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第三章 黒い彼の話。
好みは人それぞれ。
しおりを挟むシャワーを浴び終えてリビングに戻れば後輩はレンジで温め終えた料理を皿に盛り付けていた。
人様の台所を漁るな、と言いたいところだが正直腹が減っているのは事実である。
「悪いな」
「いえいえ~
俺も料理スキルが抜群にあれば良かったんですけどねぇ」
「奥さん赤ん坊生まれるならそれ相応に練習しといたほうがいいぞ
三人目で慣れてるからって調子乗ってると捨てられるからな」
「え、それは経験談か何かですか?」
後輩の言葉に思わず言葉を失ってしまった。
俺の様子を見て後輩は「マジかよ」と笑いもしない。笑え。一層のこと笑ってくれたほうがまだマシだわこの野朗。
笑いもしない後輩はコンビニのおにぎりを机におくなり「好きなの選んでください」というが、お前全部昆布って、選ばせるつもりないだろ。
睨みつけつつもおにぎりを手に取ってから時計を見た。まだ六時にもなっていない。
「なんでこんな朝早くからお前の顔なんて見なきゃなんねぇんだよ……」
「そりゃ、今日は炯月さんから紹介してもらった男性に話を聞きに行く日なんでね」
一瞬沈黙が流れた。
「………は?」
後輩の言葉がどうしても理解できなくて思わず漏れ出た言葉に後輩は不思議そうにこちらを見てきた。
「あれ、この間いったじゃないですか。
今日十時から、炯月さんと一緒に居候してたって言う男性と話が出来るように予定組んでもらったって」
「……そんな、話……」
したか?いや、したな。四徹した仮眠室での会話だったと思うが、いや嘘だろ、今思い出してしまった。
頭を抱えて急いで携帯を取り出した。
「予定に組み込んでた……」
「え、先輩。この予定だとあんた起きるの九時過ぎだったんですか……」
呆れた声でそう言い放つ後輩に思わず胸が抉られた気がした。
頼むからそんな目で見てくれるな、と思っていれば深いため息を吐かれてしまった。
いや、疲れていたからって忘れてたわけじゃない、いや忘れてたけどそれでもアラーム設定もかけてたしカレンダー機能にも書き込んでいたのはまだマシだろ
世の中じゃそんなこともせずに完璧に忘れてドタキャンしやがる奴がいるのも事実なんだから俺はまだマシな方だ。
呆れ顔でこちらを見る後輩から視線を外しながらおにぎりを頬張った。
「まぁ、意外と起きてたんで許します。
これで別の予定入れてたりしたら俺マジで怒ってましたからね」
「よかった、ちゃんと入れてて……」
心底安心した。
こいつが怒るとまるで母親のような説教が始まるから嫌なんだ、と誰かが言っていた気がする。それが誰だったかは覚えてないが、それでもドタキャンなんて最悪なことにならなくて本当によかったと思う。
レンジから容器を取り出した後輩は「あちち」とか言いながらそれをテーブルにおいて椅子に腰掛けた。
「お、スープじゃん」
「どっちがいいですか?」
「ミートスープでいい。こっちのが美味そう」
そう言って後輩が机においたスープの入った容器をこちらに引き寄せた。
コンソメの良い香りが心地良くて、思わず腹の虫が鳴ったような気がする。
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