【R18/BL/完結】エンドライン/スタートライン

ちの

文字の大きさ
上 下
9 / 25
第一部

エンドライン 8

しおりを挟む
 こんなに自分を見失ったのは、初めてかもしれない。
 とても馬鹿なことをしていると自覚していた。
 キスをして抱きついて、俺は西川を家に連れ込んだ。西川はなにも話すことなくついてきて、俺が服を脱ぎ始めるのを見るとやっと身体に触りはじめた。
 
「どんだけ中出ししてんの。ゴムつけろって、ちゃんと後輩を指導してやれよな」

 すんなり指二本を受け入れた尻の中を確認して、西川の眉が上がった。駅の階段で交わした会話は冗談だと思っていたんだろうか。つい数時間前まで染谷にさんざん抱かれた俺の体は相当疲れているのか、素直に指は受け入れたが西川の愛撫にあまり反応しなかった。ずっと萎えたままの俺を気にしたのか、入れた指でいいところばかりを探るように出し入れしている。

「……お前に関係ない」

「まぁ、そうだけど、」

 ぴたり、と西川の動きが止まって指を抜かれた。西川は下を脱ごうとベルトに手をかける。
 少しずつ高められていた俺は、中断した動きがもどかしくて起き上がって西川の股間へ近づき、下着の中へ直接手を差し込んだ。少し扱くとみるみる立ち上がっていく。上向きに固くなったそれを取り出して、上目遣いに西川を見る。

「咥えてやろうか?」

「……それは、光栄で、」

 西川は苦笑しながら、下を脱ぎきってベッドの上で胡座をかいた。
 俺は膝立ちになり、西川のそれを下から舐め上げる。反り始めたものを何度も下から上へ舌を動かしてから、先端に何度か吸い付いた。西川が感じた声を出しながら、俺の首の後ろを触る。唇と口の内側で激しく扱いてやると、西川は堪らないようで先走りがあふれてくる。俺はなるべく舐めとるように徹したが、それでも口端からこぼれ出る唾液とその液体のせいで麻薬のような音が部屋内に響いてしまう。西川が俺の首を掴む手に力が入ったのがわかって、根元を上下する手の速度を上げた。そして一番奥まで咥え込む。

「待って、そんなにしたら出ちゃう、」

 髪の毛を掴まれて強引にそれから離れさせられる。西川は荒い息を落ち着かせるのに必死のようだ。俺は頭だけ上向かせられたまま再度手を伸ばし、強く西川の陰茎を握り込んだ。

「出せよ」

 もう限界だろ。と右手で最後まで追い上げると、西川はぶるっと震えて白濁を吐き出した。熱く粘り気のあるそれが出ききるまで、手を止めずにゆっくり上下させる。上のほうで少しきゅっと締め上げると、また西川の肌が震えた。はぁはぁと息を吐いて、西川が余裕のない表情を見せる。

「……元気なかったのに、トキは俺のイくとこ見ると勃つの?……やらしぃなぁ…」

 俺の立ち始めた股間を見て、西川は軽く笑い腰に腕を回した。押し倒して上に覆いかぶさる。

『浮気の誘いだなんて驚いた。でも、おもしろそーだからいいよ』

 駅のホームで。抱きついて持ちかけた話に、西川はあっさり同意した。
 俺は本人を前にして普通にいられるか不安だったが、ことが始まると過去の日常が思い起こされて自分でも驚くほど大胆になっていた。

「ほんとに最後までやる?」

 西川が俺の足を広げながら聞いてきた。自分でも陰茎を擦り準備をしながら、そんなことを聞いてくるのだ。
 薬のおかげで悪寒と関節の痛みは緩和したが、まだ鳩尾あたりはキリキリする。それでも追い詰められるような、神経がすり減るような痛みは少しマシになっていた。
 俺は早く抱いて欲しくて仕方がなかった。だから西川が俺を気遣ったり、心配したりする言動が煩わしい。
 俺が誘って、お前は了承したのに。
 なぜ今更聞いてくるのかわからない。
 俺は全て曝け出して身体を差し出しているのに、これ以上なにを吐き出せというのだろうか。
 お前もほかに、相手がいるくせに。

「染谷は、ずっとお前に嫉妬してんだよ」

「そりゃ、彼氏がほかの男と浮気してりゃーね、」

「俺が、西川のことが好きだから」

 俺の太ももに手を這わせてもう一度指を入れようとしていた西川の視線が、ゆっくりあがってくる。揶揄するように意地の悪い笑みを浮かべることはできていただろうか。得体の知れない俺の顔を見て、こいつは一体何を思うだろう。

