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思い出したのは断罪中

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「アマンダ、君は王族の婚約者として相応しくないようだ」

ジョシュアの一言で周囲の声が途切れ、ホール内が静まり返った。学園の最終イベントとして開かれたプロムには全生徒が参加しており、ダンスとおしゃべりを楽しんでいたところだ。
常日頃から鈍いと言われているジェシカも急速に張り詰めていく空気が伝わって、思わず隣にいるジョシュアと対面のアマンダへ交互に視線を向ける。

「ジェシー、大丈夫だから」

安心させるように柔らかく微笑むジョシュアにそう言われて、一旦落ち着いたものの何かを忘れているかのような焦燥感が止まらない。

「アマンダ・ベイリー公爵令嬢、平民であることを理由にジェシカを虐げ心身ともに苦痛を与えたことは生徒会として、また王族として看過できることではない」

ふっとジェシカの脳裏に浮かぶ映像と言葉。一度浮かんだ記憶は洪水のよう押し寄せてくる。

(こ、これは断罪シーンじゃない!!)

かっと目を見開いたジェシカは止めなければと思うものの声を出すどころか、情報過多のせいかくらくらする。

「ここにオルティーズ王国第三王子である私ジョシュアとアマンダ・ベイリー公爵令嬢との婚約を破――ジェシー?!」

キャパオーバーで意識を失う直前、ジェシカの耳に届いたのは焦ったようなジョシュアの声だった。



(まさか、まさかの逆ハーエンドなヒロインなんて……この状況、マジであり得ないんだけど!!)

前世の記憶を取り戻したジェシカが真っ先に抱いた感想は最悪の一言に尽きる。
貴族の血など欠片も引いてないジェシカは正真正銘の平民だ。希少な光属性の魔力を持っていると判明して、貴族が通う王立学園に入学することになっただけで、卒業後は実家で食堂の手伝いをする予定になっている。

(というか私、かなりイタい子だったよね!天真爛漫が通用するのは十歳ぐらいまでなのに、空気読まなさすぎる上に図々しいわ!!)

良く言えば無邪気、悪く言えば周りが見えない常識知らずということだ。
学園内は平等だという理念を真に受けて行動した結果、令嬢たちからは敬遠され面白がった令息たちに気に入られ、彼らの婚約者から非難されるようになった。それがまた令息たちの庇護欲を掻き立てることになったのか、乙女ゲームの逆ハーレムのような状態になっていたのだ。

(そういうつもりじゃなかった……って言っても白々しい上に今更って思われそう)

だが実際のところ、記憶を取り戻す前のジェシカに令息たちを侍らして悦に浸るような趣味はなく、ただ友人としてしか考えていなかったのだ。
自己保身とかではなく、貴族が平民と恋愛するはずがないという固定観念があり、学園に通う間の限定的な友人関係だからこそ楽しく過ごしたいと思っていた。

(だけどそれが逆ハー思考というか、他の令嬢たちから嫌われても仕方ない言動だったわ)

前世の自分は目立つことが嫌いな事なかれ主義だった。今世の自分とのギャップが大きかったものの、客観的な思考が芽生えたことで自分の立ち位置がよく理解できるようになったらしい。他意はなかったが、だからと言って全く非がないわけではないだろう。

そもそも逆ハーレムなんてものは物語ではありでも、自分の中の倫理に反している。複数の男性に愛されたいなんて思わない。
ジェシカが後悔に苛まれていると、医務室のドアが開く音がした。

「ジェシー、体調はどうだい?あの場に君を連れ出したことで負担を強いてしまった。すまない、怖かっただろう」

どうやらジョシュアはいじめの主犯であるアマンダと対峙させたことで、ジェシカが失神してしまったのだと考えているらしい。

(いや、そんな繊細じゃないですから)

ジョシュアの中で自分はどんな風に見えているのか心配になったが、まずは誤解を解かなくてはならない。

「ジョシュア殿下、少し寝不足だったようです。ご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「……どうしてそんなによそよそしいんだい?アマンダにあの場で罪を認めさせることはできなかったが、然るべき罰を与えるつもりだ。君のことは必ず守るからこれまで通りに接してほしい」

王子から懇願するように告げられて断るのは不敬だろう。だがアマンダを処罰されては困るのだ。

確かにアマンダは少々高慢で物言いがきついところがあるが、言っていることは間違ってはいなかった。身分や淑女の在り方や礼節など貴族であれば当然のことをジェシカは理解できずにいただけだ。
何故アマンダがジェシカに指摘したかといえば、最上位の公爵令嬢であり、王子の婚約者であるアマンダは規律を正す立場にいるからだった。

(自分が原因で婚約破棄なんて冗談じゃないわ!)

学園内だから許されていたことでも、婚約破棄となれば家同士の話し合いになる。ジョシュアの考えはどうあれ、王子を誑かした平民だということでジェシカだけでなく家族にも迷惑を掛けることになるかもしれない。

「ジョシュア様、アマンダ様の言動については私にも非があったので処罰を取りやめていただくことはできないでしょうか?」

気を失ってしまったが、恐らくあの状態で婚約破棄を宣言することはなかったはずだ。今ならギリギリ引き返せるとジョシュアに頼み込むことにしたのだが、何故かジェシカの願いは曲解されて受け取られることになる。

「虐めた相手を庇うなんてジェシーは本当に優しいな」

(いや、そうじゃないんだって!)

困ったように眉を下げながらも、嬉しそうな笑みを浮かべるジョシュアにジェシカは心の中で盛大に突っ込みを入れる。

虐められていると泣きついた覚えはないが、困ったことはないかと訊ねられて素直に口にしたのは自分だ。完全に自損事故ではあるものの、何とかして婚約破棄だけは回避しなくては。

「いえ、優しいのはアマンダ様のほうで――」
「ジェシー?大丈夫だから、ね。せっかくのプロムなのに楽しめなかっただろう?今度埋め合わせをさせてほしい」

(わあ、話が通じないのかしら……?)

これは単刀直入に告げても逆効果のような気がする。愛想笑いを浮かべながらジェシカはどうやってジョシュアを説得すべきか考えるのだった。
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