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第二章 白い彼の話。
年相応の笑顔ってのを、その時初めて見たよ【彼視点】
しおりを挟むあの子にはお兄さんがいたんだ。
俺は、あの家にいて一度もあったことがないけれども。
「母親に縋って、依存して、自分を母親だと言い曰っていた阿呆だけれども」
「それってどう言う?」
あの子は、兄について言及されると酷く顔を顰めていたけど、その日は丁度機嫌が良かったのか、俺が作ったハンバーグを珍しく食べながら口を開いてくれた。
「父親によく似た兄貴で、随分と利己的な男だったよ」
「だった、て……今は違うの?」
「知らない。
突然、今日から私がお母さんとか言って家を飛び出していったっきり帰ってないから」
弟くんとは連絡がついているらしいのは知っていた。
度々弟くんの方からそういう存在がいるのも聞いていたから、今更驚くこともないのだが彼女の口から家族の話が出たのが初めてで幾分か興味を抱いていた。
「どう言うお兄さんだったの」
「どういうって言ったって、あの人は僕のこと嫌いだったからなぁ。
僕に対しては怒ってるってイメージしかないな。弟にはめちゃくちゃ優しかったんじゃない?」
「随分適当だなぁ」
「適当じゃないつもりだけど」
その時は、本当に適当なんだと思った。
今から考えると、あいつは本気で微塵たりとも親兄弟に対する関心というものがなかったんだと思う。
「帰ってきても、弟がいるときにしかこないからね。
あの時から変わってないなら、見た目は綺麗な方なんじゃないの。
あの人も、僕と一緒で母さんに似てたらしいし」
目を細めてそんなことをいうあの子が、その時何を考えていたのかなんてわからないけど、本当にこの日ほど機嫌が良い日なんてないと俺は思ったね。
「あの兄貴は、人を殴るのが趣味だからなぁ。
人と上手くやれてるのかねぇ。あ、あの人なんかバーやってるらしいよ」
「弟くん情報だろ、俺も聞いたよ。
それにしても今日は随分とご機嫌だね」
「そう見える?あはは、そうだね。今日はご機嫌だ」
にこにこと笑うあの子のその言葉には酷く驚かされたけど、それでも良い方だと思ったよ。
あの子は俺の肉料理は滅多に食べてくれなかったから、その日ほど嬉しいと思った日はないよ。
肉は大好物なんだ、だからこそ無駄なく処理してあげたいと思うしね。腐らせてしまうなんて食材に申し訳ないと思わない?
俺は思うよ、だからこそ無駄にならない日ほど俺の機嫌が良い日はないと思ったね。
「でも、そのお兄さんといつも言っている兄さんは別物だろ。どうして、彼を兄さんだなんて呼ぶんだ?」
「………さぁ、なんでだったかなぁ。
でも、まぁあの人が僕の兄だったならどれだけ幸せなことか……
あの人に、****事こそが僕の幸福だからねぇ」
幸福げに微笑んだ彼女が、見せた首元の痕が彼女に何があったのかを物語っていたよ。
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