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第零章 序章。
死なば、諸共。
しおりを挟む女子高生が死んだ。
なんて事ない、普通の女子高生だ。
ただの病死である。
そう、言いたいところだった。だが、事実はそう上手くはいかない。
絞殺だった。
病院関係者からの通報で分かった。
首に残った痕は痛々しいが、抵抗した様子はなく彼女も安らかに眠っていた。
余命も残すところ数週間というところでの殺人。
計画された様な、その綺麗な手口と証拠一つさえ残さないその美しさに思わず刑事一同思わず称賛する声が上がっていた。
無論、上司に説教させられたがそれでもその遺体の在り方は異常なまでに美しかった。
普通、絞殺するのに彼女に跨がるなり、なんなりあるだろうがそれがない。
まるで、彼女の死際を弔う様にとても美しく飾り立てられる様に。
それはもう彼女は眠っている様で本当に通報が冗談なのではと疑ったくらいだ。
彼女の死が事実であるのはそれはもう明白だ。
彼女の死は、それでも誰もが予想していたらしい。
彼女の弟も、友人も絞殺であることを伝えるなり「あぁ、やっぱり。」と言って静かに泣いていた。
それは安堵や、絶望や、羨望や、悲しみや、寂しさ。
各々にその含まれる感情は違うだろうがそれでも彼らは、彼女が死ぬというその事実を簡単に受け止めた。
それが他殺であるにも関わらず、誰もその犯人について言及も、恨み言も吐き捨てなかった。
他殺であるはずなのに、誰一人として被害について何も聞かなかった。
ただ唯一、父親だけは最後にやってきて、
「娘を殺した犯人を、殺してでも引き摺り出してくれ」
そう言ったのだ。
その言葉を聞いて彼こそまともだと思っていた。
だが、その死について何か知っているであろう友人達や弟は何一つとして犯人について知っているとは言わなかった。
彼女が殺される事を望んでいたことは誰しもが知っていたがそれは彼女なりの冗談だと思っていたと。
彼女が”誰か”に殺される事を望んでいたのは知っていたが、その”誰か”とは誰なのかは彼女自身も人前で滅多に口にしない。
いや、した事は一度でもないというのだ。
そんなことがあるのか、望んで殺されるなんて。
まるで、彼女は自分が病死することが分かっていたかの様に、殺される事を永遠に望んでいたと?
彼女は、自分が苦しんで死ぬ思いをしたくないから誰かに殺されたと?
そんなことがあってたまるか。
病死であっても、彼女が殺されて喜ぶわけがない。
「そう思い込んでいるのは、あなた方だけでしょう。」
冷たい眼差しの弟の言葉に理解が追いつかなくなった。
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