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王族とのお茶会

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いよいよ国王主催のお茶会の日となった。
開始は午後からだが、瑛莉は朝からエルヴィーラとキャシーに磨き上げられ、二人がドレスに合わせる小物や髪型などについて真剣に話し合うのをどこか他人事のように聞いていた。

「お茶会ですから、あまり着飾り過ぎても気取っていると思われますし、これぐらいがちょうど良いと思います」
「では装飾品はこちらのネックレスのみでいかがですか?エリー様は聖女ですし、落ち着いた雰囲気を出したほうがいいでしょう」

侍女として高位貴族のお茶会経験があるキャシーの意見は貴重なようで、エルヴィーラは時折質問しながら手を動かしていく。

白いドレスに空を足したようなホリゾンブルーが重なったスカート部分は、角度によって濃淡が異なり落ち着いた色味であるのに、華やかさを添えてくれる。襟元は鎖骨部分よりも深く胸元まで開いているが、手首まで覆う袖口はフリルのように広がり上品なドレスだ。

(何というか全体的に青い……)

ドレスはもちろん、身に付けるものはヴィクトールから贈られたサファイアのネックレスと髪飾りで、瑛莉は何だか落ち着かない気分になった。

「王太子殿下の色という感じではありますが、あえやかな色味ですので主張しすぎていることはありませんし、せっかく頂いた贈り物を身に付けなければ殿下もがっかりされるでしょう」

そう告げるキャシーは一仕事終えて、満ち足りたような表情だ。エルヴィーラはいつも通りのようだが、眼差しがどこか柔らかいように見える。

「お美しいですね。良くお似合いです」

護衛として同行するディルクから爽やかな笑みで褒められるが、瑛莉は無視して小声で訊ねた。

「陛下はどんな方なんだ?」

もっと早く聞いておきたかったが、なかなかタイミングがなく直前になってしまった。

「思慮深く理知的な方です」

端的に答えるディルクの声は平静だが、そこには敬意や称賛の響きを感じ取って、瑛莉は無言で頷いた。それだけ分かっていれば今は十分だろう。

お茶会の会場は以前ヴィクトールに招かれた庭園と別の場所だった。見晴らしがよく、丁寧に刈り込まれた庭木や整然と並んだ花壇は統一感があり、綺麗に整えられている。
そんな庭園の中心に設置されたガセボには、既に国王、王妃、王女、そしてヴィクトールが座っていた。
瑛莉は無言で深々と頭を下げると、すぐに国王から声が掛かった。

「面を上げよ。今回は顔合わせのようなものだ。そう緊張せず楽にするといい」

尊大さを感じさせない口調と短い言葉からは、確かにディルクの言う通り思慮深さを感じさせる。

「聖女として召喚されましたエリー・ミゼッタと申します。陛下の寛大なお言葉、心より感謝申し上げます」

顔を上げて口上を述べた瑛莉は、促されて席へと座った。人数が少ないからか、聖女の立場に配慮したのか分からないが、広い円卓では国王を中心として時計周りにヴィクトール、マリエット、王妃が座っており、瑛莉が座ったのはヴィクトールとマリエットの間だ。
対角線上に王妃が、そしてほぼ正面に近い位置に国王という配置に否応でも緊張が高まっていく。

「素敵なドレスね。それはヴィクトールが用意したものかしら?」

朗らかな口調で口火を切ったのは王妃だった。実際の年齢は知らないが、二人の子供を産んだとは思えないほど若々しく、端麗な容姿はどこか可憐さを感じさせる。瑛莉に向ける表情は優しく穏やかな様子だが、王妃という立場のため感情を表に出さず本心を隠すことなど、日常茶飯事だろう。
警戒は緩めず、だが微笑みを絶やさないことを意識しながら、瑛莉はゆったりとした口調で答えた。

「はい、おっしゃるとおりでございます。このような素晴らしいドレスをご用意していただきまして、嬉しく思っております」

あくまで感想だけ述べたのはヴィクトールがまだ瑛莉に話しかけていないからだ。その言葉を聞いてヴィクトールも会話に入ってくる。

「エリーが喜んでくれて良かった。ネックレスと髪飾りも身に付けてくれて嬉しいよ」
「身に余る贈り物をいただき、感謝しております。大切に使わせていただきます」

そう言って控えめに微笑めば、ヴィクトールの口角が僅かに上がる。

(こっちは問題なさそうなんだが……困ったな)

左からの視線が突き刺さるようだが、そちらに顔を向ければどう難癖を付けられるか分からない。しばらく無視していたいと思っていたが、当然そんなことができるはずがなかった。
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