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婚約解消
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ずっと前から予感はあった。
だけどそれが今日、この場で起きることなどシャーロットは想像すらしていなかったのだ。
「シャーロット、君との婚約は解消させてもらう」
『——心配しなくても大丈夫だよ』
そんな言葉を掛けてくれたのは一体何だったのだろうか。じわりと込み上げてくる感情に蓋をしてシャーロットは確認のため発言した。
「ラルフ王太子殿下、恐れながら国王陛下はご存知なのでしょうか?」
眉を顰めたのは痛いところを突かれたせい、そう思ったのに続いた言葉は予想を裏切るものだった。
「……父上にもブランシェ侯爵にもこの件は伝えている」
残っていた微かな希望もあっさりと砕け散り、シャーロットは表情を保つことに集中する。
「承知いたしました。それでは父と話がありますので、失礼させていただきますわ」
卒業式前夜のパーティーには学園の生徒とその同伴者のみが招待されている。先ほどまで賑わっていた会場は、今はしんと静まり返っていて誰もが事の成り行きを見守っていた。
同年代の貴族子女が大半を占める場所で、これ以上無遠慮な視線に晒されることは耐え難かった。一刻も早くこの場を立ち去りたいと願うシャーロットを、鈴の音がなるような少女の声が引き留める。
「シャーロット様、ごめんなさい!私、そんなつもりじゃなかったの。でもいつの間にか惹かれてしまって……こんなこと言い訳にしかならないけど、どうか私とラルフ様のことを認めてもらいたいんです!」
「カナ!君のせいじゃない。婚約者がいるのに僕は君をどうしようもなく愛してしまったんだ。君の笑顔が僕を癒してくれた。――シャーロット、悪いのは彼女ではなく僕なんだ」
互いに庇い合う様はまさに相思相愛だ。その様子をうっとりとした表情で見守る令嬢たちの姿もあった。
二人は見つめ合ったあと、シャーロットに期待に満ちた視線を向けている。
「……陛下がお認めになったなら、臣下として反対などあろうはずがありませんわ」
早く立ち去りたい一心で何とか言葉を口にしたにもかかわらず、カナは表情を曇らせた。
「そんな言い方……やっぱりシャーロット様はご不快ですよね。シャーロット様が許してくれるまで、私何度でも謝りますから!本当にごめんなさい!」
頭を下げるカナの方をラルフが抱き寄せて慰めの言葉を口にする。親密な行為に周囲からは歓声が上がり、すっかり二人を祝福する雰囲気が出来上がっていた。
「シャーロット、カナは異世界からの聖女で僕と伴侶となる資格を有している。君は確かに侯爵令嬢で身分も教養も申し分なかったけど、いつも上品な笑みを浮かべている君が何を考えているか分からなかったし……心が安らぐような気持ちを覚えたこともない。生涯支え合っていく存在とは思えなかったんだ」
胸が鋭く痛んだが、心の動きを悟られるような醜態を見せるわけにはいかなかった。
王太子の婚約者として相応しくあるために身に付けた術を否定されてもなお、シャーロットは淡い微笑みを浮かべることしか出来なかった。
だけどそれが今日、この場で起きることなどシャーロットは想像すらしていなかったのだ。
「シャーロット、君との婚約は解消させてもらう」
『——心配しなくても大丈夫だよ』
そんな言葉を掛けてくれたのは一体何だったのだろうか。じわりと込み上げてくる感情に蓋をしてシャーロットは確認のため発言した。
「ラルフ王太子殿下、恐れながら国王陛下はご存知なのでしょうか?」
眉を顰めたのは痛いところを突かれたせい、そう思ったのに続いた言葉は予想を裏切るものだった。
「……父上にもブランシェ侯爵にもこの件は伝えている」
残っていた微かな希望もあっさりと砕け散り、シャーロットは表情を保つことに集中する。
「承知いたしました。それでは父と話がありますので、失礼させていただきますわ」
卒業式前夜のパーティーには学園の生徒とその同伴者のみが招待されている。先ほどまで賑わっていた会場は、今はしんと静まり返っていて誰もが事の成り行きを見守っていた。
同年代の貴族子女が大半を占める場所で、これ以上無遠慮な視線に晒されることは耐え難かった。一刻も早くこの場を立ち去りたいと願うシャーロットを、鈴の音がなるような少女の声が引き留める。
「シャーロット様、ごめんなさい!私、そんなつもりじゃなかったの。でもいつの間にか惹かれてしまって……こんなこと言い訳にしかならないけど、どうか私とラルフ様のことを認めてもらいたいんです!」
「カナ!君のせいじゃない。婚約者がいるのに僕は君をどうしようもなく愛してしまったんだ。君の笑顔が僕を癒してくれた。――シャーロット、悪いのは彼女ではなく僕なんだ」
互いに庇い合う様はまさに相思相愛だ。その様子をうっとりとした表情で見守る令嬢たちの姿もあった。
二人は見つめ合ったあと、シャーロットに期待に満ちた視線を向けている。
「……陛下がお認めになったなら、臣下として反対などあろうはずがありませんわ」
早く立ち去りたい一心で何とか言葉を口にしたにもかかわらず、カナは表情を曇らせた。
「そんな言い方……やっぱりシャーロット様はご不快ですよね。シャーロット様が許してくれるまで、私何度でも謝りますから!本当にごめんなさい!」
頭を下げるカナの方をラルフが抱き寄せて慰めの言葉を口にする。親密な行為に周囲からは歓声が上がり、すっかり二人を祝福する雰囲気が出来上がっていた。
「シャーロット、カナは異世界からの聖女で僕と伴侶となる資格を有している。君は確かに侯爵令嬢で身分も教養も申し分なかったけど、いつも上品な笑みを浮かべている君が何を考えているか分からなかったし……心が安らぐような気持ちを覚えたこともない。生涯支え合っていく存在とは思えなかったんだ」
胸が鋭く痛んだが、心の動きを悟られるような醜態を見せるわけにはいかなかった。
王太子の婚約者として相応しくあるために身に付けた術を否定されてもなお、シャーロットは淡い微笑みを浮かべることしか出来なかった。
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