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第五章 大きな彼。後編
愛なんてモノではないのでは。
しおりを挟む「あれ?恋バしてたっけ?」
おっと?と首を傾げる後輩の声を聞きながらも自分もドギマギとしてしまう。途中から恋愛話になってしまった気がするというか確実もそっちの話に持って行かれてしまった気がする。
鹹蛋くんは特に気にせず携帯の裏側を指でなぞってからクリームソーダの最後の一口を飲み込んだ。
「別にそんなつもりじゃなかったっすけど」
「いやいや、男女のそう言う話。俺だぁいすき~」
「茶化すんじゃない」
「まぁいいじゃないですか。ま、今の話を聞くに気になるのは”肉”の部分だけどね」
そこんとこもうちょっと詳しく聞きたいな。と目を細める後輩に鹹蛋くんも動きを止めてじっと彼を見つめた。
静まり返った個室に思わず緊張が走っている気がして思わず息を飲み込んでしまう。赤い瞳が少し鋭くなって、睨みつけているような気がしたが彼はすぐにも視線を逸らしてため息を漏らした。
「肉に関しては、竜騎の奴に聞いたほうがいいと思います。
俺が言っていい内容じゃねぇだろうし……まぁ、それ以外なら聞いて下さい」
「じゃあ、炯月さんと月花さんと君と、漣さんの関係は?」
それだけでも知りたいなぁ。と笑う後輩の表情は横から見ていても少し不気味に思う。何を考えて、どう言う意図でそれを聞いているのかわからない。
鬱蒼とした雰囲気に何も言えずにいれば鹹蛋くんは少し考えるように口を閉ざしながら疎ましそうに隣の男を睨んだ。まるで聞いて欲しくなさそうな顔をしていてその威圧感に思わず背中を仰け反らせてしまいそうになった。
だが彼はすぐに諦めたようにため息を漏らして額を抑えて面倒臭そうに後輩の方を睨みつけた。
「俺とあの人達はまぁ……元々は先輩って感じだな……」
「先輩?年齢は離れてるだろ……」
「……その時、仕事として働かせてもらっていたとこで一回だけ会ったことがあったんだよ。だから先輩。色々教わった」
それだけだよ、と小さく呟く彼の言葉に後輩は笑顔のままじっと彼を見つめる。その視線とぶつからないように鹹蛋くんは視線を逸らしていた。氷が、ガラスにぶつかる音が聞こえた気がする。
「……わかった。でも、教えて俺が捕まるってことは」
「一応俺ら今日は休暇で警察手帳も持ってないから今日だけは見逃してあげるよ」
「いや、犯罪なら警察としては見逃せないだろ……」
「まぁ別に捕まってもイイっすよ。証拠不十分で解放されるのが落ちだと思うんで」
そう言ってクリームソーダの最後の一口を飲み干した。口の中に氷を含むと彼はそれを噛み砕いてしまった。
その勢いが少し恐ろしくて後輩の方を見れば彼は何を思っているのかわからないが静かに後輩から視線を外して鹹蛋くんの方にもう一度目を向けた。
「まぁ休暇中だし、事によっては聞かなかったことにするから教えてもらっていいか?」
「……沼に一歩足を入れる時は、死ぬ覚悟をしろ」
「え、」
「葉がよく忠告に言ってた言葉だよ。
彼奴は、自分の世界に知らない誰かが入ってくるのを嫌がる節があるからな」
そう言って息を漏らした彼に、静かに耳を傾けた。
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