MOMO

百はな

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第6章 Merry Xmas

79.晶I

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10月19日 PM20:35

六郎がSV650を止めた先は、古びた洋風の外装の喫茶店の前だった。

店の名前は『ぷしゅーる』、黒板のメニューには自家製プリンがオススメと書かれている。

「本当にここにいるのかしら…って、居たわ」

店内を覗ける窓から、先に到着していた槙島ネネの姿を見つけた。

六郎は店のドアを開け、女性のウェイトレスの声掛けに「待ち合わせ」と答える。

「かしこまりました。もしかして、あちらのお客様とですか?」

「そうそう」

そう言って、六郎は一番奥の席に座る槙島ネネの元まで歩き出す。

足音に気付いた槙島ネネは、吸っていた煙草を灰皿に押し当てる。

「どうも」

「アンタと2人でお茶するとはね?」

「お飲み物はどうなされますか?」

槙島ネネと六郎の短い会話が終わると、女性のウェイトレスが注文を伺う。

「あ、私はアイスカフェオレで。あと、こっちにはホットコーヒーのおかわりをお願い」

「かしこまりました」

女性のウェイトレスが去った事を確認してから、六郎は本題を切り出す。

「それで、どう言う事なの?リンちゃんは精神的ショックによる記憶喪失じゃないの?芦間啓成と過ごした時間の事を、一郎と過ごしたと錯覚してるだけ?」

「リンちゃん、何か薬を飲んでいませんか」

「薬?あぁ…、それなら飲んでるけど…。リンちゃんは喘息の薬だって。闇医者の爺さんから芦間啓成が定期的に購入していたって、嘉助から聞いたけど」

その言葉を聞いた槙島ネネの眉間に皺が寄る。

「やっぱり、アイツ歯止めが効かなくなってる。本気で、あの薬を作っていたとは…」

「は、は?どう言う事。薬を作ったって…」

「お待たせいたしました」

コトッ、コトッ。

六郎の最後の言葉を遮るように、女性のウェイトレスが注文した品をテーブルに置いて行く。

女性のウェイトレスはすぐに、六郎達のテーブルを離れた。

槙島ネネは新たな煙草を咥えながら話を続ける。

「リンちゃんは喘息持ちなんかじゃありません。あれ
は特殊な薬です」

「薬物とかの類じゃないでしょうね」

「中毒性のある薬じゃありませんよ。Jewelry Pupilの力を浄化し、消滅させる薬と言いましょうか。Jewelry Pupilを本当に、この世から消そうとしています」

そう言って槙島ネネは煙草に火を付け、煙を天井に向かって吐く。

「Jewelry Pupilを消す?そんな事が…、あ…」

六郎が言葉を言い終わる直前、脳裏にJewelry Pupilの持つ不思議な能力を思い出す。

双葉のJewelry Wordsの能力を間近で見た時の事を。

「黒水晶のモリオンと言う石をご存じで?」

「モリオン?あの厄除けとか言われてる黒い石でしょ?」

「奴はモリオンのJewelry Pupilを持つ老婦人から、Jewelry Pupilを抜き取り、薬の材料に使ったんでしょう。リンちゃんの記憶障害は、薬物性健忘(やくぶつせいけんぼう)の症状だと思います」

槙島ネネはコーヒーを啜りながら、少し長めに話をした。

*薬物性健忘 薬物によって引き起こされる記憶喪失である。この症状は主に、アルコールや精神疾患の治療薬として使われるベンゾジアゼピンによる副作用によって引き起こされる場合があり、医療行為の結果として発生することもある。また、遅効性がある非経口投与型の全身麻酔薬によっても引き起こされる可能性がある*

