死んでしまった彼女が遺したモノも知らず。ただ私は、遺族の無念を晴らしたかった。

古町駒津

文字の大きさ
上 下
19 / 57
第三章 黒い彼の話。

好みは人それぞれ。

しおりを挟む



 
 シャワーを浴び終えてリビングに戻れば後輩はレンジで温め終えた料理を皿に盛り付けていた。
 人様の台所を漁るな、と言いたいところだが正直腹が減っているのは事実である。
 
「悪いな」
「いえいえ~
 俺も料理スキルが抜群にあれば良かったんですけどねぇ」
「奥さん赤ん坊生まれるならそれ相応に練習しといたほうがいいぞ
 三人目で慣れてるからって調子乗ってると捨てられるからな」
「え、それは経験談か何かですか?」

 後輩の言葉に思わず言葉を失ってしまった。
 俺の様子を見て後輩は「マジかよ」と笑いもしない。笑え。一層のこと笑ってくれたほうがまだマシだわこの野朗。
 笑いもしない後輩はコンビニのおにぎりを机におくなり「好きなの選んでください」というが、お前全部昆布って、選ばせるつもりないだろ。
 睨みつけつつもおにぎりを手に取ってから時計を見た。まだ六時にもなっていない。
 
「なんでこんな朝早くからお前の顔なんて見なきゃなんねぇんだよ……」
「そりゃ、今日は炯月さんから紹介してもらった男性に話を聞きに行く日なんでね」
 
 一瞬沈黙が流れた。
 
「………は?」
 
 後輩の言葉がどうしても理解できなくて思わず漏れ出た言葉に後輩は不思議そうにこちらを見てきた。
 
「あれ、この間いったじゃないですか。
 今日十時から、炯月さんと一緒に居候してたって言う男性と話が出来るように予定組んでもらったって」
「……そんな、話……」
 
 したか?いや、したな。四徹した仮眠室での会話だったと思うが、いや嘘だろ、今思い出してしまった。
 頭を抱えて急いで携帯を取り出した。
 
「予定に組み込んでた……」
「え、先輩。この予定だとあんた起きるの九時過ぎだったんですか……」
 
 呆れた声でそう言い放つ後輩に思わず胸が抉られた気がした。
 頼むからそんな目で見てくれるな、と思っていれば深いため息を吐かれてしまった。
 いや、疲れていたからって忘れてたわけじゃない、いや忘れてたけどそれでもアラーム設定もかけてたしカレンダー機能にも書き込んでいたのはまだマシだろ
 世の中じゃそんなこともせずに完璧に忘れてドタキャンしやがる奴がいるのも事実なんだから俺はまだマシな方だ。
 
 呆れ顔でこちらを見る後輩から視線を外しながらおにぎりを頬張った。
 
「まぁ、意外と起きてたんで許します。
 これで別の予定入れてたりしたら俺マジで怒ってましたからね」
「よかった、ちゃんと入れてて……」
 
 心底安心した。
 こいつが怒るとまるで母親のような説教が始まるから嫌なんだ、と誰かが言っていた気がする。それが誰だったかは覚えてないが、それでもドタキャンなんて最悪なことにならなくて本当によかったと思う。
 レンジから容器を取り出した後輩は「あちち」とか言いながらそれをテーブルにおいて椅子に腰掛けた。
 
「お、スープじゃん」
「どっちがいいですか?」
「ミートスープでいい。こっちのが美味そう」
 
 そう言って後輩が机においたスープの入った容器をこちらに引き寄せた。
 コンソメの良い香りが心地良くて、思わず腹の虫が鳴ったような気がする。
 
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】Amnesia(アムネシア)~カフェ「時遊館」に現れた美しい青年は記憶を失っていた~

紫紺
ミステリー
郊外の人気カフェ、『時游館』のマスター航留は、ある日美しい青年と出会う。彼は自分が誰かも全て忘れてしまう記憶喪失を患っていた。 行きがかり上、面倒を見ることになったのが……。 ※「Amnesia」は医学用語で、一般的には「記憶喪失」のことを指します。

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

懐いてた年下の女の子が三年空けると口が悪くなってた話

六剣
恋愛
社会人の鳳健吾(おおとりけんご)と高校生の鮫島凛香(さめじまりんか)はアパートのお隣同士だった。 兄貴気質であるケンゴはシングルマザーで常に働きに出ているリンカの母親に代わってよく彼女の面倒を見ていた。 リンカが中学生になった頃、ケンゴは海外に転勤してしまい、三年の月日が流れる。 三年ぶりに日本のアパートに戻って来たケンゴに対してリンカは、 「なんだ。帰ってきたんだ」 と、嫌悪な様子で接するのだった。

翡翠少年は謎を解かない

にしのムラサキ
ミステリー
その少年は謎を解かない。 真実になんか、興味がないから。 古い洋館に従姉と住む、翡翠の目をした少年。学校にも通わず、洋館で絵を描き続ける彼は、従姉の世界を守るために嘘をつく。 夏のある日、従姉と訪れたとある島、そこにある浮世絵コレクターの屋敷で死体が発見される。 "真実"に気づいた少年は、従姉を守るために嘘をつくことを決めた。 【第二回ホラー・ミステリー大賞】で特別賞をいただきました。ありがとうございました。 エブリスタ にて加筆修正したものを掲載中です。 https://estar.jp/novels/25571575

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

大ばあばの秘密、解読します。

端木 子恭
ミステリー
 シーナの大ばあばが亡くなった。  遺品整理中に出てきた古いノートには「殺害計画」が。  これは大ばあばの空想? それとも実行したの?  ミス研のユズに頼んでノートを解読してもらううち、ターゲットはキヨさんという幼馴染だと判明する。  大ばあば・柑奈の過去を訪ね、謎を解いていく二人。    中学生ふたりで紐解く、家族の「秘密」は……?

処理中です...