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「お父さま、お母さま」
どれだけ呼んでももう応えてくれないのは分かっていた。でも胸がぎゅっと苦しくて仕方がなくて、大好きな両親に助けを求めてしまう。そうして抱きしめてくれる腕が、優しい言葉を掛けてくれる声が返ってこないことに、また涙が溢れてくる。
両親を乗せた馬車が事故に遭ったという知らせが入ったのは五日前のこと。
いつもは笑みを絶やさない侍女頭のエイミーと執事のトマスが強張った表情でアンナに告げた。突然の訃報に頭が真っ白になったが、七歳になったばかりのアンナは二人の死が理解できないほど子供ではない。
だがアンナが悲しみに打ちひしがれている間に、伯父は全ての手続きを終わらせてヴェルス伯爵家を襲爵していた。
養ってやるのだからと両親の形見は全て奪われ、アンナは埃まみれの屋根裏部屋へ追いやられる。
それと並行して大好きなエイミーや、アンナを庇う素振りを見せた使用人はたちどころに解雇されていく。そんな状況で新しく雇用された使用人は、アンナを存在しないように扱うか邪険にする者ばかりとなった。
与えられる食べ物も冷たくなったスープや固いパンばかりで、アンナは空腹と寒さで震えながら、唯一手元に残されたウサギのぬいぐるみを抱きしめた。黒いふわふわの毛はアンナの孤独を和らげてくれる。
翡翠色の瞳はキリッとしていて、味方のいなくなったアンナには頼もしい存在だ。
微かに扉を叩く音が聞こえた気がして身体を起こすと、細く開けられたドアから誰かが素早く入ってきた。
「クロードお兄様!」
五歳年上の従兄、クロードは会うたびにアンナを可愛がってくれていた。
伯父も伯母も両親が生きていた頃は笑顔で迎えてくれていたのに、今は怖い顔でアンナを怒鳴りつけてくる。
(まるで別人になってしまったみたい……)
悲しさでいっぱいだったアンナは彼らの変化にショックを受ける余裕もなかったが、日が経つにつれて困惑と恐怖がじわじわと押し寄せていた。
クロードが屋敷に来た時に姿を見かけたが、アンナはすぐに屋根裏部屋に閉じ込められてしまったため会話を交わす機会などなかったのだ。
大好きな従兄に会えたことで、久しぶりに笑みを浮かべるアンナだったが、聞こえてきた言葉に凍り付くことになる。
「俺を兄と呼ぶな!お前が妹なんて絶対に認めない」
喉に何かが詰まったように息苦しさを感じるとともに、目の前がぼやけてくる。バタンと乱暴に扉を閉められて一人ぼっちになると、部屋に静寂が満ちる。
生温かい何かが頬を伝っている感触に、アンナは自分が泣いていることにようやく気付いた。両親を悼んでもう涙は枯れ果てたと思っていたのに、優しかったクロードの変化に胸が締め付けられるように痛む。
アンナにとって悪夢のような日々が始まったのはそれからだった。
どれだけ呼んでももう応えてくれないのは分かっていた。でも胸がぎゅっと苦しくて仕方がなくて、大好きな両親に助けを求めてしまう。そうして抱きしめてくれる腕が、優しい言葉を掛けてくれる声が返ってこないことに、また涙が溢れてくる。
両親を乗せた馬車が事故に遭ったという知らせが入ったのは五日前のこと。
いつもは笑みを絶やさない侍女頭のエイミーと執事のトマスが強張った表情でアンナに告げた。突然の訃報に頭が真っ白になったが、七歳になったばかりのアンナは二人の死が理解できないほど子供ではない。
だがアンナが悲しみに打ちひしがれている間に、伯父は全ての手続きを終わらせてヴェルス伯爵家を襲爵していた。
養ってやるのだからと両親の形見は全て奪われ、アンナは埃まみれの屋根裏部屋へ追いやられる。
それと並行して大好きなエイミーや、アンナを庇う素振りを見せた使用人はたちどころに解雇されていく。そんな状況で新しく雇用された使用人は、アンナを存在しないように扱うか邪険にする者ばかりとなった。
与えられる食べ物も冷たくなったスープや固いパンばかりで、アンナは空腹と寒さで震えながら、唯一手元に残されたウサギのぬいぐるみを抱きしめた。黒いふわふわの毛はアンナの孤独を和らげてくれる。
翡翠色の瞳はキリッとしていて、味方のいなくなったアンナには頼もしい存在だ。
微かに扉を叩く音が聞こえた気がして身体を起こすと、細く開けられたドアから誰かが素早く入ってきた。
「クロードお兄様!」
五歳年上の従兄、クロードは会うたびにアンナを可愛がってくれていた。
伯父も伯母も両親が生きていた頃は笑顔で迎えてくれていたのに、今は怖い顔でアンナを怒鳴りつけてくる。
(まるで別人になってしまったみたい……)
悲しさでいっぱいだったアンナは彼らの変化にショックを受ける余裕もなかったが、日が経つにつれて困惑と恐怖がじわじわと押し寄せていた。
クロードが屋敷に来た時に姿を見かけたが、アンナはすぐに屋根裏部屋に閉じ込められてしまったため会話を交わす機会などなかったのだ。
大好きな従兄に会えたことで、久しぶりに笑みを浮かべるアンナだったが、聞こえてきた言葉に凍り付くことになる。
「俺を兄と呼ぶな!お前が妹なんて絶対に認めない」
喉に何かが詰まったように息苦しさを感じるとともに、目の前がぼやけてくる。バタンと乱暴に扉を閉められて一人ぼっちになると、部屋に静寂が満ちる。
生温かい何かが頬を伝っている感触に、アンナは自分が泣いていることにようやく気付いた。両親を悼んでもう涙は枯れ果てたと思っていたのに、優しかったクロードの変化に胸が締め付けられるように痛む。
アンナにとって悪夢のような日々が始まったのはそれからだった。
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