六郎がこめかみを抑えながら、唸るように声を出す。

「薬物性って…、あの薬は薬物と同じ成分が入ってるって事?だから、リンちゃんは記憶障害になっちゃったって事?」

槙島ネネは鞄の中から透明のファイルを取り出し、1枚の紙を六郎の前に出す。

書かれていたのは、ゴールデンタイムと言う薬名と成分表であった。

ベンゾジアゼピン、モリオンのJewelry Pupilの粉末状の諸々。

「ベンゾジアゼピンによる副作用で、リンちゃんは記憶障害を起こしているんだと思います。嘉助はリンちゃんを実験体にして、薬の成果を見たいんでしょう」

「リンちゃんをそんな事の為に…?芦間啓成の事を忘れちゃったって事なの…。嘉助は椿と同じように薬を作ったのね」

「ある意味、あの2人は似ていますよ。自分の目的を達成させる為なら手段を選ばない。あの人、本当に悪魔に魂を売っちゃったみたいです」

「アンタはどうして嘉助に協力してんの?同じ目的だから?」

六郎の言葉を聞いた槙島ネネは窓の外に視線を向けた。

窓に雨粒が激しくぶつかり、雨音が店内に響き渡る。

「さぁ、分からなくなりました。だけど、もう戻る事は出来ない所まで堕ちてしまいましたから。引き返す事は出来ません」

「重苦しい関係ね。この書類、貰って行くわ。リンちゃんの今後に関わる事だもの」

「えぇ、構いませんよ。どうぞ、ご自由に持ち帰って下さい」

「アンタの馬鹿丁寧な喋り方は何?それが癖になってんの?」

呆れた表情を見せながら、六郎は槙島ネネの顔を見つめる。

「まぁ、社会人ですしね。こっちの話し方が長く染み込んでいるので、治る事はなさそうです」

「あっそう。リンちゃんが心配だし、私はお先に行くわ。ここのお代は払っておくから、ゆっくりしていったら?」

「そうですね…。じゃあ、お言葉に甘えて」

六郎はテーブルに置かれていた番号札を手に取り、颯爽とレジに向かって行った。

会計を終わらせた六郎は槙島ネネに手を振った後、店を出てSV650に跨る。

去り行く六郎の姿を見ながら、槙島ネネは晶の事を思い出した。

彼女に植え付けたトラウマを。


CASE 槙島ネネ 

私が7歳の頃、隣の空き家に新たな住人達がやって来た。

「今日、隣に引っ越して来た鹿野(かのう)です。これ、つまらない物ですが…」

凄く美人な女の人は、私のお母さんに美味しそうなメロンの入った箱を差し出す。

私のお母さんとは違って、体は細くて整った顔。

モデルさんみたいに背の高い女の人。

私のお母さんはパンダみたいに太っていて、お世辞にも綺麗とは言えない顔立ち。

ご飯を美味しそうに食べる姿だけが褒められる所だ。

「わざわざ、ありがとうございます。そちらは…、お子さんですか?あらあらぁ、すっごぉく美人さんですねぇ」

お母さんはそう言って、美人なお姉さんの後ろにいる女の子に目を向ける。

私と同じ歳ぐらいの女の子。

目尻が吊り上がった目は子猫みたいで、ぴょんぴょんと跳ねている癖毛も、雪を食べたみたいに白い肌も可愛い。

「はい、そうなんです。晶、ご挨拶は?」

「晶…です、よろしくお願いします」

私よりも少し低い声、こんな可愛らしい見た目からは想像出来ない。

「あらあらぁ、ご挨拶ありがとう。こっちは私の娘のネネです。ネネも晶ちゃん達にご挨拶して」

お母さんが私の背中を押し、晶の前に出させられる。

間近で見ると睫毛が長い事が分かった。

「可愛い…」

思わず心の声が漏れてしまい、慌てて口を押さえる。

晶は目を点にさせるが、すぐに声を漏らしながら笑い出す。

「ふふっ、ありがとう」

「ご、ごごめんなさっ!!わわっ…、私はネネです。よろしくね?あ、晶ちゃん」

「うん、よろしく」

運動場を走った後みたいに、心臓の動きが速くなった。

この瞬間、ただ挨拶を交わしただけなのに。

私は無意識のうちに晶の事を好きになってしまっていた

学校に行く時も一緒、クラスは別だったから放課になったら会いに行くのが日課になった。

晶は誰も近寄らせないオーラを放っていたけど、私の顔を見た途端になくなる。

晶が私には心を許してくれているのだと実感する時だ。

晶は可愛いだけじゃない。

王子様みたいに私をエスコートしてくれる。

転びそうになった時も、私が転ぶ前に手を引いてくれたり。

自然に車道側を歩いてくれて、歩道橋を登る時は手を差し出してくれたり。

同世代の男の子よりも男の子でカッコイイ。

私達の関係は6年生になってからも変わらず、変わっ事は何一つない。

「晶て、可愛いよりカッコイイだよね」

「まぁ、女の子っぽくはないな。スカートよりもズボ
ンの方が好きだしな」

「ふふっ、似合ってるから良いじゃない」

「ネネがそそっかしいから、私が守らないといけねーだろ?ほら、また転びそうになってる」

階段の段差で躓きそうになった私の体を支え、意地悪な顔をして笑う。

晶は私の手を握り、前を扇動して歩き出す。

ねぇ、晶。

私が晶を好きな事を晶は気付いてる?

