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第三章 黒い彼の話。

俺の趣味では、ない。

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「せんぱーーい!
 おはよーございまーす」
 
 早朝五時。
 騒がしいインターホンで起き、玄関を明ければそこにはコンビニの袋を持った後輩がそこにいた。
 鬱陶しい、という感情でいっぱいいっぱいだったのだが、後輩は不躾にも俺の言葉を聞かずに「お邪魔します」と言うなり家の中に入っていった。
 久方ぶりの休日を、ゆっくり過ごさせて貰いたいのだが。
 
「飯まだっすよね?
 ここ来る前に近所のコンビニ寄ってきたんで軽く作りますねぇ」
「お前も休暇だろ、家族サービスしろよ」
「奥さんは女友達と旅行ですよ。
 子ども達はこの休みを使って俺の実家に遊びに行ってんすよ」
 
 俺一人で寂しんです、と笑いながら平然とした顔でリビングの方へと入っていきやがった。
 此奴、他人の家でこんな堂々できるやつだったか?いや、出来るやつだわ。そう言うやつだったよ、お前って男は。
 一人玄関でため息を漏らせば背筋が震えた。
 寒い風が入ってくるからか、わからないが取り敢えず扉を閉めた。
 まだ少し震える体に、見なくてもわかるくらい鳥肌が立っている腕を摩りながらリビングへと向かう。
 
「先輩ん家ってレンジ備え付けなんすね!」
「あんま金、普段から使わないから家具とかに金注いでんだよ」
「え、部屋にレコードって超ミスマッチじゃん……」
「おいこら、後輩」
 
 敬語を使え、敬語を。
 リビングのど真ん中においたローテーブルの上にちょこんと乗っかっているレコードプレイヤーを見てなんとも言えない表情をしている後輩を殴り飛ばしてやりたい。
 あのレコードプレイヤーとラジオは祖父から譲り受けたもので本当に古いが、ラジオは今現在のものをちゃんと聞けるし、プレイヤーだって綺麗な音で曲を聞ける。
 なんなら実家には蓄音器があるぞ?とは言ってやらない。馬鹿にされそうだからな。
 
「まぁいいや。キッチン借りますね」
「まぁいいやってお前な……
 何作るんだよ」
「え、レンジでチンするやつです。
 俺が料理できるのなんてスクランブルエッグかミートスパぐらいっすよ」
 
 後はおでん。と言って容器をレンジに入れてレンジのスイッチを入れた。
 自由というか、適当というか。本当に後輩と一緒にいるだけでため息が出てしまう。
 風呂に入るとだけ言い残して、後輩の軽装を見てから着替え用の服を自室のクローゼットから選ぶ。
 別になんだっていいだろう。春先だから薄手の長袖とパーカーとジーンズと、なんて適当だが爽やかな組み合わせだろう。ちなみにこの服を選んだのは元カノだ。俺の趣味じゃない。
 
 
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