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弐 からかさ小僧
しおりを挟む「ちっ! 雨かよ!」
コンビニで買い物を済ませ、外に出た男は舌打ちした。
コンビニに入る前までは曇っていたのに、今は土砂降り。
やみそうな気配もない。
鞄に手を突っ込んで折り畳み傘を取り出そうとするも、見当たらない。
「ちくしょう! こんな時に限って!」
すべては自分の失態。
夕方から雨が降ると知っていたのに、折り畳み傘を持ち歩かなかった自分の失態。
コンビニで長時間の立ち読みをしたことも失態。
怒りをぶつける先はなく、近くにあったそれを蹴る。
傘立てを。
「……お?」
そして、蹴った傘立てに、一本の傘がささっていることに気がついた。
ちらりとコンビニの中を見ると、客が一人、弁当を選んでいる途中だった。
客は傘立てを見ていない。
店員も、ちょうど揚げ物を揚げているようで、傘立てを見ていない。
「……傘は天下の回りものっと」
あたかも自分の傘であると思わせる自然な動作で、男は傘立てにささっている傘をとり、バサッと開く。
そして、客と店員の視界に入らない様に、すぐさまコンビニから立ち去った。
「俺ってついてる~!」
男は鼻歌交じりに歩き、しかしほんの僅かな罪悪感から、人通りの少ない道へと入る。
誰も男を見ていない。
傘を盗んだ男を見ていない。
バクン。
人通りの少ない道へ入った瞬間、傘が閉じた。
男の動きは止まり、そのまま地面へと倒れた。
閉じた傘を引っぺがそうともがくも、固く閉じてびくともしない。
男の頭蓋骨がミシミシと悲鳴を上げる。
男の意識が消え失せ、傘を握っていた手から力が抜けて、掌がゆっくりと開かれる。
男の手から解放された傘は、男の手を抜け、傘の柄を足のように動かしてピョンと立ち上がる。
そして、そのまま跳ねながら、コンビニの傘立てへと戻っていった。
男が倒れた場所には、首から上をねじり切られた、男の死体だけが残された。
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