友達としてじゃなくて、1人の人間として、恋愛感情で好きって事を。

告白なんてしたら、晶は私の事を気持ち悪がる。

この思いを告げてしまえば、今までの時間が関係が終わってしまう。

「そう言えば、ネネの目って他の奴と違うよな」

「え?」

晶の突然の言葉に、私は我に帰る。

「いや、真っ黒で珍しいなって。カラコンとか入れてる訳じゃねーだろ?」

瞳の事を言われ、額から冷や汗が流れ出す。

晶に1つだけ内緒に、言っていない秘密があった。

それは、私の瞳がJewelry Pupil(ジュエリーピューピル)と呼ばれる特殊な瞳と言う事。

私を産んだ時に不思議がった両親は、医者に診察を求めた。

その結果、私の瞳がJewelry Pupilと分かったのだが。

お母さんのお腹の中にいた時、つまり私が出来た直後だ。

どうやら成長して行くにつれ、遺伝子が突然変異したとそう。

突然変異には、遺伝子レベルの突然変異と染色体レベルの突然変異がある。

遺伝子レベルの突然変異は、染色体の見かけの変化は変わらないが、遺伝子自体の変化によって起こるもので、塩基の置換や欠失、挿入などがあげられる。

染色体レベルの突然変異は、染色体の数や構造上の変化によって起こるそう。

Jewelry Pupilを持つ子供は、遺伝子の問題によって稀に生まれて来てしまうらしい。

「良いかい?ネネ。誰にも瞳の事を言ってはいけないよ」

お父さんに口酸っぱく言われ続けた言葉だ。

私はその言葉をずっと忠実に守り続けて来た。

理由は、Jewelry Pupilが裏組織の人達から人気があるから。

お母さんとお父さんは私を守りたいから、私が
Jewelry Pupilだって周りの人達には言っていない。

2人の気持ちが分かっていたから、私もそうして来た。

だけど、晶に秘密にしているのは心苦しかったのが本音。

晶には言っても良いかな…。

あ、気持ち悪い瞳って思ってたのかな…。

「気持ち悪いって思ってた…?」

そう言って、恐る恐る晶の反応を伺う。

だが、晶は私の顔を見て笑い出したのだ。

「その逆だっつーの。綺麗な黒だなって思ってたんだよ。まぁ、ネネは元が良いからなって話だ」

「え、え!?急にどうしたのー!!そんな事を言い出して」

「いや、ふと思っただけだ。何?照れてんの?」
 
「も、もう!!」

やっぱり、晶はそんな事を思う人じゃなかった。

晶には私がJewelry Pupilだって言おう。

私の事を裏切らないって、確信したからだ。

ずっと続くと思っていたが日常が、最も簡単に壊れるものだと知らなかった。

晶にJewelry Pupilだと言う決意をしてから数日後。

謎の発熱に襲われ、自室で寝ていた時の事。

「うぅ…、頭痛い…。もう3日も熱が下がらない…」

病院に行っても風邪じゃないと言われ、原因が分からなかった。

ただ、解熱剤を飲んで安静にするしか出来なかった。

晶に熱が移らせないように会わないようにしていた。

あぁ…、メールのやり取りだけじゃ足りないよ…。

スマホを持ち、晶とやり取りしたメールを見返していた時。

「お前の大事な娘が殺されるぞ」 

ズキンッ!!

お爺さんの声が私の脳内に響き渡り、同時に強い頭痛がしたのだ。

「な、何…?なんなの…っ?」

「ネネ、私の予言は必ず当たるぞ。お前のJewelry Pupilとしての力を解放しなければならない」

「貴方は誰…っ、なの?どうしてっ、私がJewelry Pupilだって知って…」

「お前の持つJewelry Pupilの力とでも言おう。お前がJewelry Pupilだと知った者達が夜襲を仕掛ける。晶と言う娘とお前を間違えての犯行だ。晶の容姿だけを見ての判断だろう」

私と間違えて晶達を襲いに来るって…?

今、そう言ったの?

