死んでしまった彼女が遺したモノも知らず。ただ私は、遺族の無念を晴らしたかった。

古町駒津

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第四章 マスクの彼の話。

外聞的な情報である。

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「は!?
 あのマスクのヤツ、あの扇財閥の跡取り息子なのか……!? 」
「そうみたいですよ~
 ま、ドラ息子って感じで両親との仲は最悪。おまけに事業を継ぐ気はないと断言して、今現在は家を出て一人暮らしで喫茶店で働いてるらしいです」
 
 世の中って不思議ぃ。と言いながら携帯の画面をじっと睨み付ける後輩の言葉を聞きながら俺はタバコの煙を吐いた。
 喫煙所にいるのは俺達二人だけで、休憩中だから文句を言いに来る奴もいないし文句を言われたところで仕事の話なのだから聞きつける暇もないわけではあるが。
 後輩のその情報はどうやらあの炯月さんからきたモノらしく。

「扇くん、土木業者の人と喋ったあの喫茶店で働いてるって」
「まじか……」
 
 話をつけると言ってくれたあの時に、彼の姿は見当たらなかったから休みだったのかもしれない。
 でも。それでもだ。
 彼がその店で働いていることくらい教えてくれてもよかったのではないだろうか?
 そうすればこちらから店長に理由を伝えて話をする機会を作ることだってできたわけだし、以前話をしたあの男だってそんな手間をわざわざかけてまでなぜこちらに紹介しようとするのか。
 
「まさか、実はあの男が犯人で炯月さんはそれを知っている……
 そして、口裏を合わせるために扇くんやもう一人の子を脅してる、とか……? 」
「推理ドラマの見過ぎじゃん……」
 
 呆れた声でそう言い放つ後輩に思わずコケそうになった。いや、そういう刑事ものやミステリー系のドラマを見ないこともないが、そういう考えに至っても当然なのでは?と思うのは俺だけか?
 
「そもそも、あの人のことも調べた上で結局事件と何も関係なかったってなったの覚えてないんですか?」
「いや、覚えてるけどなぁ……
 疑うのが性分、というか、まぁ仕事病だよなコレ」
「そんなんだから前付き合ってた人にもフラれるんだよ」
「テメェ、敬語どこやった」
「ははは!
 結婚とか、お付き合いとかそういう恋愛系に関しては俺の方が先輩なんで」
 
 ドヤ顔で携帯画面を見せてくる後輩のソレには奥さんと仲睦まじいツーショット写真があった。
 画面の隅に指が見えるから子どもが撮ってるんだろう、右にスワイプすればそこには奥さんと後輩、そして元気に笑うよく似た顔の少年二人が写っていた。
 奥さんの腹は膨らんでいて、なるほど最近の写真であることがすぐにわかる。
 
「あ?お前いつの間にコンタクトにしたの」
「あれ、言ってませんでした?
 あのメガネ、伊達なんですよ」
 
 ここ最近忙しくてつけてないですよ、とあっけらかんと言うコイツに思わず違和感を抱いた。
 
「伊達、だったんだ」
「そうですよぉ~
 最近はメガネもおしゃれアイテムなんだからぁ~、先輩ってそう言うとこもおじさんっぽいっスよね」
 
 だが、何が違うのかよくわからず、ケラケラと笑う後輩に「誰がおっさんだ」と軽く頭を叩いてやった。
 普段と変わりなく、悪態をついてくる後輩の態度に、未だ胸の中のモヤの晴れない感覚を覚えながら俺は小さくため息をこぼした。
 
「て、いうか。ですよ」
「は? 何だ、突然」
「その扇くんと話せるの今後その一回限りらしいですよ。
 彼、彼女の話は極力出したくないらしいって今炯月さんから来たんですけど」

 何だそれ、と言いながら思わず後輩の画面を睨みつければ確かにそれらしい内容を送ってきているし、なんなら無駄なスタンプの送り合いも見えたのは気のせいだろうか。

「今後一回限りって……非協力的すぎないか?」
「まぁ、話を聞くだけで別に強制的なわけじゃないですからね」
「まぁな……
 それで、いつになら行けるって?」
「四日後の夕方、十八時頃に炯月さんのレストランで」
「………あそこ高いんだが……」
「休日貸し出ししてくれるらしいですよ。
 お茶ぐらいならタダで出してくれるそうです」

 お言葉に甘えちゃいましょうよ、と微笑む後輩にそれは甘えすぎなのでは、と思った。いや、甘えすぎである。せめてお茶代ぐらいは出して帰ってやると意気込んで見せた。
 
 
 
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