死んでしまった彼女が遺したモノも知らず。ただ私は、遺族の無念を晴らしたかった。

古町駒津

文字の大きさ
上 下
44 / 57
第五章 大きな彼。前編

理由なんて、惚れた以外に必要ないだろ。男なら【彼視点】

しおりを挟む




 
 一度くらいは聞いとかないといけない、と思って聞いたことはあった。
 
「は?喧嘩する理由?」
「おう、お前すぐ怪我して帰ってくるじゃん」
 
 見てらんないから、止めさせようとは思ったからまずは理由を聞いてみた。兄弟喧嘩を止めてくれた母親を思い出しながら似たような感じで。
 でもまぁ、上手くいくないとは思ってたし漣にそれが聞くとも思わなかったから少し考えてからこちらを指差してくる漣になにも言えなかった。
 
「なんだよ」
「今回の喧嘩の理由はお前」
「は?」
 
 俺が理由で、って思ったし本当にあほらしいと思ったけど目の前の自分よりも頭一個分以上小さくて細くて弱そうな女の真っ直ぐな瞳が少し苦手で思わず目を逸らした。
 下から「こっち見ろ」と言われて漣を見れば満月がこちらをじっと睨んでいるからまた逃げ出したくなった。嫌いな訳じゃないし、寧ろ好きな目だから別に嫌とは思わないけど。
 あ?さっきと言ってることが違うって……そりゃ、真っ直ぐ見られるのはあんま好きじゃねぇよ。でも、漣の目は綺麗だから好きだ。
 
「君が理由。
 だって彼奴ら集団で君一人を潰そうとするんだぜ?許せないよ」
「……俺が、集団に負けると思ってんのかよ」
「思わないけどね」
 
 君強いし。と疑うこともせずにいう漣はそのままキッチンの方へと進んでいく。毎日のように紫蘇ジュースを飲むのは多分日課だと思う。
 爽やかだとかいうけど俺は苦手だよ、あれ。一緒に飲んでる竜騎の気もしれないけどでも、俺が嫌がってるの知ってても「一緒にのむ?」と勧めてくる彼奴は多分意地悪なんだと思う。
 
「俺が理由って言うなら俺の見えないとこでやれよ」
「一般人相手に月花さん達出すのは違うじゃん。
 あと僕一人だと負けるから。黙らせるためには強いのがいるでしょ」
 
 君とか扇くんとか、と言って楽しそうに笑う漣を見てると止めるのもアホらしくなってくる。でも、そう言うとこも含めて好きだったんだと思う。
 惚れた弱みだよ、そうだよ。好きだった女に、背中任せられるのすげぇ嬉しくて理由も俺のためだって知ってめちゃくちゃに舞い上がってた。
 怪我するのは俺が弱いからだし、彼奴も気付きやしねぇのは腹立つけど、でもそれだけで喜ぶ俺も俺だったわ。今だったら多分力尽くででも止めてるし。
 
「喧嘩する理由は大抵お前らだよ。
 大事にしたい相手だし、側にいてほしい人達だから、守るのは当然でしょ」
「だからお前が怪我していい理由にはなねぇよ」
「あはは、そこは言い返せないなぁ……でも、まぁ、意外と君とか扇くんと馬鹿するのが楽しいって言うのもあるなぁ」
 
 嬉しそうに笑う漣を、なんで俺が止めなきゃいけないのかわからなかった。今でもそうだ、幸せそうに笑って漣がそこにいてくれるのならそれだけで俺も幸せだったんだよ。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリカ

喜島 塔
ミステリー
 藍浦ツバサ。21歳。都内の大学に通う普通の大学生。ただ、彼には、人を愛するという感情が抜け落ちていたかのように見えた。「エリカ」という女に出逢うまでは。ツバサがエリカと出逢ってから、彼にとっての「女」は「エリカ」だけとなった。エリカ以外の、生物学上の「女」など、すべて、この世からいなくなればいい、と思った。そんなふたりが辿り着く「愛」の終着駅とはいかに?

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

消された過去と消えた宝石

志波 連
ミステリー
大富豪斎藤雅也のコレクション、ピンクダイヤモンドのペンダント『女神の涙』が消えた。 刑事伊藤大吉と藤田建造は、現場検証を行うが手掛かりは出てこなかった。   後妻の小夜子は、心臓病により車椅子生活となった当主をよく支え、二人の仲は良い。 宝石コレクションの隠し場所は使用人たちも知らず、知っているのは当主と妻の小夜子だけ。 しかし夫の体を慮った妻は、この一年一度も外出をしていない事は確認できている。 しかも事件当日の朝、日課だったコレクションの確認を行った雅也によって、宝石はあったと証言されている。 最後の確認から盗難までの間に人の出入りは無く、使用人たちも徹底的に調べられたが何も出てこない。  消えた宝石はどこに? 手掛かりを掴めないまま街を彷徨っていた伊藤刑事は、偶然立ち寄った画廊で衝撃的な事実を発見し、斬新な仮説を立てる。 他サイトにも掲載しています。 R15は保険です。 表紙は写真ACの作品を使用しています。

憑代の柩

菱沼あゆ
ミステリー
「お前の顔は整形しておいた。今から、僕の婚約者となって、真犯人を探すんだ」  教会での爆破事件に巻き込まれ。  目が覚めたら、記憶喪失な上に、勝手に整形されていた『私』。 「何もかもお前のせいだ」  そう言う男に逆らえず、彼の婚約者となって、真犯人を探すが。  周りは怪しい人間と霊ばかり――。  ホラー&ミステリー

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

警狼ゲーム

如月いさみ
ミステリー
東大路将はIT業界に憧れながらも警察官の道へ入ることになり、警察学校へいくことになった。しかし、現在の警察はある組織からの人間に密かに浸食されており、その歯止めとして警察学校でその組織からの人間を更迭するために人狼ゲームを通してその人物を炙り出す計画が持ち上がっており、その実行に巻き込まれる。 警察と組織からの狼とが繰り広げる人狼ゲーム。それに翻弄されながら東大路将は狼を見抜くが……。

処理中です...