このお爺さんは、私の持つJewelry Pupilの力だって言ったよね。 

「本当なの…?本当だとしたら、晶は殺されちゃうの?」

「お前の行動次第で未来が変わる。今、その者達が行動を起こしているのだ。もう、数分後に起こる未来だ。お前の家族は隣の家にいるだろう?」

お爺さんの言っている事は当たっていた。

今まさに、お母さんとお父さんは晶の家に行っていた。

親戚から届いた大量の野菜を届けにだ。

数分後に起こる未来って、本当なの?

重い体を起こし、カーテンを開けて晶の家を覗く。

その時だった。

闇夜と同じ色の車が2台、晶の家の前に止まったのだ。

「嘘…でしょ?」

車から降りて来た人達は、如何にもヤクザって感じの人達だった。

嘘、嘘嘘嘘!!!

どうしよう、どうしようっ、どうしよう!!!

声のお爺さんの言っている事が当たってる。

ヤクザ風の男が1人、晶の玄関の呼び鈴を押したのだ。

残り数人は、鉄バットや物騒な武器らしきものを手に持っている。

この人達は私を捕まえる為に来たんだ。

晶は私と勘違いされて、殺されてしまうの?

「そんなの…、嫌だっ」

何度も床に足を付けながら、隣の部屋に急いで向かった。

私の隣の部屋は両親の寝室だ。

ゴルフが趣味のお父さんは、ベットの横にゴルフバッグを置いている。

ゴルフバッグを開け、ゴルフバットを手に取り部屋を出た。

階段から降りようとした時、段差を踏み外してしまった。

「しまっ…」

ドゴドゴドゴーン!!!

勢いよく階段から転がり落ち、思いっきり体を床に叩き付けられる。 

ゴンッ!!

叩き付けられた衝撃のまま、玄関のドアに体当たりしてしまった。

激痛と同時に口の中に生暖かい鉄の味が広がる。

「ゴホッ、ゴホッ!!」

ピチャッ。

咳をしながら口に溜まっていた謎の液体を吐き出すと、その正体が血だと分かった。

「はぁっ、はぁっ…。早く、行かないとっ…」

ふら付きながら玄関のドアを開けた瞬間、獣の遠吠え
のような悲鳴が聞こえた。

誰が聞いても悲痛な叫び声だと分かる。

近所の誰かが出て来てもおかしくない。

なのに、なんで誰も出て来ないの?

ブォォォォォォォ!!

「ぎゃぁあぁぁぁぁぁぁぁああ!!」

ドゴーンッ!!

外に出た瞬間、大きな暴風と落雷が同時に空から落とされる。

叫び声と雷の音が重なってしまい、近所の人達には声でなかったのだ。

周りに助けを求めるのは無駄だ。

「いやぁぁぁあぁぁ!!」

この声は…、お母さんだ!!

「お母さんっ、お父さんっ!!」

開かれていた晶の家の玄関から中に入ると、壮絶な光景が広がっていた。

玄関から廊下に掛けて、物凄い量の血が滴っている。

「おじさんっ、おじさんっ!!」

廊下で倒れている晶のお父さんの体を揺するも、反応は返って来ない。

背中には夥しい程の刺し傷があり傷口から今も尚、血が溢れ出ていた。

「ひっ…」

誰が見てもおじさんが死んでいる事が分かる。

ガッシャーンッ!!!