「染谷がそう言うんだ、笑えるだろ、」

「……」

「まさか、って。言ってやったよ、」

 乾いた笑いが出る。 
 実際本気で戯れ言だった。
 なぁ、西川。
 そんなことあるわけないだろうって言えよ。
 お前も俺のように笑えよ。

 西川は黙ったままなにも言わなかった。表情も変えなかった。ただ、俺の目を真剣に見つめるだけだった。
 
「トキはさ、女抱いたことある?」

「ねぇよ」

「俺はリエで二回目。女の体って、全然ちげーの、」

 足の付け根から手が離れて、大きな両手が胸を押さえる。快感を高める触り方ではなかった。骨格を、筋肉を確かめるような、そんな撫で方だった。

「胸はまぁ、サイズは人によるけど、乳首も結構厚いし大きいんだぜ。肌もなんかモチモチして、ぷよぷよして、やわらかいし」

「だから、何」

 淡淡あわあわと語る西川の目的がわからなかった。聞いても答える気はないのか、手を下へ滑らせながらなおも自ら見てきた女の体を説明し続ける。


「股に手をいれると恥ずかしいって嫌がるんだけどさ、女はここが一番気持ちいいからすぐ開くんだよ。胸揉んだだけで濡れてるし、匂いもさ、精液と違って独特のやつがあんの。男と違って触れば触るだけ濡れて、簡単に入る」

「……うるさい、」

 そんな話、聞きたくない。
 男と女の違いなんてわかってるさ。
 俺には胸はないし、体は固いし、あそこが濡れるわけない。
 なにが、言いたい?
 俺にそんな話をしてなにが言いたい?

「で、まぁ喘ぎ方もすごいの。AV顔負け。中はうねうねしてるし気持ちいいけど……」

「やめろよ!」

 途中で耐えきれなくて声を荒げた。西川は真顔で首をかしげている。いつの間にか指で入り口を広げられていた。

「なんだよ……それ……」

「何って、トキ女抱いたことないんでしょ?どんなんか教えてあげよーと思って」

 言いながら尻の入り口に擦り付けられたとき、俺は身体を捩らせて西川の胸を思い切り蹴った。
 不意打ちの打撃に西川の上体が揺らいで傾いた。その間に俺はベッドから降りて床に散らばった服を引き寄せる。

「いっつー…もろ、入った」

 西川は胸に手を当てて顔を顰める。なんで拒否されたのかわからない、という顔で俺を見た。

「断らなかったのは、こうして馬鹿にするためかよ、」

 虚しいのはそれじゃない。

「同情したのか?お前が俺を抱いたりしたから、俺がまた男と付き合ってんだって、女とセックスできないんだって、だから責任でもとるかって?冗談じゃねーよ、俺はお情けがほしくてこんなことしてんじゃねーよ!」

 夢の意味を知りたくて。
 もう一度会えばわかるかもしれないと。
 そんな淡い期待を持ってしまった自分が情けない。どうしようもない。
 救いようが、ない。

「トキは、さ。戻りたいの?」

 戻る?
 なにに?
 あの頃に?
 あの時の二人に?

 服を掴んだ手がぶるぶる震える。西川の問いに対する答えを整理できないでいる。
 二人でいたときの思い出ばかりがぐるぐると頭に沸いてくる。まるで夢をみているときのように、いくつも、いくつも出てくる。
 その中の西川が現実の、ベッドの上の西川に重なったとき、不思議なものが込み上げてきた。
 西川がはっとしたように顔を歪める。でもそれは目から流れてくるもののせいかもしれない。ゆらゆらと滲む視界の先では、本当は呆れた、疲れた顔だったかもしれなかった。

「帰るよ」

 言って西川は服を着て部屋を出ていった。
 俺は裸のままへたり込んだ。
 シーツにどんどん染みができる。
 止めたくても止められなかった。
 頭と腹がジンジンと痛い。

 一番欲しいと思ったもの。
 でも欲しいと言えずに胸のうちに留めたもの。

 でもそれはもう、俺の手には戻ってこない。







 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

獣人将軍のヒモ

kouta
BL
巻き込まれて異世界移転した高校生が異世界でお金持ちの獣人に飼われて幸せになるお話 ※ムーンライトノベルにも投稿しています

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

モブなのに執着系ヤンデレ美形の友達にいつの間にか、なってしまっていた

マルン円
BL
執着系ヤンデレ美形×鈍感平凡主人公。全4話のサクッと読めるBL短編です(タイトルを変えました)。 主人公は妹がしていた乙女ゲームの世界に転生し、今はロニーとして地味な高校生活を送っている。内気なロニーが気軽に学校で話せる友達は同級生のエドだけで、ロニーとエドはいっしょにいることが多かった。 しかし、ロニーはある日、髪をばっさり切ってイメチェンしたエドを見て、エドがヒロインに執着しまくるメインキャラの一人だったことを思い出す。 平凡な生活を送りたいロニーは、これからヒロインのことを好きになるであろうエドとは距離を置こうと決意する。 タイトルを変えました。 前のタイトルは、「モブなのに、いつのまにかヒロインに執着しまくるキャラの友達になってしまっていた」です。 急に変えてしまい、すみません。  

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

処理中です...