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許容範囲

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店を回りながら、リアはいつもと比べものにならないほどよく喋った。その大半はリアの質問にノアベルトが答えるというものが多かったが、充実した心地よい時間だった。会話をする時、リアはノアベルトと目を合わせ色んな表情を見せてくれる。

好奇心に目を輝かせる姿に何度抱き締めそうになったか分からない。

もっとその表情を見たくて、気に入ったものを買い与えようとしてもリアは嫌がった。
菓子や食べ物などは受け取るのに、装飾品や生活に必要のない品々に関しては贅沢品として捉えているようだ。

だが、リアの気を引いた安物のブレスレットだけは密かに購入することにした。これぐらいならリアも固辞しないだろうという目算と、自分の瞳の色と同じ宝石を身に付けて欲しいという願望もある。
伴侶や恋人同士が周囲に愛情を知らしめるための方法だが、牽制にもちょうどいい。

退屈でないかと気遣ってくれるリアに、愛おしくてたまらないと髪に口づければ、わずかに顔が赤く染まる。時々こういう顔を見せてくれるから、どんなに邪険にされても一向に気にならない。
半ば無理やり押し付けたブレスレットだが、手首に付けると恥ずかしそうにしながらも嬉しそうな笑みを浮かべて感謝を口にするリアを見て、理性が揺らいだ。

心の奥に隠しておくべき願望がこぼれて、もっと多くをと望んでしまう。
その笑顔を自分にも向けてくれないだろうか。少しでもいいから同じ気持ちを傾けて欲しい。

引き寄せられるままに柔らかい頬に触れ、口づけを落とす直前で邪魔が入った。
不快ではあったが、わざわざ処分するほどではない。リアが一人で部屋を出て行くのを無言で目で追っていると、ステラが恐る恐るといったように口を開いた。

「今はお一人にして差し上げたほうがよろしいかと存じます」

自分よりリアを理解しているかのような発言は気に食わないが、ステラの発言は恐らく正しい。

……少しやり過ぎたか。

リアは怒っていなかった。だが代わりに浮かんでいたのは困惑とわずかな怯えの感情だ。
不安が混じる瞳がそれ以上の行為を望んでいないことを表していたが、その一線を越えればリアが自分のことを意識せざるを得ないと思うと引くつもりはなかった。

それでも少し性急だったと自覚していたから、リアに落ち着く時間を与えようと一人で行動させたのが間違いだった。
リアが戻ってきた時にどう接するべきか考えていると、遠くから微かに物が壊れる音が聞こえて席を立つ。

なかなか戻ってこないことに不安を覚えて迎えに行けば、耳障りな甲高い声に聞き覚えのある攻撃的な口調が加わる。不穏な気配に駆け付ければ、許しがたい光景に感情を抑えることが出来なかった。
怒りを含んだ声に全員が動きを止めるが、ノアベルトにとって重要なのはリアだけだ。

個室に戻るなりステラを締め出し、リアを膝の上に乗せて向かい合わせになる。
普段なら嫌がって逃げ出すか、不満を訴える行為にも関わらず、大人しくてしているのは怒らせたという自覚があるからだろう。だが騒動を起こしたこと自体に腹を立てているわけではないことが、リアには分からないらしい。

頬に触れると身体を硬直させるのは、以前無理やり唇を奪ったことを思い出したからか。そんな様子を気に掛けることなく、髪をかき上げ左側のこめかみから頬にかけて何度も唇を落とす。

「…っ、ノア!」

止めてほしいと思っているのに口にしないのは、ノアベルトが何故怒っているか分からないからだ。もっと言えば余計なことを言ってさらに怒りを買うことを恐れている。

そのような判断は出来るのに、何故あのような行為を許容しようとするのかと思うと、苛立ちが募った。
耳朶を軽く食むと、リアは身体を大きく震わせた。

「――やだっ!陛下、やめてください!」

耐えきれなくなったリアは必死で抵抗するが、抱きしめた腕を緩めるつもりはない。分からないなら分からせるまでだ。

「何故あの者には抵抗しなかった」
「……えっ?」

耳元で囁くと、リアは呆気にとられたような声を漏らして動きを止めた。
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