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閑話休題 女の話

仕事が増えると、疲労で身体が重くなるのは歳のせい。

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「なんスか、ソレ」

 きもっちわり、と吐き捨てた後輩に自分自身も同意し顔が歪んだのがわかる。

「え、つまり被害者は昔の事件の加害者にわざわざ会いに行ってたってこと? え、マジでどういうこと?」

 そんな物好きいんのかよ、と口元を片手で隠す後輩の言葉には同意しかないしその行動原理は当人にしかわからないが彼女のソレはまったくもって理解不能である。

「知らねぇよ……
 兎に角、過去の事件も引っ張り出してヤツから話を聞かなきゃならなくなった」
「えぇ~……
 いや、俺は会ったことないからよく知らないんですけど、相当ヤバいヤツなんですよね?」

 会いたくないってマジで。と声を漏らす後輩を横目に、もっていたコーヒーを一気に飲み干した。コーヒー独特の苦味が口の中に広がるのを感じながらため息が漏れた。
 過去の時間を掘り起こしたくはないが、もしかすると奴には協力者がいて、自分のモノにできないとわかった彼女の殺害をそいつに依頼……

 なんて考えたところで頭を横に振った。
 そんなわけがない。テレビや漫画、ましてや小説の中のようなことが実際に起こるわけがない。いや、起こってたまるか、と思いながら空になった缶をゴミ箱に放り投げた。
 缶はゴミ箱を外れて中に置いてあったチリ紙捨て用の小さなゴミ箱に入ってしまった。隣に立つ後輩がバカにした様に「ノーコン先輩」と笑ってきたのは許し難い。

「まぁ、話を聞くには丁度良いかもしれないですね。
 被害者の過去に一番よく触れた相手って事を考えると。
 それで、その加害者ってどんな感じの人なんすか?」
「あ? あー……
 自称芸術家だな」
「出た。いるいる、犯罪者にありがちな"自称"芸術家」

 テレビや本の中じゃあるまいし、と言い捨てて彼は面倒臭そうにこちらを見て呆れた様なため息をこぼした。
 両手を頭の後ろに持っていった後輩はそのまま天井を見上げると、彼は「やっぱ話聞くのやめましょーよ」なんて今までらしくない事を言い放った。

「いや、会いたくない気持ちはわかるしなんなら昔、アイツの事情聴取した後に芸術について調べまくって美術館めっちゃ行ったわ」
「当時の彼女はそんな先輩が嫌になって別れたって事ですか?」
「適当な事を言うな」

 事あるごとにこうやって人の恋愛事情に口を出してくるコイツのこう言うところは本当に治してもらいたいと思う。
 取り敢えず、やることが増えたと言う事実に対して思わず二人揃ってため息が出てしまったのは言うまでもないことだろう。




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