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第五章 大きな彼。前編
理由なんて、惚れた以外に必要ないだろ。男なら【彼視点】
しおりを挟む一度くらいは聞いとかないといけない、と思って聞いたことはあった。
「は?喧嘩する理由?」
「おう、お前すぐ怪我して帰ってくるじゃん」
見てらんないから、止めさせようとは思ったからまずは理由を聞いてみた。兄弟喧嘩を止めてくれた母親を思い出しながら似たような感じで。
でもまぁ、上手くいくないとは思ってたし漣にそれが聞くとも思わなかったから少し考えてからこちらを指差してくる漣になにも言えなかった。
「なんだよ」
「今回の喧嘩の理由はお前」
「は?」
俺が理由で、って思ったし本当にあほらしいと思ったけど目の前の自分よりも頭一個分以上小さくて細くて弱そうな女の真っ直ぐな瞳が少し苦手で思わず目を逸らした。
下から「こっち見ろ」と言われて漣を見れば満月がこちらをじっと睨んでいるからまた逃げ出したくなった。嫌いな訳じゃないし、寧ろ好きな目だから別に嫌とは思わないけど。
あ?さっきと言ってることが違うって……そりゃ、真っ直ぐ見られるのはあんま好きじゃねぇよ。でも、漣の目は綺麗だから好きだ。
「君が理由。
だって彼奴ら集団で君一人を潰そうとするんだぜ?許せないよ」
「……俺が、集団に負けると思ってんのかよ」
「思わないけどね」
君強いし。と疑うこともせずにいう漣はそのままキッチンの方へと進んでいく。毎日のように紫蘇ジュースを飲むのは多分日課だと思う。
爽やかだとかいうけど俺は苦手だよ、あれ。一緒に飲んでる竜騎の気もしれないけどでも、俺が嫌がってるの知ってても「一緒にのむ?」と勧めてくる彼奴は多分意地悪なんだと思う。
「俺が理由って言うなら俺の見えないとこでやれよ」
「一般人相手に月花さん達出すのは違うじゃん。
あと僕一人だと負けるから。黙らせるためには強いのがいるでしょ」
君とか扇くんとか、と言って楽しそうに笑う漣を見てると止めるのもアホらしくなってくる。でも、そう言うとこも含めて好きだったんだと思う。
惚れた弱みだよ、そうだよ。好きだった女に、背中任せられるのすげぇ嬉しくて理由も俺のためだって知ってめちゃくちゃに舞い上がってた。
怪我するのは俺が弱いからだし、彼奴も気付きやしねぇのは腹立つけど、でもそれだけで喜ぶ俺も俺だったわ。今だったら多分力尽くででも止めてるし。
「喧嘩する理由は大抵お前らだよ。
大事にしたい相手だし、側にいてほしい人達だから、守るのは当然でしょ」
「だからお前が怪我していい理由にはなねぇよ」
「あはは、そこは言い返せないなぁ……でも、まぁ、意外と君とか扇くんと馬鹿するのが楽しいって言うのもあるなぁ」
嬉しそうに笑う漣を、なんで俺が止めなきゃいけないのかわからなかった。今でもそうだ、幸せそうに笑って漣がそこにいてくれるのならそれだけで俺も幸せだったんだよ。
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