リビングの方からガラスが割れる音が聞こえ、走って向かう。

乱暴に開けられた扉から見えたのは、ヤクザらしき男が血を吐きながら倒れる瞬間だった。

晶が怖い表情を浮かべ、次々に男達の首元に向かって包丁を振り下ろす。

「晶っ!!」

私の声が聞こえてないのか、晶は私の方を見向きもしない。

「な、何なんだっ、このガキ!!」

「やべーって、マジで!!」

「さっさと死ね、死にやがれ!!死ね、死ね、死ね!!」

晶は叫びながら、男に殴られながらも包丁を突き立てた。

服も破かれていて、乱暴された痕跡もある。

「死ねぇぇぇ!!!」

晶の叫び声が血生臭いリビングに響き渡る。

リビングの白い壁は飛び散った血で赤く染まり、皮のソファーにも血がべっとり付着していた。

数人の男達の首元から今も尚、切られた傷口から血が突き出している。

「お父さんっ!!」

お父さんはお母さんとおばさんを守っている体制のまま、何度も顔を殴られた跡があった。

お母さんとおばさんは…。

2人は抱き合った状態のまま、額から血を流して倒れていた。

よく見ると、500円玉程の大きなの穴から血が流れている。

目を開いたまま、お母さんとおばさんは…。

知っている筈の晶の家のリビングなのに、知らない異
様な部屋にいる気分だ。

「こんなの嘘だ、嘘だ!!嫌だ、いやぁぁぁぁ!!お母さん、お父さんっ!!」

持っていたゴルフバットを床に落とし、その場で泣き崩れた。

私の所為で、私の所為で死なせてしまったんだ。

晶の家族も私の家族も、殺されて…。

「ネネ」

「あ、晶っ…」

「お前、Jewelry Pupilなんだってな」

「晶…」

返り血塗れの晶が正気のない瞳で私を見つめる。

ゾッとしてしまった。

晶がやった事は正当防衛だって、頭では理解出来てるの。

体の震えが止まらない。

晶の今の姿が…、私の知ってる晶じゃなくなっていた。

いつも私を見つめる優しい眼差しは?

どこに行ったの?

「コイツ等、私をネネだと勘違いして襲いに来たんだって。最初は私のお父さんがね、コイツ等の仲間の1人に刺されたの」

「あ、晶…」

「コイツ等、やめてって言ってもやめなかった。お母さんとおばさんの頭を銃で撃ったの。おじさんは私の事を守ろうとしてくれたんだけど」

「や、やめてっ!!」

私は両耳を押さえながら、晶の話を遮る。

ズキンッ、ズキンッ、ズキンッ、ズキンッ。

激しい頭痛と一緒に、お爺さんが声が聞こえる。

「お前がここに来た事によって、お前と晶との縁が切れた。命は助かったが、お前の事を前と同じように思えなくなっているだろう」

そんな事、言われなくても晶の目を見れば分かるよ。

私の事を冷たい目で見てるんだから。

「やめてって、何でだよ。お前の所為で、こんな事になってんだろうが!!」

晶の怒鳴り声を初めて聞いた。

私に向けての怒鳴り声が、頭の中に響き渡った。

「っ…」

「お前が私のお母さんとお父さんをっ…、殺したんだ。お前が来たって、何も出来ない癖に。のこのこ来やがって、警察に連絡しようとか思わなかったのか。誰かに助けを求めようとかも思わなかったのか」

そう言われて、ハッとした。

確かに、晶に言われるまで気付かなかった。

何故、通報しようと言う考えが浮かばなかったのだろう。 

私1人で何が出来ると言うのだ。

「ご、ごめんなさ…。晶が、晶が殺されちゃうって思って…っ」

「お前、コイツ等がここに来るって知ってたのか」

「そ、それは…」

「いつから知ってたんだ」

「あ、晶」

ガッと勢いよく私の服の胸ぐらを掴んで立たせた。

「いつからだって聞いてんだよ!!テメェ、前から知ってたのか」

「違う、違うよ!!晶が思ってるような事はないよ!!」

「じゃあ、今さっき知ったと。そう言いたいのか、テメェは」

「お願いだから、信じてよ…っ、晶!!」 

晶の反応と返答を見るのと聞くのが、すごく怖い。
 
「お願いだから、私の言葉を信じてよ」

「…」

私の言葉を聞いた晶は、乱暴に胸ぐらから手を離す。

「消えろ。二度と私の前に姿を現すな」

「そんな…っ、私を恨んでるの?晶、ねぇ…っ!!私は晶の事が…」

「聞きたくねぇ、お前の言葉は」

「嫌だ、嫌だよっ!!晶から離れたくないよっ。お願いだから、そんな事を言わないでよ!!」

晶の腰に抱き付き、みっともなく懇願する。

嫌われたくない、捨てられたくない。
 
この2つの思いだけで、私はみっともなく足掻いた。

だが晶は私の顔を見る事はなく、何も答えてくれなかった。

ウゥゥゥゥーッ!!

外からパトカーのサイレン音が聞こえて来る。

近所の誰かが通報したのだろう。

晶は自分の腰から私の体を乱暴に引き剥がす。

「次、現れたら殺す」

「っ…、晶っ。もう、本当に私の事を嫌いになったの?」

「あぁ、今はお前を殺したくて仕方ねぇよ」

「無事ですか!!!」

晶が答えた瞬間、警察官数名がリビングの中に入って来た。

私と晶は警察官の人達に保護される事になったのだが…。

翌朝、晶は姿を消した。
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