平凡な物だろうとサービスだろうと、客を惹きつけてしまい、利益をあげることができてしまう。
結果、莫大な収入を得る。
金玉グループは、金玉の力によって、特筆する物もサービスもないまま、三大財閥をルーツに持つ企業グループに肩を並べた。
そして、大きな金運の裏には代償もある。
この金運は、金玉が仲間と思わなくなってしまえば終わってしまう。
終わったが最後、金玉は今まで与えた金運を取り上げる。
するとどうなるか。
今まで与えた金運で得た利益は、すべて回収される。
足りなければその命をもって。
足りなければ家族の命をもって。
金玉は、人々を社員として雇う。
人々が、お金だけでは買えない何かを金玉に献上し続ける限り。
金玉グループは、発展を続ける。
人々が、お金だけでは買えない何かを金玉に献上し続ける限り。
中でも最も力が強かった三つの財閥は、三大財閥と呼ばれた。
一九四五年から一九五二年にかけて連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の財閥解体によって解体されることにはなったが、令和となった現代においても、巨大な企業グループとしてその面影を残している。
そして昨今、突然現れた一つの企業がわずか数年で急成長を遂げ、その三大財閥をルーツに持つ企業グループに匹敵するほどの力を持ち始めた。
就活生の志望企業ランキングは次々と塗り替えられ、企業もメディアも、その謎の企業に興味の目を向けている。
しかし、不思議なことに、その企業が何をしている企業かと聞かれると、誰一人答えることができないのだ。
家電を作っている企業でもない。
保険を売っている企業でもない。
不動産を売っている企業でもない。
何を作り、何をもって社会に貢献している企業なのかが不透明なのだ。
その名を金玉(かねだま)グループ。
金玉グループ本社のビルの最上階、選ばれた人間しか入れないそのフロアには、社長室と会議室があるのみである。
会議室では、今日も金玉グループが保有する会社の代表取締役たちが集まり、金玉グループの頂点に座す男へ貢物をささげる。
会議室の上座に座る男は、禿げた頭をタオルで磨きながら、その貢物へと目を落とす。
「金玉様、こちら、私の地元でとれた新鮮な野菜で御座います。今朝収穫したものを直送いたしましたので、味も鮮度も最高のもので御座います」
「くるしゅうない、くるしゅうない」
「金玉様、こちら、私の地元で作られております伝統的な焼き物で御座います。機械を使わない、すべて手作りの逸品で、文字通り金玉様のための世界で唯一の茶碗で御座います」
「くるしゅうない、くるしゅうない」
「金玉様、こちら、純金でできたオブジェで御座います。飾ってもよし、売ってもよし、最高の逸品で御座います」
「首」
「え?」
「首」
その瞬間、会議室の壁に沿って並んでいた屈強な黒服の男たちが一斉に動き出し、純金のオブジェクトを差し出した男を捕らえた。
「あ、金玉様、し、失礼いたし」
「首」
「お、お待ちを……どうかご慈悲を!!」
「首」
懇願空しく、男はそのまま会議室の外へと引きずり出されていった。
この後、男の身に起こることは、集められた全員がわかっている。
明日には代表取締役の肩書ははずされ、男は会社から追い出される。
そして、金玉の近くにいた反動を受ける。
金玉は、金の精霊。
自身の仲間に――金玉グループに所属する人間に、圧倒的な金運を与える。
金運が与えられた人間は、どんなに平凡な物だろうとサービスだろうと、客を惹きつけてしまい、利益をあげることができてしまう。
結果、莫大な収入を得る。
金玉グループは、金玉の力によって、特筆する物もサービスもないまま、三大財閥をルーツに持つ企業グループに肩を並べた。
そして、大きな金運の裏には代償もある。
この金運は、金玉が仲間と思わなくなってしまえば終わってしまう。
終わったが最後、金玉は今まで与えた金運を取り上げる。
するとどうなるか。
今まで与えた金運で得た利益は、すべて回収される。
足りなければその命をもって。
足りなければ家族の命をもって。
金玉は、人々を社員として雇う。
人々が、お金だけでは買えない何かを金玉に献上し続ける限り。
金玉グループは、発展を続ける。
人々が、お金だけでは買えない何かを金玉に献上し続ける限り。
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