断罪中に前世の記憶を取り戻したヒロインは逆ハー回避に奔走する

浅海 景

文字の大きさ
22 / 27

妖精の素顔

しおりを挟む
「貴女、少し付き合ってちょうだい」
「……は、はい!」

一瞬遅れて自分に声を掛けられたのだと気づいたジェシカは、わたわたと返事をする。その声に令嬢たちも我に返ったのか、必死な顔でステファニーに弁明を始めた。

「ステファニー様、これはただの事故ですわ。偶然手が当たってしまっただけですの」
「わたくしどもはこの者の態度を見兼ねて忠告していただけですのよ。ステファニー様の婚約者様にも言い寄っていたものですから」

そんな令嬢たちをステファニーはどこか冷めた眼差しで一瞥すると、ジェシカのほうを見て僅かに頷くとそのまま歩き出した。

(あ、付いてきてって意味かな……)

ジェシカも後について行けば、令嬢たちもそれ以上かける言葉が見つからなかったようだ。気まずい沈黙の中、ジェシカはステファニーの背中を見ながら先ほどの出来事を思い返す。

(ステファニー様が私を助けてくれたのよね?)

だが華奢な体躯と細い腕にそんな力があるとは思えない。全体重をかけてしまったはずなのに、掛けられた声は平然としており頑張って支えてくれているような風ではなかった。
風魔法などで背中を押してくれたのかという考えがよぎったが、背中の感触はそんなものではなかったと思いなおす。

そんなことばかり考えているとステファニーの足が扉の前で止まり、躊躇なく中に入っていく。
小さな準備室のような部屋は、机と二つの椅子が置かれていて、片方にステファニーが座ったため、ジェシカも対面に腰を下ろす。

(こうして近くでみると、本当に妖精のように可憐な美少女だわ……)

神秘的な銀髪と紫の瞳、白くきめ細やかな肌に小さく紅い唇がどきりとするほど鮮やかだ。思わず見惚れていると、アメジストのような瞳がまっすぐにジェシカに向けられた。

「あ、あの、先程は助けていただいてありがとうございました!」

驚きのあまりお礼も告げていなかったことを思い出して、ジェシカは慌てて感謝を伝えると、ステファニーは小さく首を横に振る。

「たまたま通りかかっただけだから、気にしなくていいわ。それよりも貴女はメーガンと親しくしているようだけど、それはエイデン様が関係しているのかしら?」
「いえ、違います!エイデン様は関係ありません」

率直な物言いに驚きながらも、ジェシカは即座に否定した。きっかけは確かにエイデンではあったが、今ではむしろエイデンと接点が生じないのであれば一緒にいたいと思える存在なのだ。

「やっぱりそうよね。不愉快な聞き方でごめんなさい。一応確認しておこうと思ったの」

あっさりとジェシカの言葉を肯定するステファニーに、ジェシカはどこか拍子抜けしたような気分になった。以前コナーに頭を撫でられていたのをステファニーには目撃されていたこともあり、良い感情を持たれていないだろうと思っていたのだ。

「ステファニー様は……私のことを不快に思っていないのですか?」

おそるおそる尋ねると、ステファニーは優美な微笑みを浮かべて言った。

「貴女個人には何も思っていないわ。それに先ほどメーガンのことを庇っていたでしょう?わたくしの友人のために怒ってくれたこと、嬉しかったわ」

見られていたのかと恥ずかしくなったが、そんなジェシカの様子をステファニーはどこか面白がるような表情で眺めている。

「メーガンはとても良い子なのだけど、少し拗らせている部分があるから。ああ、そういえばあの子に推しという言葉を教えたのは貴女だったわね?」

困ったように笑うステファニーを見て、この人は本当にメーガン様と仲が良いのだとジェシカは思った。

「はい、余計なことをしてしまいました」
「ふふ、そういう意味ではないわ。そう解釈したのはメーガン自身だもの。憧れが恋心に変わったところで誰に責められるわけでもないのにね」

(ステファニー様は、何だか印象と随分違う気がする)

話し方も態度もどこか凛とした雰囲気があり、妖精のような外見を無視すれば頼りになる姉御肌の女性ではないか。
そんなジェシカの内心を見抜いたかのように、ステファニーは悪戯っぽい笑みを見せて言った。

「お母様はわたくしが普通の令嬢でいることを望んでいるの。でもわたくしは自分に嘘を吐きたくないから、出来るだけ話さないようにしているわ。容姿だけは可憐に見えるから、周囲が勝手にそう思ってくれるのよ」

さらりと告げられた言葉に慌てたのはジェシカだ。そんな秘密を簡単に話してしまってよいのかと狼狽したが、吹聴するような人ではないでしょうと返される。

「確かに貴女の振る舞いは褒められたものではなかったかもしれないけど、悪意は感じなかったし過剰に反応するようなものでもなかったわ。それに軽率なのはコナー様たちにも言えることだし、あの方々は理解した上での行動でしょう?アマンダ様のご友人たちの前で貴女に触れた時は、叱り飛ばしたくなったのを一生懸命堪えていたものよ」

先程助けてくれたことと言い、義憤に駆られたように話すステファニーにジェシカは無意識に口に出していた。

「ステファニー様はまるで騎士様みたいです」
「ありがとう。最高の褒め言葉だわ」

そう言って微笑んだステファニーは春の妖精のように美しかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

とっていただく責任などありません

まめきち
恋愛
騎士団で働くヘイゼルは魔物の討伐の際に、 団長のセルフイスを庇い、魔法陣を踏んでしまう。 この魔法陣は男性が踏むと女性に転換するもので、女性のヘイゼルにはほとんど影響のない物だった。だか国からは保証金が出たので、騎士を辞め、念願の田舎暮らしをしようとしたが!? ヘイゼルの事をずっと男性だと思っていたセルフイスは自分のせいでヘイゼルが職を失っただと思って来まい。 責任を取らなければとセルフイスから、 追いかけられる羽目に。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

王宮メイドは今日も夫を「観察」する

kujinoji
恋愛
「はぁぁ〜!今日も働くヴィクター様が尊すぎる……!」 王宮メイドのミネリは、今日も愛しの夫ヴィクターを「観察」していた。 ヴィクターが好きすぎるあまり、あますところなく彼を見つめていたいミネリ。内緒で王宮メイドになり、文官である夫のもとに通うことに。 だけどある日、ヴィクターとある女性の、とんでもない場面を目撃してしまって……? ※同じものを他サイトにて、別名義で公開しています。

うっかり結婚を承諾したら……。

翠月 瑠々奈
恋愛
「結婚しようよ」 なんて軽い言葉で誘われて、承諾することに。 相手は女避けにちょうどいいみたいだし、私は煩わしいことからの解放される。 白い結婚になるなら、思う存分魔導の勉強ができると喜んだものの……。 実際は思った感じではなくて──?

ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~

紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。 毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。 R15は、念のため。 自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!

ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。 ※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。

ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です

山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」 ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。

処理中です...