死んでしまった彼女が遺したモノも知らず。ただ私は、遺族の無念を晴らしたかった。

古町駒津

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第五章 大きな彼。前編

写真はいいものだと思うが、寂しさは倍増する気がする。

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 写真の中央で幸せそうに、とても幸福に溢れたと言わんばかりの笑顔を浮かべる漣さん。
 彼女に腕に抱きつかれながら照れたようにカメラではなく彼女にのみ視線を向けている鹹蛋くん。
 同じようにマスクを顎におろして笑顔を浮かべてながら隣のふわふわとした女子の頭にもたれかかりながらピースをする扇くん。

 そして扇くんの腕に抱きつきながら笑う小さくふわふわとした女子高生と、そんな女子に後ろから抱きついている縦ロールのツインテールをした女子高生。
 そんな五人の、とても仲の良さそうな写真が視界に入り思わず口元が緩む。

 確かに彼女の実家の玄関に飾られていたのはこの写真の彼女で安易にこの写真が引き伸ばされてあそこに飾られているのがわかるもので。
 鹹蛋くんの視線が漣さんに向いていることで高校生ながらに本当に彼女が好きだったことがわかる、いやそんなことをしなくても写真の下にずらりと並んでいる写真の全てが彼女を中心に撮られているものなんてすぐにわかる。
 すぐに携帯を引っ込めてから愛おしそうに、でも悲しげに顔を少し歪めてから鹹蛋くんは携帯をまた机の上に伏せて置いて机をじっと見つめている。

 少しだけ、沈黙が続く。
 
「俺は、漣を殺した犯人が捕まらなくていいって思ってます」

 沈黙を破って言葉を漏らしたのは鹹蛋くんで、彼の言葉に思わず目付きが鋭くなった気がした。

「……それは、またなんで?」

 恐る恐る聞いてみれば机に向けられていたその赤い瞳がこちらにゆっくりと向けられた。だが、それは鋭いモノではなくただ、どこか寂しげで、悲しげなモノだった。

「彼奴がそれを望んでいたのを、俺達は知っていたから」
 
 そんな赤い瞳が真っ直ぐと、こちらを向いている。
 思わず息を呑み込んでしまったが彼はすぐに息を吐いてチラリと扉の方を見る。それにつられて扉を見ようとしたのと同時に聞こえてきたノックの音に一瞬驚いて肩を跳ねさせてしまった。
 どうぞ、と後輩が言えば料理を持ってきた店員がいて笑顔を浮かべて部屋に入ってくる。
 
 メニューを確認しながらおいてくれて去っていった。机に並べられたメニューを見ながらも鹹蛋くんがコーヒーに角砂糖を五つも入れてミルクも入れて大分甘そうな香りが鼻腔を付いてきた。
 あんみつも大分甘そうだが、横に一緒に付いてきた緑茶がいい味を出していそうだと思いながらスプーンを手に取った。
 
「まぁ、続きは話しながらでも喋れるし取り敢えず食べましょうよ」
 
 後輩の言葉に、頷きながら餅を救って口の中に放り込んだ。
 甘く口の中が痺れる感覚に、少し胸が重くなったような気がする。



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