【BL/短編】赤に酔う。

ちの

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水島誠二からの手紙

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1990年11月29日
水島誠二からの手紙


高碕たかさき、すまない。君とは最後にきちんと会って話がしたかった。いや、もっと早いうちに話しておかなければならないことだった。でも、もう会える時間がない。僕の予想を超えて、事態は深刻になっていってしまった。だから君には知っていてほしい。僕の弟のことを。

僕に五歳下の弟がいることは伝えていたよね。
君が家に初めて来たときに会っている。大樹たいきという。

中学生の時。当時、僕はよく男友達を家に連れて来ては自室で遊んでいた。親の出かけていた日だ。大樹が混じろうと部屋に入ってきて、みんなでプロレスのわざの掛け合いをしていた。僕が他の子と組み合っているときに、突然大樹は切れた。僕の上に馬乗りになった友達にグラスを持って殴りかかり、その子は血を流して倒れた。幸い大事には至らなかったが、大樹はそのことをほとんど覚えていない。それがきっかけだったんだと思う。以来、友達を家に呼ぶと、大樹は奇声をあげて家じゅうを走り回ったり、物を壊したりした。僕が男友達を連れてくると必ずだった。最初、それは弟の一種の独占欲だと思っていた。心配するといけないと思い、母親には秘密にしていた。

今となってはそれが一番いけなかった。隠さなければよかった。自分のせいだと正直に告白出来ていれば、こんなことにはならなかったのではないか。僕はそれが悔いられて仕方がない。

結果、君の思いにはこたえられそうにない。

僕はひどい人間だ。弟を追い詰めたのも僕だ。

僕は自分の性的満足のために弟を利用した。おんなの代わりをさせた。まだ10歳の大樹を犯し、言いなりになるのを楽しんだんだ。ストレスだった。母親は弟にばかり構って、僕には受験受験とうるさく言うだけだった。求められる人間像を演じ続けるのに疲れていた。もううんざりだった。そのはけ口に利用したんだ。だから、その報いが今返ってきたのだと、切実に受け止めている。僕は裁かれてしかるべきだ。

大樹は僕に求められるまま体を許していくうちに、いつしか性的興奮を男にしか抱かなくなってしまった。同時に僕しか見なくなっていった。僕を愛する対象として、愛すべき人間としてしかみれなくなった。傍目にはそっけない態度に見えても、大樹は僕しか見ていなかった。

僕には責任がある。

大樹をこのような状態にしてしまった責任、彼のまっとうな人生を奪ってしまった責任だ。

それは命にかえても償わなければならないものだと僕は感じている。

大樹を殺人者にはしたくない。

僕が弟にできる最初で最後の償いをしようと思うんだ。

君にはいろいろ相談に乗ってもらったのに、そのお礼をきちんと言えないままで本当にすまない。君の気持は素直にうれしかった。幸せだったよ。そう感じることができただけでよかった。ありがとう。

だから最後に、君に頼みがある。

僕の自殺が報道されてしばらくしたら、この手紙を警察に提出してほしい。僕の第一発見者はおそらく弟になる。大樹に殺人の容疑がかけられていたら意味がないんだ。

今度こそ、大樹には自由になってほしい。

いつかまた、どこかで会えたら、その時は



※手紙の最後に破ったあとあり。高崎によるものと見える。破れた先は行方不明。しかし文脈には違和感なく、偽装したような痕跡はなし。




おわり
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