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第五章 大きな彼。後編

緊張とは、また違う。

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 空になった皿を積み重ねて、新たに注文した飲み物を仰ぎながら俺は鹹蛋くんの言葉にただ静かに耳を傾けている。
 
「幸せを奪うやつって、具体的には誰なんですか?」
 
 後輩の言葉に鹹蛋くんは口を閉ざすようにキュッと一文字を作った。
 少し考え込むように眉間に皺を寄せて机をじっと睨み付ける彼に、後輩と思わず顔を見合わせた。
 
「言いにくい話?」

 聞きにくいことではあるが、突っ込んで聞いていかないと彼は口を閉ざしてしまうとこの少しの時間で彼のことをなんとなくわかったから漏れ出た後輩の言葉にまた彼の方に目を向ければなんとも言えない表情を浮かべながらこちらを見た。

「……あんたらが警察なら尚のこと」
 
 まぁ、多分大丈夫だと思うんですけど。と言いながら携帯を触り始める彼にまさか、と思ってしまう。
 
「俺の考えが当たってるとか?」
「ふざけたこと言わないでもらっていいっすかね。
 別に濁しながら言ってくれていいよ。どう解釈するかは俺らだし、証拠もなかったら今は何もできないしね」
 
 そもそも今日休みだし。と言いながら後輩はコーヒーに角砂糖四つ目を投入しながらへらりと笑ってみせる。
 時折思うが、こいつはこんな風に笑う男だっただろうか。どことなく幼く見えるが、まぁ今はいい。鹹蛋くんに目を向け直して見れば彼は少し困ったように頬をかいた。
 
「まぁ、竜騎さんや月花さんが通してる時点である程度見張られてるんでしょうから、俺が何言っても問題はないと思うんですけどね……」
「炯月さん? え、見張られてるってどういう……」
「詮索するのはやめておくことをお勧めしますよ、俺」
 
 あんま、敵に回したくないし。と言いながら鹹蛋くんはクリームソーダを飲んだ。チョイスが一々可愛いんだが、どうやら漣さんが好きだったものらしい。純情少女漫画か何かでしょうか?と思うのも仕方がないと思う。
 
「詮索はじゃあしないけど、それに関連した話を聞けるってことで、いいのかな?」
 
 後輩の言葉に鹹蛋くんは動きを止めてから視線を少しずらし、扉の方に視線だけをやった。
 何かいるのか、とそちらに目を向けても何かがいる様子もなく首を傾げることしかできない。視線を戻せば鹹蛋くんも視線を机に戻してクリームソーダをまた口に含ませている。
 
「それはいや?」
「あんたらがそれでもいいのなら、別に話はしますけど……」
「うん、漣さんのこと知れるのならどんな話でも聞きたいな。ね、先輩」
 
 そう言ってこちらを見てにっこりと笑顔を浮かべる後輩の言葉に俺は少し考えながら同意を見せながらうるさい心臓を押さえつけていた。


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